「有期労働契約」を固定化する「労働契約法」改悪
野田政府は、「労働契約法の一部を改正する法律案」(以下、「労働契約法」改悪案)を、7月26日午後の衆院本会議で可決し、参院に送付後の8月3日、午前の参院本会議においてわずか3時間という審議で民主・自民・公明などの賛成多数で可決・成立させた。「有期雇用契約の更新等(雇止めの制約ルール)」の施行日は8月10日、「期間の定めのない雇用契約や期間の定めがあることでの不合理な労働条件の禁止等」については8月10日より1年を超えない範囲で政令で定められるとなっている。
「労働契約法」は昨年12月、厚生労働省の諮問機関・労働政策審議会の「有期労働契約の在り方」についての「建議」を受け、本年3月、「労働契約法改正案」を閣議決定し、国会に上程された。
労働政策審議会は「建議」の冒頭で「有期労働契約」労働者の「雇い止め」への不安や処遇への不満に言及し、「有期労働契約の適正な利用のためのルールを明確にしておく必要が高まっている」とした。しかし、雇用の原則である「直接雇用」「無期限雇用」に反する「有期労働契約」そのものを規制する気なぞまったくなく、「(「有期労働契約が可能な)例外業務の範囲をめぐって紛争が多発する」「(有期労働契約を規制すれば)雇用機会の減少が懸念される」などといった資本の側からの「脅し」をあげつらった。結局、「建議」は「有期労働契約を、合理的な理由がない場合には締結できない」と締結事由を規制する措置(入口規制)はとらなかった。資本が恒常的な業務を臨時的な業務と偽って「有期労働契約」を締結し、1200万人にも及ぶ労働者に不安定雇用・低賃金・劣悪な労働条件を強制していることが「紛争」の原因であることは明らかであるにもかかわらず、それは不問に付し、容認したのが労働政策審議会の「建議」だったのだ。
このような「建議」を出させた野田政府は、国会に上程した「労働契約法」改悪案で「有期労働契約の反復・継続の上限を五年と定め、これを超える場合、本人が希望すれば無期雇用に転換される」とした。
「総非正規化」にむけた「多様な正社員」創出
2011年の「有期労働契約」に関する実態調査によると「有期雇用」労働者の雇用期間は3年〜5年が中心であり、改悪「労働契約法」の規定で救済される労働者は4割にも満たない。しかも、資本が5年の期限直前に「雇い止め」を乱発することは火を見るより明らかだ。さらに、この「労働契約法」改悪は、「5年規制」の抜け穴として「クーリング期間」も設けている。これは5年間「有期労働契約」で働いた後、6ヵ月空ければ同じ資本のもとでさらに5年間「有期労働契約」ができるとするものだ。資本が「クーリング期間」を利用すれば、いつまでも「5年規制」は繰り延べされるのだ。つまり、この「労働契約法」改悪によって現出するのは、ほとんどの労働者が「無期限雇用」には転換されず、「有期労働契約」が温存・固定化され、「雇い止め」が乱発されるという事態なのだ。すでに資本の中には喫茶店チェーン「ベローチェ」のように、「労働契約法」改悪案の成立前に「有期労働契約」の労働者を「4年で雇い止めにする」という通知を出す企業も現れているのだ。
何ら実効性のない「5年規制」「無期雇用への転換」を掲げた「労働契約法」改悪は、たとえ「無期雇用に転換」されても、賃金・労働条件は「有期労働契約」と同一にすると規定している。また「労働条件」について「労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮」して不合理かどうかを判断するとしている。つまり、資本の裁量で「責任の程度が違う」「正社員は配置転換に応じることができる」などといった理由をもって労働条件に差をつけることを容認しているのだ。「無期」と「有期」との待遇に不合理な格差を設けてはならないと明記したところで、「無期限雇用」になっても賃金・労働条件が劣悪なままでは「正規雇用」とは言えない。むしろ「正規雇用」の労働条件を引き下げる口実でしかない。このような雇用形態を新たに作り出すことこそが資本と政府の目的なのだ。
「労働契約法」を制定して「解雇条項」を新設し、「労働者派遣法」の連続的な改悪を強行してきた資本と政府は、世界大恐慌爆発情勢の深化のなかで労働者の「総非正規化」によって資本主義経済の最後的破綻からの救済を図ろうとしている。その「総非正規化」にむけた基盤整備として「労働契約法」改悪を位置づけ、その先に低賃金・首切り自由の「正社員」として「多様な正社員」なる雇用形態の創出を目論んでいる。
「非正規化」攻撃に屈服する「連合」、全労連
厚生労働省の雇用政策研究会は2010年7月、「持続可能な活力ある社会を実現する経済・雇用システム」なる「報告書」を提出した。「報告書」は「『多様な正社員』(従来の正社員でも非正規労働者でもない、正規・非正規労働者の中間に位置する雇用形態)について環境整備が望まれる」とし、「職種限定正社員」「勤務地限定正社員」といった業務・勤務地を限定した「契約期間の定めのない雇用契約」を挙げている。また、厚生労働省は「多様な形態による正社員に関する研究会」を設置し、本年3月に提出した報告書では「人材の確保」「多様な人材の活用」「人材の定着」「業務の効率化」などの資本にとってのメリットをあげつらい、「多様な正社員」創出のための基盤整備を推進することを提言しており、雇用政策研究会は「報告書」のなかで「『多様な正社員』の環境整備にあたっては、‥‥整理解雇等における法的地位の移動についての整理が必要」と、「整理解雇四要件」などの解雇規制の撤廃を煽動している。つまり、「多様な正社員」とは職種や勤務地を限定することで解雇も容易に行なえる「正社員」として位置づけられるということだ。これはまさに「総非正規化」の攻撃だ。
帝国主義労働運動・「連合」はこの「労働契約法」改悪に対して「入口規制の導入が見送られたことは残念」などと「非正規雇用」労働者の問題を考えているポーズをとりながら、その実は「政権を支える労働運動」路線にもとづいて諸手を挙げて賛成を表明している。全労連は「入口規制ができないなら、有期労働契約の『利用可能期間・更新回数』の制限を設けろ」などと、「直接雇用」「無期限雇用」の原則を簡単に放り投げている。
有期労働契約の法制化=「労働契約法」改悪攻撃を粉砕する闘いは、翼賛化した国会に幻想をもって改良・改善に期待するのではなく、「労働者派遣法撤廃」、「直接雇用」「無期限雇用」の原則の貫徹に向け、非妥協で闘う「非正規雇用」労働者と結合し、世界の労働者達が闘っているストライキ、国会包囲、街頭制圧などの労働者の実力の闘いとして闘われなければならない。「連合」、全労連を突破する戦闘的労働組合運動の結集軸として結成された全国労働組合運動交流会(全労交)に結集し、「戦後労働運動」の限界の根底的突破にむけて「有期労働契約」の法制化=「労働契約法」改悪を粉砕しよう! |