[ヨーロッパ−近世・近代]
イギリスの技術者であり、蒸気機関を改良し世界中に普及させた立役者。
スコットランドで船大工兼貿易商の子として生まれ、
数学の才や器用さを発揮し機器製造の職人となった。
当初グラスゴーで開業しようとしたが、
修養年限を満たさないとしてギルドに却下された。
しかしグラスゴー大学の天文観測機器を調整したことで教授の知遇を得、
大学内で工房を設けることに成功した。
その後教授を通して蒸気機関の存在を知り、
独自の模型や大学が所持していたニューコメン機関の模型の修理によって研究を進め、
熱の大部分が蒸気ではなくシリンダの加熱によって浪費されていることを突き止めた。
ワットは復水器を分離することでより効率の優れた機関を設計することに成功したが、
実用機関の製作には資金や熟練職人の調達で苦戦させられた。
最終的には実業家のマシュー=ボールトンの協力を取り付けて会社を立ち上げ、
実用機関の完成にこぎつけた。
ワット機関は早速鉱山で揚水ポンプとして使われ、
さらにピストンの往復運動を回転運動に変換する機構を開発することで
ポンプ以外の工場の機械にも使用できるようになった。
ただし当時はボイラーの技術が未成熟で圧力が上げられず、
より高効率な高圧機関が作られるのはワットの引退後であった。
ワットは蒸気機関以外にも複写機の発明にも成功し、
また引退後にも死去するまで
距離の計測装置やランプは改良など数々の発明に取り組んでいた。
ワットは蒸気機関の発明者ではなかったが、
機関自体の大幅な改良と往復運動の回転運動への変換により、
揚水ポンプ以外の種々の用途に使用できるようにしたことで
動力革命を引き起こした第一人者であった。
ワット機関は先ず紡績などの工場の機械に用いられ、
後には蒸気機関車や蒸気船などの交通機関にも用いられ
陸海の輸送にも革新をもたらした。
さらに動力の概念と測定方法の確立という物理・工学上の業績もワットのものである。
その業績から国際単位系で動力・仕事率の単位として
W(ワット)が用いられることになった。