−「人事院勧告見送りは憲法違反であるか…。」−
人事院勧告の見送りは給与交渉権の無い国家公務員の労働基本権を侵害して違憲であると人事院は主張するが・・。
政府は25日、国家公務員給与を平均0・23%引き下げるとした2011年度人事院勧告(人勧)の実施見送りを決めた。 東日本大震災の復興財源を確保するため、国家公務員給与を平均7・8%減らす給与削減法案の今国会成立を優先させたものだが、 自民党は人勧見送りを問題視しており、同法案の成立の見通しは付いていない。 野田首相は25日夜、首相官邸で藤村官房長官、川端総務相、民主党の前原政調会長と会談し、 給与削減法案を早期に成立させる方針で一致した。<中略> ただ、国家公務員は労働基本権が制約され、給与水準を政府側との交渉で決めることができない。 政府は人勧を労使交渉に代わる措置として尊重してきたため、人事院は「無視するのは憲法上問題だ」と主張している。 自民党の石原幹事長も「ある意味、憲法違反だ。(削減法案が)人勧を含むという見解は通らない」と批判した。( 読売新聞)
人事院のような独立行政委員会は、アメリカで発展した制度であり、政治的中立性が望まれる行政事務を大統領から独立で行う ことを目的として制定された機関であるが、内閣制度の伝統を持つ日本にはなじまないとされ、 戦後制定された機関で残っているのは人事院と公正取引委員会だけである。憲法上規定された機関ではない。
逆にこの人事院等の独立行政委員会は、内閣から独立に職権を行使するため、 その行使につき憲法原則に反するのではないかと問題視されたが、 この件は、独立行政委員会が直接国会に責任を負う体制になっていれば内閣の責任を介さなくても 国会によるコントロールは受けることになるから、必ずしも憲法違反にはならないと解されている。
ところで、人事院からの公務員の給与の引き下げ勧告を内閣が見送り、 別途公務員の給与削減法案を国会に提出して成立させることは、人事院や自民党の主張するように、憲法違反なのであろうか。
この点について考えてみると、人事院は憲法上制定された機関ではなく、 長らくその勧告が内閣・国会によって尊重されてきたとしても、法令上その勧告を絶対的に尊重すべき理由はない。 即ち、独立行政委員会の行政行為も、特別な場合は政府・国会のコントロールを受けるのであり、 絶対的決定機関ではないことに留意すべきである。
この点から考察すると、国家の危機的財政状況の下で、国家公務員の給与だけを特別に独立行政委員会の管理下に置くことは、 国家の行政権の行使としては妥当ではない。このような場合に、内閣・国会がこの人事院勧告を受け入れずに、 それに代えて別途給与削減法案等を制定しても、人事院の行政行為を侵害するものではなく、 行政権のコントロールの正当な帰結として憲法上の問題はないと解される。
この点、人事院は、人事院勧告(意向)を受け入れず、政府・国会で給与引き下げを規定することは、 給与交渉権の無い国家公務員の労働基本権を侵害して違憲であると主張するが、人事院勧告も、 時代の要請に即した妥当な勧告でなければならないことを考慮すると、 国会でのコントロールを受けて適切な範囲内で別途給与削減法案を規定して 妥当な給与水準に引き下げることは甘受しなければならないと解する。 国家公務員の人権を考えることも重要であるが、現在の国家の財政危機を招いた張本人は国家公務員である。 彼等の待遇・意見を尊重するよりも、国家の財政危機を招いた国家公務員にその責任を取らせることは、正義に適う。
成果主義の世界において、法規範に守られている国家公務員の給与をそれに見合った額に減額することは成果を尊重する立場からは 到って正当である。権利を主張するのであれば、義務を履行することが重要である。国家公務員は、明らかに義務を履行せず、 国家から膨大な不当利得を得ていると考える立場からは、義務を履行した上で権利主張をして下さいと思うのである。 自民党の石原幹事長の「ある意味違憲」というのは、理解に苦しむ。
そういうわけで、人事院勧告は見送りは、違憲と解することはできない。