「……ハネムーン・サラダだな」
レタスを千切るロックオンが呟く。ティエリアはレトルトのソースをパスタに絡める手を止めた。
「……は?」
この場に相応しくない単語にティエリアは眉を寄せる。
地上待機になった無人島で夕食を用意していた時のことだ。後方支援機であるヴァーチェとデュナメスのパイロットである二人で残ることは珍しいが、全く無い訳では無い。
ロックオンはレタスを入れたざるを振って水気を切る。そして棚からサラダボウルを取り出した。
「レタスだけのサラダのことを”ハネムーン・サラダ”ってんだよ」
「何故です?」
ロックオンは小さく笑い、サラダボウルにレタスを盛り付ける。
「"lettuce only"の音が"let us only"に通じるからってさ」
「くだらない……」
皿にパスタをよそいながらティエリアが切り捨てると、ロックオンはからからと笑った。
「だな。蜜月って称するには程遠い飾りの無さだ」
ロックオンはレタスに塩と胡椒をかけ、サラダボウルをテーブルに置く。
「そうではなく……貴方はそういうことをよくご存知ですね」
「ん?」
「雑学というか、生きていくのに必要ではない知識だ」
冷たく振り下ろされた口調にロックオンは微笑んだ。
「そう言われると身も蓋も無いな」
嫌味をまぶした言にもロックオンは笑顔を崩さない。微かな苛立ちと共にティエリアは席に着きフォークを手にする。
「だけどさ、無駄の無い人生なんてつまらんだろ」
ティエリアの向かいに腰掛けたロックオンが言うと、ティエリアは皿から顔を上げずに返した。
「ミッションには不必要だ、と申し上げているのです」
そうだなあ、と呑気に呟くロックオンにティエリアはますます苛々する。思わず皿の中を掻き回すと、こら、とロックオンから咎められた。
「食い物に八つ当たりすんのは止せ」
「大きなお世話です」
気にせずフォークを口に運ぶとロックオンはため息をつく。
「腹立てながらメシ食うと消化に悪いぞ」
「え、」
「ちゃんと食わねえと任務にも支障が出るかもしれねえし?」
顔を上げるとロックオンは意地悪く笑っていた。
……本当に、腹立たしい!
刹那・F・セイエイもアレルヤ・ハプティズムもマイスターとしての資質は疑いたくなるものだが、ロックオン・ストラトスほどティエリアを揺らす言葉を吐かない。その点において、彼らが恋しかった。
「貴方が……要らぬことばかり言うからでしょう」
「食卓を少しでも楽しくしようって気配りだよ」
「それならば黙っていて頂けませんか、ロックオン・ストラトス」
ロックオンは両手を挙げて、肩を竦める。ティエリアはため息をついて、食事を再開した。食べながらこっそりとロックオンを窺うと、既に食事を終えている。
……食事が終わったのなら去ればいいものを。
しかし、ティエリアの要望通り沈黙を守っているのでそこまでは告げなかった。サラダまで食べ終えるとそれを見計らったかのようにロックオンが口を開く。
「お、食ったか?」
「ええ……片付けは私が、」
追い払いたくてティエリアが言おうとすると、ロックオンは構わず続けた。
「……まあ、合ってたかな」
「え?」
ロックオンは一瞬サラダボウルに視線を落とし、片目を瞑って見せる。
「俺としては」
「―――はあ?」
気障ったらしい仕種に眉を寄せると、ロックオンは微かに笑い、食器を持って行ってしまった。言葉の意味を吟味していたティエリアは、先ほどの会話を思い出し、更に苦虫を噛み潰したような顔をする。
……馬鹿馬鹿しい!
私達だけにして、なんて。
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