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東北関東大震災被災労働者人民支援大運動を

機関紙「解放」読者からの投稿 (1221号8面)

                       高井未悠(東京在住)

 明仁が、「年を取って公務が大変になったから退位したい」と言い出した(正しくは、言い出したことになっている)。そもそも「公務」とは何か。

 憲法は、「天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権限を有しない」として、内閣の助言と承認によって行なえる10の国事行為を定めている。

 しかし、明仁と美智子は、昭和天皇が戦後すぐに始めた国民体育大会と植樹祭への「御臨席」に海づくりを加えた三大柱で日本中を顔見せ巡業することに加え、近年は「慰霊の旅」と称して怪しげな夫婦旅行を繰り返している。これ以外にも、デパートの催事や美術展、相撲観戦などにも「お出まし」になっていることが知られている(正確には、知らされている)。

 これらは憲法が定めた国事行為から完全に逸脱するものだが、何の根拠もなく「象徴としての地位に基づく公的行為」ということになっている。解釈改憲は、戦後すぐに始まったのである。

 しかも、この「解釈改憲公務」を誰がどのように決めているのか、国民には全く知らされていない。被災地などに「行きたいと強く希望された」と報道されるが、デパートの催事は? 美術展はどうなのか? 内閣は相撲観戦を助言したのか?

 明仁の公務は、今や529にも上るというが、誰がどのような基準でここまで増やしたのか。そのことも国民に知らせないまま、「御高齢で御公務に無理が」などと言うこと自体がおかしい。

             ◇           ◇           ◇

 おかしいと言えば、明仁の昭和天皇平和主義者論である。

 1989年1月、明仁は、昭和天皇を追悼する言葉の中で「在位60有余年、ひたすら世界の平和と国民の幸福を祈念され、常に国民とともに幾多の困難を乗り越えてきた」などと発言した。嘘(うそ)である。

 昭和天皇は、現在のマレーシアやインドネシアなどを日本の領土として重要資源の供給地にすることを決め、フィリピンのバターン半島などで苦戦している日本軍には「バタアン攻撃計画ハマダデキテイナイノカ」などと攻略強化を繰り返し促し、さらには特攻隊の実撃報告を受け、「体当リキハ大変ヨクヤッテ立派ナル成果ヲ収メタ。命ヲ国家ニ捧ゲテ克(よ)クヤッテ呉レタ」と喜んだ。敗戦が決定的になっても、国体護持にこだわり、御前会議で「今一度の戦果を上げてから」と白旗を揚げるのを渋った。このことで更に犠牲が拡大したのは周知の事実である。このどこに国民の幸福を祈念する姿があるか。存在するのは、人民の命を犠牲にして自身と天皇制の延命をひたすら願う極悪戦争犯罪人の姿である。それを平和主義者だったなどと言いなし、昭和天皇の戦争責任を隠匿する明仁は、歴史改ざん主義者以外の何者でもない。

 明仁は、イラク派兵の自衛隊員を皇居に呼んで「慰労」したほか、「自衛隊のイラク派遣は復興支援だ」と発言するなど、自衛隊や派兵の違憲をごまかす政治発言をしている。これ以上の政治行為があるか。このことだけでも明仁が平和主義者とか護憲派ということの欺瞞を知るに十分である。だからこそ、父親の罪を隠蔽するための「謝罪なき慰霊の旅」を平然と行なえるのだろう。

             ◇           ◇           ◇

 そして、今回の「生前退位」発言である。明仁の発言によって法律が制定されることは、どう言い繕っても政治を動かす発言であり、明々白々の憲法違反である。この指摘を恐れた明仁は、「現行の皇室制度に具体的に触れることは控えながら」などと言っているが、どう繕おうとその内容は紛れもなく天皇制の永存と強化を目指した政治発言である。狙いは、スムーズに代替わりをすることによって、天皇が国民統合、すなわち人心収攬の象徴的行為を切れ目なく遅滞なく積極的に行なっていくことで、人民の血税による生活を子々孫々まで営ませようというものである。

 この退位問題を天皇の意思という「個人問題」に修練させるのは完全な誤りということだ。天皇がお疲れか、おいたわしいかは、問題ではない。明仁の死期を天皇制の終期にさせる動きがどこかから吹き上げるのを徹底的に押さえ込むもくろみが、明仁を先頭に押し立てて進められているのだ。

 冒頭に「明仁が公務限界論を言い出したことになっている」と言ったのは、今回のもくろみが周到に準備された権力の謀略だからだ。安倍は、驚き困惑した風を見せる。みんなが恐縮し、静かに結論を出すのが正しいという空気を世間に広げる。市民たちは、大きな声を上げず、ひそひそと言葉を交わさなければならないことになる。国会も、喧々囂々侃々諤々の議論をしてはいけない。天皇陛下のお心を、これ以上痛めてはならないのである。明仁には「天皇の葬儀は大変なことになるので心痛の種だ」と言わせて、問題を大きく広げさせないことに天皇陛下も気を遣ってくださるという空気をまん延させる。すべては、象徴天皇制の温存を図る途方もない謀略である。その流れの中で、「滅私奉公をしろ、天皇のためには命を投げ出せ」という「教育勅語」を復活させる動きが出ているのだ。

 大騒ぎをしなければならない。現に進められている天皇退位論の翼賛運動を根底から突き崩すことが天皇問題に関する私たちの最大の課題である。