ブリーフィングル−ムを出た途端、小さくくしゃみをしたティエリアにロックオンは笑う。そして綺麗な発音で続けた。
「God bless you.」
そのセリフにティエリアは顔をしかめる。が、直ぐに意地悪く唇を歪めて笑った。
「神のご加護を、なんて、随分と詩的なことをおっしゃいますね」
刺すような皮肉にもロックオンは笑顔のまま返す。
「ただの常套句だよ。……ま、俺たちには似合わねーけどな」
自嘲気味に落とされた言葉にティエリアは怪訝そうに眉を寄せた。何時も飄々としていて人当たりの良い彼の、珍しい態度に思わず問う。
「貴方は……神が居ると思っているのですか」
「……神は、存在を議論するものじゃないだろ」
ティエリアは訳が分からない、とでも言うようにますます眉間の皺を深めた。壁に寄りかかって腕を組んだロックオンは深紅の瞳を見据えて告げる。
「信じるものであって、存在の有無は問題じゃないと思うぜ。信じる人間には居るんだろうさ」
「……その言い方だと、貴方は信じていないように聞こえるが」
くくく、とロックオンは咽喉の奥で笑い声を立てた。
「さて、どうだろうな―――気になるか?」
柔らかく細められた翡翠色の瞳に、揶揄われている、と思ったティエリアは唇を引き結んだ。視線を逸らし吐き捨てる。
「……なる訳が無いだろう」
「そうか。ああでも、」
ロックオンはティエリアに手を伸ばした。グローブを着けた手がティエリアの頬に触れる。
「風邪ひかねえようにしろよ」
乾いた音を立てティエリアはロックオンの手を払った。その頬は赤く。
「そんなこと貴方に言われずとも分かっている!」
「でも顔赤いぞ」
「……ッ! 失礼する!」
ティエリアは肩を怒らせてロックオンに背を向ける。背後からくつくつと笑う声が聞こえてきて、ティエリアは足を速めた。消すことが出来ないと分かっていて頬をこする。一度熱くなった頬はなかなか冷めてはくれなかった。
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