香登使信

「試練に耐える人は幸いです。耐え抜いた人は、神を愛する者たちに約束された、いのちの冠を受けるからです」(ヤコブ1：12)と聖書は記します。今、アブラハムを事例に彼がこの最大の試練をいかに耐え抜き、いかにいのちの冠を受けたかを見ることにしましょう。

試練の前の神の備え

神は、私たちが何の備えもないままにいきなり試練にあわせることはなさいません。私たちが試練に耐えられるほどの準備ができた段階で試練にあわせられるのです。

アブラハムの試練も、彼がこの大試練に耐えられるほどの霊的力が備えられたときにのぞみました。一節に、｢これらの出来事の後」とありますが、彼は十五章で「創造の神」、十七章では「全能の神」の啓示を受け、この試練の前では、「永遠の神」(21：33)の御名を呼んでいます。つまり、死人をもよみがえらせるいのちの神の啓示を受けていたのです。そして主が、「アブラハムよ」と呼びかければ、｢はい、ここにおります」(1、11)と即座に答えられるほどに、臨在の主を親しく感じていました。

そうです。アブラハムが必ずこの大試練を耐え抜くであろうと準備が整えられたところで、この試練がのぞみました。ですから、この試練はアブラハムに対する神の信任状でもあったのです。

試練の中で神が引き出されたもの

悪魔は私たちが試練にあうとき、そこから悪しきものを引き出そうとします。しかし、神の試みは信仰者のうちから善きものを引き出されるのです。神がアブラハムの中から引き出された光輝なものとは何でしょうか。

第一は、彼の比類なき従順でした。「あなたの愛しているひとり子イサクを･･･献げなさい」(2)。何と理不尽で苛酷な命令でしょうか。イサクは神からの賜物です。愛する神は、私たちが愛してやまない神からの賜物である「イサクを献げなさい」と迫られることがあります。愛する肉親、異性、所持品、仕事、賜物などを献げなさいと迫られるのです。

「翌朝早く…」(3)。これがアブラハムの不問即座の従順です。人の子アブラハムの心中にはどれほどの苦悩、悲しみ、痛みがあったでしょうか。しかし、彼には｢なぜですか」と神に逆らうものがありません。もしためらっていたらサタンは隙をついてくるでしょう。

即座の従順は、｢遠くの方にその場所が見えた」(4）､ついに「お告げになった場所」(9)についたとの継続する従順につながって行きます。

第二は、彼の比類なき信仰です。実は彼の従順は彼の信仰からきていました。｢信じなかったら従えないもんなぁ」と竹田俊造先生が言われたように、信仰は従順の母なのです。彼は、｢彼は、神には人を死者の中からよみがえらせることもできると考え｣(ヘブル11:19)ました。それは五節の言葉にも明確にあらわされています。｢私と息子｣は行き、「私と息子｣は帰ってくる、との驚くべき確信です。

彼は不可能と思われる中にも神の全能を、苛酷と思われる中にも神の全愛を、理不尽と思われる中でも神の真実を信じ切っていたのです。

第三は、彼の比類なき献身です。 信仰の従順をもって二人は神が示された場所へ。世にも感動的な会話を織りなしつつ、ついにモリヤの山へ。ベエルシバから八○キロ、三日の道のり。祭壇は築かれ、イサクは壇上に！アブラハムの大胆、冷静、一方、イサクの小羊のような従順！息を飲む一瞬です。アブラハムの信仰の従順は、イサクの献身という行為となって証しされました。彼の信仰はイサクの献身という行いとなって働き、その信仰が義と認められ、｢神の友」と唱えられたのです(ヤコブ2:21-23）。

試練の後の神の報い

アブラハムがこうした試練に耐え抜いたとき、神はいのちの冠という報第一の報いは、「今わたしはあなたが神を恐れていることがよく分かった」(12)という神の賞賛です。神のご満悦、お喜びはどれほどだったでしょうか。

第二の報いは、神の壮絶な贖いの愛の体得です。イサクに代わる 一匹の雄羊！やがて神が備えられた雄羊は神の御子イエス・キリストにおいて成就するのです。イサクを献げよ、と命じられた神は、世の罪を取り除くためにご自身の最愛の御子を献げられる。事実、主イエスは、このモリヤの山で十字架におかかりになったのです。神の友アブラハムは、この時、御子さえも惜しまず与えられる壮絶な愛を知ったことでしょう。

第三の報いは、アドナイ・イルエ！主の山に備えあり！献げきった者に与えられる具体的な主の備え、主の報いです。主は信じ、従い、献げた者、試練に耐え抜いた者に必ず必要のものすべてを備えられるのです。

第四の報いは、主の契約の更新です。子孫の増加、圧倒的な勝利、全地の祝福の基となる！神の約束の更新です（17,18）。

厳しい冬にも春の芽生えが始まっています。試練に耐える人は幸いです。神は試練に備えてくださる。試練の中からよきものを引き出しくださる。試練に豊かに報いてくださる。試練を耐え抜く幸いな者とさせていただきましょう。