−「人口論から考える社会経済政策」−
小さな国家論
ダーウィンの進化論を考察するために「科学の危機」を読んでみた。
ダーウィンの進化論は「種の起源」で有名である。 全ての生物が創造主によって生み出されていたと考えられていた時代に、「生物は、偶然が引き起こす変化によって誕生する」 という前例の無い理論を打ち立てたのである。
ところで、この進化論の是非はさておき、私は、ダーウィンの進化論の契機ともなったイギリスの経済学者・マルサスの著書 「人口論」に注目した。
マルサスは人口論の原理として、基本的な二個の自明である前提を置くことから始める。
- 第一に食糧(生活資源)が人類の生存に必要である。
- 第二に異性間の情欲は必ず存在する。
この二つの前提から導き出される結果として、マルサスは人口の増加が生活資源を生産する土地の能力よりも不等に大きいと主張し、 人口は制限されなければ等比級数的に増加するが生活資源は等差級数的にしか増加しない、という命題を示す。
この命題から、人口の増大が限られた資源を圧迫していき、究極的には人類滅亡などの恐るべき危機が訪れる。 これを回避するためには「悪徳と貧困」による人口減少効果に頼るしかないと主張した。 そして、「慈善行為は単に破滅的な過剰人口を引き起こすだけである」と主張する。
平和社会・福祉国家思想が提案される以前は、病気や飢餓や戦争等によって人口は抑制された。 これが「悪徳と貧困」による人口減少の効果として機能した。しかし、平和社会・福祉国家思想を標榜する時代にあって、 慈善行為である生活保障制度の実現は、人口増加を助長する傾向にある。
機械がオートメーション化され、極端なコストカット主義を追求する資本主義体制は、多くの失業者を生んだ。 その結果、社会保障の対象者は増加した。しかし、これを回避するために、社会保障制度を排除して、 「悪徳と貧困」による人口減少を是とする時代ではない。その意味で人口論は否定されなければならない。
しかしながら、一方で、子供の人口は減少している。政府は少子化対策案として、子供の増加(人口増加)を 社会政策として推進している。資本主義が成熟した現代社会。仕事の無い社会の到来が予想される。 そのような社会で子供が成熟しても、働く環境はない。現役世代が働いて高齢者を支える社会という理論は既に破綻しているのである。 その意味で、子供手当て等の政策は、将来政策としては妥当ではないことになる。 却って、その財源を使って、高齢者が働いて自給できる労働社会を形成することが肝要である。
そして、今後の将来像としては、人口増加を抑制し、労働市場と経済市場が均衡する「小さな国家」(小さな政府ではない)を 構築していくことが重要であると考える。
その意味では、経済成長を追及し、小さな政府,大きな社会を実現するという思想は間違った理想像であると考える。
私は、決して福祉国家・社会保障を否定している訳ではない。憲法25条が規定する生存権の保障は極めて重要である。 しかし、その財源を確保するためには強い経済社会を実現する必要がある。強い成長する経済が構築されれば、 失業人口が増加してもその社会保障の財源は安定して供給できる。 しかし、そのような経済成長の見通しは極めて暗い。 経済が縮小して今以上に失業者が増加し、その社会保障の財源が尽きたとき、国家は破綻する。 それを回避するためには、社会全体を小さなものとする。 即ち、労働力と経済市場が均衡し最低限の社会保障システムを有する社会, 所謂「小さな国家」を形成することが重要であると考えるのである。
小さな檻の中に閉じ込められた動物のように、生きることだけが保障された福祉国家に未来はない。 誰もが生き生きとした生活を送れる社会の実現を願うのである。