『経済学と景気対策』

現在の不況を踏まえ、不況に強い社会システムを構築できないか考えていました。 『初心者のためのやさしい経済学』(松崎公義・山澤光太郎共著,東洋経済新報社発行)を読んで、経済学的観点から不況対策を考えた所感です。


【経済学と景気対策】
 市場のメカニズムは、「神の見えざる手」によって価格調整等が行われ、政府の関与なしに正常に機能する。アダム・スミスが提唱した理論ですね。 しかし、完全な市場経済はありえません。市場も失敗をします。その市場の失敗に対して政府が経済活動に関与する根拠が導かれると説きます。 そして、新古典派などは、不況は一時的なもので、市場の価格調整は速いから、待っていれば景気は回復すると主張します。従って、 ミクロ経済学を中心として理論を構築します。不況対策は考えないのですね。

これに対し、ケインズ派は、神の見えざる手は遅いので、不況からの脱出には長い時間がかかり、回復までの間に政府が対策をとる必要があると説きます。 すなわち、ケインズ経済学は、「不況のときに政府は何をすべきか」を問題意識の出発点とし、主にマクロ経済学を中心として理論を構築します。

 私としては、先ず、資本家が如何に市場に投下した資本を回収して社会に分配するかを考察するため、ミクロ経済学の企業理論(いかに企業は儲かるか)を読みましたが、 的を得た回答を求めることができませんでした。残念です。次に、不況対策を効果的に行うには如何にあるべきかを考察するため、マクロ経済学の部分を読みました。 そこで、ケインズは、公共投資によって雇われた失業者は、所得の増加に伴って短期的にその所得を消費するだろうから景気は良くなると考えました。 しかし、「ライフサイクル仮説」により、その理論は否定されます。つまり、人々は将来のライフサイクルを見込んで消費するであろうから、短期的に所得が増加しても、 景気回復は望めないとの反論が出ました。 現役時代に生涯所得を稼ぎ、老後に貯えを使うというライフサイクルが消費を決めるということです。うむ。これはなるほどと思います。 政府が、一時的に企業・労働者に財政援助や減税を実施しても、その効果は薄いという結論が導かれます。

では、新古典派の主張するように、景気循環のサイクルを期待して景気が回復するのを待つしかないのでしょうか。

否、持論では、「ライフサイクル仮説」は、老後の生活を政府が保障するシステムを構築すれば、克服できると考えます。 老後の生活が保障されれば、短期的な所得の増加があった場合、安心してそれを消費に回すことができます。 そして、資本家は、不況下にあっても市場に投下した資本を回収でき、景気は回復する方向に向かいます。

そうであれば、不況下でも消費を喚起して経済を再生できるというケインズの理論に説得力を持たせることができます。

要するに、「ライフサイクル仮説」を打ち破って、政府が老後の生活を保障し、個々人の所得を消費に回すことができれば、 不況を早期に脱出することができる。そのシステムの提案をする責務が、政府に課せられている。そう思うのです。



- 2010/01/21 written by kazkaz -