-資本論から考える福祉国家論-

『福祉国家の実現に向けて』

現在の日本の格差社会を考察し、資本家の資本主義的所有を肯定しながら、富の分配を 行う福祉国家を実現できないか考えていました。『資本論』から哲学を学ぶ(牧野広義著,学習の友社発行)を読んで、マルクスの資本論から考えた福祉国家論です。  なお、国際競争で労賃を抑えるため、各企業が海外進出を行っていることは無論承知した上で 述べています。


【資本論から考える福祉国家論】

資本主義的所有制度では、労働者は労働を提供する他、所有を得る手段はない。

資本主義的所有制度は、労働者に労働と労賃を提供することで資本家に是認される所有制度であると考える。

資本主義的所有制度が究極に達すると、資本家は労賃を究極に抑えるため、海外に工場を移転して利益を得る。 その結果、国内では労働市場がなくなり、労働者は失業し、労働による対価を得ることができなくなる。 すなわち、海外工場を許容する資本主義的所有制度では、労働者の労働市場を奪い失業を助長するという結果をもたらす。 それを抑えるためには、国内企業の海外工場操業を規制して国内工場建設により労働市場を確保するか、 海外工場を操業する企業に対し、国内企業よりも割り増しの課税又は海外工場税を課し、それを福祉税として国家に還元させる手段が考えられる。

つまり、国民に対する労働市場の提供を義務付けるか、それに変わる課税を課すことが必要である。

 具体的には、
1)海外で操業する企業には、国内企業の2〜3倍又はそれ以上の課税を課す。
2)また、例えば工場適正配置法を制定し、国内工場の地方分配を義務付け、地方活性化を図る。

また、技術革新により国内企業でも工場の自動化で労働に従事する市場が極端に低下している。 この場合には、一定以上の規模を有する企業に、やはり福祉税を課し、国家に利益を還元させる。

すなわち、資本主義的所有制度を肯定する国家に属する企業には、その所有の恩恵を社会・国民に還元することが理にかなうものだと考える。

労働市場を海外に置く場合には、その代償を企業に提供させるべきである。

海外での工場操業の規制や課税に関する経済的根拠は、企業の利益は国民所在の共存共栄の理論に基づき得られるものであって、それに違背する利益は、国家保護政策及び福祉施策として国家に還元されるべきであり、法制化されるべきであると考える。

 

富は富を生むが、富を社会に分配し、貧困を蓄積させない福祉国家を実現することが、資本主義的所有制度を是認するものと考える。
 ただし、企業に課税しても、労働市場を確保することはできない。

福祉国家で、新たな労働市場を開拓していくことが、国家及び企業の責務であり、今後の課題であると考える。


蛇足であるが、一時期、小泉元首相によって、自由放任主義を基調とし、社会保障や教育などの財政支出の抑制、規制緩和、 民営化や法人税減税による企業活動の活性化を推進するハイエクの小さな政府施策が提唱されたが、社会保障の切り詰めなどを行うことが間違いであることは 現在の格差社会を考察すれば、明らかである。

政府のスリム化は重要な課題であり、そのスリム化された政府主導の枠組みの中で、有効な経済施策を実行し、雇用・社会保障問題を適正に解消していくことが国家及び企業に求められていると思う。


※)資本主義的所有制度とは、簡単に言うと、労働者から搾取した剰余価値を資本家に帰属させることを肯定する所有制度である。



− 2008/05/04 written by kazkaz −

※)蛇足を追加しました。(2008/05/13)
※)共存共栄の理論を追加しました。(2008/10/24)