002 花束


   

えっと・・・・。何で、こんな事になったんだったっけ?

「しっかし、結構香りがキツいのな。アイツが嫌がらなきゃいいんだけど・・・・。」

俺が言う”アイツ”ってのは、最近仲良くなった”チョコボ頭”ことクラウド。意外と食が細く、放って置くと食事を抜いてしまうという、何とも不精と言うか食に対する欲求が乏しいと言うか・・・。
それで、時々誘っては俺の部屋で飯をご馳走する訳だ。まぁ、パスタだのドリアだの、仕事が終わってからの作業だから、ありきたりなモンしか作らねぇけど。

こんなんなったのも、アレが原因なんだよな。



時は遡って、30分ほど前。
一人で居れば絶対に食わないだろうクラウドを食事に誘う為、時間を大幅にロスした仕事を切り上げ、やっとの思いでの帰宅道。

「・・・・はぁ・・・・はぁ・・・・。〜ったくよぉ、車くらい支給しろっつーの!!幾ら俺で
 も、数キロも走り続けんのは無理ってモンでしょ〜がっ。あーもーっ!とりあえず、急げ俺!!!」

な〜んて爆走してたら、丁度花屋の娘が出てくるところに突っ込んじまった。

「きゃっ!」
「げっ!!」

どういうタイミングの悪さだ?日頃の行いが悪いからだって言われりゃそれまでだけどよー。
もうち〜〜〜〜っとどうにかならんもんかね!?

「悪い!大丈夫か!?」

そう言いながら、思いっきり体当たりしちまった、華奢でちっこい体を起こしてやる。

「あ、だ・・・大丈夫です。でもお花が・・・・。」
「・・・・・・・あちゃ〜。ごめんな!!それ全部買い取るからさっ。」
「え!?こ、これ全部ですか!?」

何かすっげー驚いてんだけど、何か変なことでも言ったか??

「この花・・・・、なんて言う花かご存知ですか・・・・?」
「え?薔薇じゃねぇの??」

薔薇に似たチューリップとか?それとも実はカスミソウなんです〜とか??

「薔薇は薔薇なんですが・・・・・・・」



って訳で、今に至る。
同じ”ハナ”でも、これは正真正銘の生花。それも【マンハッタンブルー】とか言う、紫掛かったピンク色の薔薇で、1本の値段が500ギル。
そんな薔薇の花が、俺の腕の中に20本。締めて1万ギルの出費。マジな話、聞き間違えたかと思ったくらいだ。
だぁってよー、1本500ギルだぜ!?1本200ギルのもんしか見た事ねぇっての。
まぁ、俺の給料からすりゃー大した事ねぇんだが、これを部屋に飾っておいて、クラウドの反応が恐ろしい。

”うわっ、クサっ!こんな部屋に居られるか!!”

なんて言われた日にゃー、クラウドはしばらく来ないだろう。

「どーすっかなぁー、コレ。」

常日頃お会いしているクラウドが来ないとなると、ちょっと寂しい。・・・・・何でだ??
ふと改めて考える。別に”ただのお友達”な訳だし、2,3日来なくたって特に支障が出る訳でもない。
でも、クラウドが部屋に居ねぇってだけで、何か物足りなさを感じるのも事実。
すっげー消化不良な感じがするんですけど・・・・。

そんなこんなで、何とか部屋近くまで来たものの、すれ違う奴らが奇妙な目で俺を見てたのは間違いない。
気持ちは分かる。ほんっと!!何で俺が、こんな薔薇の花束を持って歩かなきゃならねーんだよ。

「・・・あれ?」

あのホワホワな金髪は・・・・・

「クラウド?」
「あ、ザ・・・・・・・・・・・・、何それ?」
「聞いてくれるな。好きで買って来たと思ってんのか?」
「いや、そうじゃないんだけどさ。ザックスって・・・・・ピンク似合わないよね。」

クスクス笑いながら、俺の腕に抱かれている薔薇の花を指で突付く。
はぁ〜・・・・・何か可愛いかも・・・・・・・、は?何考えてんだ??その思考はマズイだろ。

「うっせ。」

何とか誤魔化してはみたものの、普段余り笑わないクラウドの笑顔ってのは貴重だよな〜。
待て待て待てっ!ヤバイからっ!!!

「ザックス?起きてる??」
「へっ!?あ、あぁ。ちゃんと起きてる。メシ食って行くだろ?」
「・・・・・うん。」

ちょっと俯き加減の照れくさそうなその仕草が・・・・・何だってんだよっ。
落ち着け、俺!・・・・・・・一度、頭ん中を整理しねぇと駄目かもな。

「時間も時間だから、簡単なモノしか作れないからな?」
「分かってるよ。でも、もう腹ペコです。ここの部屋の人、帰ってくるの遅いんですよねー。」
「はいはい。すみませんねぇ、遅くってよ。・・・・・・・・はい、どーぞ。」

かちゃりとキーを開け、クラウドを招き入れる。
どうでもいいが、シャワー浴びてぇな。任務が終わってからの全力疾走で、挙句に1万ギルの出費で最悪。

「なぁ、腹減ってるところワリィんだけど、ちょっとシャワー浴びてくっから待っててくれな?」
「別に構わないけど、その薔薇預かるよ。」
「あー、それ結構香りキツイぜ?」

マジで一度鼻に付いたら中々抜けなさそうなほどにキツイ。
今着てるのも、さっさと洗濯しなきゃヤベーな。

「大丈夫。俺、薔薇って好きなんだ。これだって、紫掛かってて綺麗じゃないか。」
「へぇ〜。クラウド、薔薇好きなんだ?まぁ、俺も嫌いじゃないけど。」
「薔薇ってさ、香りがキツいけど落ち着くじゃない。この薔薇、この部屋に飾っても大丈夫?折角だから飾ろう。」

意外だな。クラウドってこういうの苦手そうなんだけどなー。どっちかってーと、薔薇より蘭っぽい。
あ、でも、”綺麗な薔薇には棘がある”とか何とか、どっかの阿呆が言ってたっけ。
それを思えば、あながち違うとも言い切れないかも?

「そだな。・・・・・っと、飾るのはいいけど、生けるものなんかあったかなー??」
「漁って適当に生けとく。」
「おいおい・・・・。ま、いっか。それじゃ、その薔薇はクラウドに任せた。」
「仕方ないから任されてやる。」

またもクスクスと楽しそうだ。いつもこうやって笑ってりゃ可愛いのに。
・・・・・・・俺の思考もおかしくなって来たぞ。溜まってんのか??

「そうだ!!この薔薇の2,3本、花の根元から切ってバスタブに浮かべてみる??」
「・・・・・・はぁ!?」

それは一体どういう趣味だ!!・・・・・ん?待てよ??

「もしかして、クラウド。それをやってみたいと??お前って、意外と少女趣味???」
「〜〜〜〜〜〜っ!!さっさとシャワー浴びて来いっ!!!」
「うぉっ!!」

頬を紅く染め、何処から持って来たのか、クラウドがソファーのクッションを投げる。
それを視界に入れつつ、バスルームに向かいながら、俺の中で分かった事を頭のメモ帳に追加する。

《クラウドの好きな花=薔薇。
 意外に少女趣味で、バスタブに薔薇の花を浮かべて入るのを夢見ている・・・らしい。》