研究室のドアを開けたアレルヤはロックオンの姿を認め、微笑んだ。
「あ、お疲れ様です、ロックオン、とティ……?」
ロックオンは人差し指を唇に当てて笑って見せる。その隣にはロックオンにもたれて、ティエリアが目を閉じていた。アレルヤは音を立てないように自分の席に腰を下ろす。そして端末を起動させながら、声を落として口を開いた。
「……珍しいですね」
ロックオンにもたれているティエリアの白い頬には睫毛の影が落ちている。閉じられた目蓋はちょっとやそっとでは開かれなさそうだった。寝顔はあどけなく、ティエリアの何時もの硬質な印象はかけらも無い。
「徹夜で、カタギリ先生から頼まれたプログラム仕上げたんだと。……急がない、って言われてたのに意地っ張りだから」
そう言ってティエリアを見遣るロックオンの眼差しは柔らかかった。
「……あれ、そしたらメール添付で送って家で寝てれば良かったんじゃ……あ、講義があったのかな?」
ロックオンはキィボードを叩きながら微かに笑う。
「今日は講義は無いそうだ」
「じゃ、何で」
メールを確認し、メモリスティックに実験に必要なデータを移しながらアレルヤが問うと、ロックオンはティエリアの頭を撫でながら言った。
「俺もそう言ったんだけどさ、変に目が冴えて眠れない、ってここに来てから……この通り」
……ああ、そうか。
わざわざ出てきたティエリアの意図が、気持ちが分かった気がしてアレルヤは唇の両端を引き上げる。
「可愛いですね」
「だろ?」
ロックオンは盛大に惚気て見せた。アレルヤは何も返さず笑い、端末を終了させる。
「ん、何だ、今日はもう帰んのか?」
「いえ、今から実習場に行こうかと。今日はそのまま帰ります」
……邪魔しちゃ悪いし。
本当は実験結果の検証をしてカタギリに見て貰おうかと思っていたのだが、アレルヤは予定変更することにした。
「そっか、お疲れ」
「お疲れ様でした」
メモリスティックを仕舞い、アレルヤは出口に向かう。研究室を出て振り返ると、ロックオンはティエリアの体勢を直してやっていた。そのこわれものを扱うかのような優しい仕種に、アレルヤはドアを閉めながらこっそりと微笑んだ。
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