小田北生涯学習プラザで集会
2005年4月25日、「JR尼崎脱線事故」が発生し、107人が死亡し、562人が負傷した。この事故から14ヵ年を迎え、6月8日、事故被害者や遺族、国労の組合員で作る「ノーモア尼崎事故、生命と安全を守る集会実行委員会」の主催で、尼崎現地での集会と事故現場への追悼デモ・献花行動が取り組まれた。この日の闘いには、「反戦・反失業を闘う釜ヶ崎労働者の会」の仲間も結集した。
この日の集会は、午後2時から、JR尼崎駅近くの小田北生涯学習プラザで開催された。司会に起った実行委員会の仲間は、「事故から14年が経ちました。JR西日本は、事故現場を『祈りの杜』という名前に変え、事故現場を隠すような造りに変えています。JR西日本は、発足から30年を過ぎ、事故を知らない世代も増えています。私たちは、次の世代に事故を伝えていくために、この集会を開催しました」と、集会の目的を提起した。
集会基調は、「JR西日本は、発足当初五万1300人の社員からスタートしたが、昨年は2万9870人となり、この30年間で約四割の要員削減を強行している」「昨年4月には、『中期経営計画2022・鉄道安全考動計画2022』をスタートさせ、さらなる人員削減を推し進めている」「駅職場では、『みどりの窓口』などの閉鎖を強行し、京阪神地区の180駅にある『みどりの窓口』を2030年には、30駅に減らそうとしている」「人件費削減と安全軽視、サービス切り捨てが強行され、人身事故対応・車両故障・踏み切り遮断棒折れなどの異常時対応は、ますます少数となる社員に過重労働を強い、運行の遅れは放置されている」「2015年に鴫野駅下りに新ホームが開設されたが、カーブ駅のために1年半で隙間転落が21件も発生している。しかし、JR西日本は、『ホーム要員を終日配置する考えは無い』と交渉で回答している」「尼崎事故現場周辺は、『祈りの杜』として整備された。列車が衝突したマンションは、列車が衝突した側の4階部分までだけを残してほとんど解体され、高い木々がマンションを隠すかのように植樹され、まるで街中の公園のように見える。JR西日本は、『整備』と言うが、世間から隠し、風化させることを狙っているとしか思えない状態となっている」「毎年、JR西日本が取り組んでいる『4月25日を迎えるにあたって』という社員研修では、伊丹駅でのオーバーランによって、『日勤教育』を課せられることを気にした運転士が、ブレーキをかける時機を逸して速度超過したことが脱線事故の原因になった事だけを強調し、なぜ運転士がそこまで追い込まれたのかという背後要因を明らかにしようとはしていない」「脱線の直接的な原因は、スピード超過だが、私鉄と競合する中での所要時間短縮や運転本数の増加など、利益を優先し、安全対策を二の次にしていたJR西日本の経営姿勢、『日勤教育』に象徴される労務管理などを軽視することを許してはならない」「遺族は、『人を殺せば罪に問われるが、107人が亡くなっても誰も罪を問うことが出来ない』と、納得できない状態が続いている。重大事故の再発防止や未然防止のためには、徹底した事故調査と共に刑事裁判において、事故を起こした組織等が責任を問われ、罰せられるシステムが必要だと『組織罰を実現する会』の運動が進められている。私たちも『組織罰』の早期実現をめざしていこう」「関西生コン支部への不当弾圧阻止の闘いをはじめ、多くの仲間とも共闘し、事故の教訓を決して忘れず、首切り・民営化・規制緩和に反対する多くの労働者の闘いと連帯し、共に闘おう」。
事故現場への追悼デモと献花行動
記念講演は、「組織罰とは何か〜安全な社会を確立するために」というテーマで、「組織罰を実現する会」の事務局長を務める弁護士の津久井進氏が行なった。津久井氏は、「今の日本では、どんな大きな事故を起こしても、法人の刑事責任が問われることはありません。刑法に法人を罰する仕組みがないからです。しかし、『尼崎事故』や『福島第1原発事故』、『笹子トンネル天井板崩落事故』など、組織の事業活動において発生する大事故が、今も繰り返されています」「『尼崎事故』では、2009年に社長の山崎正夫が『業務上過失致死罪』で起訴されましたが、2012年に神戸地裁で無罪判決が出て、検察が控訴を断念したために、無罪が確定し、2010年には、JR西日本の歴代社長である井手、南谷、垣内が、神戸第1検察審査会の起訴議決を受けて、『業務上過失致死傷罪』で強制起訴されましたが、2013年に無罪判決となりました。この判決では、裁判長が、遺族に対して『刑事責任は個人を問うものだから』という異例の『説諭』を行なっています」「イギリスには『法人故殺罪』があり、『組織罰』がないのは日本くらいです。個人と組織の両方を罰する『両罰規定』は、『従業者個人が業務に関して違法行為をして処罰されるときに、法人にも罰金を科す規定。ただし、法人が必要な注意を尽くしたことを証明すれば責任を免れることができる』と規定されています。最高裁も、1965年に第2小法廷が、『事業主において注意を尽くしたことの証明がなされない限り、事業主もまた刑責を免れ得ないとする法意』としています」「組織の側に積極的な立証が促されることにより、安全確保に向けた平素からの努力が促進されると共に、真相解明にもつながっていくことが期待されます」と提起した。
その後、「安全問題研究会」の地脇氏が「JR北海道のローカル線廃止は地域消滅の危機」と報告を行ない、国労近畿地本の東氏が「JR西日本の安全問題―駅窓口縮小・更なる要員削減・安全軽視」という報告を行なった。
遺族からの訴えでは、毎年、集会に参加して発言している藤崎光子さんが登壇した。藤崎氏は、「去年の新幹線『のぞみ』の台車亀裂の件を見ても、JR西日本は、『尼崎事故』を教訓化していない」「JR西日本は、社員や関連企業の労働者が死亡したり、自殺する数がダントツに多い」「こういうことを見ると、JRは再国有化が一番良いんじゃないかと思う」「4月25日の事故発生日には、運転士が『事故を忘れず、再び起こさない』という決意を込めて汽笛吹鳴をやっている。しかし、JR西日本は、幹部を監視のために乗車させ、汽笛吹鳴をやらせないようにしている。JR西日本は、『祈りの杜』を作ったが、私には違和感があり、事故で死んだ娘に『安らかにお眠りください』という気にはならない」「安全は、平和でないと守れない。安倍は、自衛隊を強化し、改憲を狙っている。これを許さないために、あらゆる人が団結して闘って欲しい」と訴えた。
集会の最後には、JAL争議団、関西生コン支部が共に闘う決意を表明し、集会を終えた。
午後4時20分からは、事故現場への追悼デモが開始される。事故現場のマンションは、大半が解体され、残された部分は、植樹によって線路側からはまったっく見えなくなっている。JR西日本が、「尼崎事故」を「無かったこと」にしようとしているのは明白だ。デモと献花行動に参加した仲間たちは、JR西日本を弾劾し、利益優先、安全軽視によって労働者人民への犠牲を平然と強いる資本に対する闘いの決意を固め、この日の行動を終えていった。
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