香登使信

　「天の御国は畑に隠された宝のようなものです」（44）。主イエスのこの短いたとえの中に天の御国のすばらしさとそれを発見した者の行動が何と生き生きと描かれていることでしょうか。

畑に隠された宝

　畑に大いなる宝が隠されている。銀行のない古代は地中に宝を隠す習慣があったようです。山奥でもない、ごくありふれた畑に莫大な宝が隠されている。その宝を偶然に発見する。こんな「おいしい話」があるでしょうか。このたとえによれば、その宝とは「天の御国」であるというのです。

　天の御国とは、主イエス・キリストの救いと言ってもよいでしょう。その「大いなる救い」がごく身近なありふれた畑にあるというのです。畑に隠されている宝を思いがけなくも発見するように、ごくありふれた場所で福音を聞き、イエス・キリストの救いを体験された人々がいかに多いことでしょうか。ギデオンの聖書を手にした。一枚のトラクトがポストされていた。ラジオやテレビの番組でイエス様のことを知った。書店で宗教の本を手にし、主イエスの「山上の説教」を読み驚き、聖書を購入した。チャペル・コンサートをきっかけに教会に足を運び、やがて主イエスを信じるようになった。畑に隠されていた宝を思いがけない機会に、思いがけない方法で知った証しは枚挙に暇がありません。

　神戸は湊川伝道館で、ウィルクス先生の鼻メガネがなぜ落ちないのか興味津々に話を聞くうちに、その語られる「岩の上の人生」のメッセージにとらえられ、救われ、やがて献身された安藤仲市先生などは、まさに畑に隠された宝を発見したおひとりです。

　むろん、次の高価な真珠のたとえにあるように、救いの真理を長い間、求め続け、ついに発見した方々も多いことでしょう。神学者は「神の国の隠蔽性」と言いますが、神の国が身近な所に隠されていることをまず覚えたいものです。

喜びのあまり

　このたとえは、「その宝を見つけた人は、それをそのまま隠しておきます。そして喜びのあまり…」と続きます。喜びのあまり！大いなる宝を見つけた者のドキドキ感です。これは途方もない宝だ！宝を発見した者の驚き、喜び、感動が躍動しています。この「喜びのあまり」の感嘆句の中に、宝を発見した者の宝の評価がよくあらわされています。

　イエス・キリストの救いという宝は、これを発見した者に「喜びのあまり」という感動を与えます。今まで見たことも聞いたこともない耳よりのニュースを知ったときの感動です。

　一人の男性が幼い頃、友人と川で遊び半分に泳いでいたとき、溺れ死にさせてしまった。友人が最後に助けを求めた「白い手」が毎晩のように夢に出る。長じて教会の伝道集会で福音を聞き、牧師に過去の秘密を打ちあけた翌朝、牧師館の扉をたたき、叫びました。「先生、手、手が出ませんでした！」それは主イエスによる罪の赦しの大発見でした。

　マルチン・ルターも、修道院の塔の中でそれまでは祈りや断食や罪の告白など、ありとあらゆる「義のわざ」を行って「義と認められる」ために苦行しましたが、罪あるまま、ただ主イエスの十字架は私のためであったと「信じるだけで義と認められる」真理を発見したとき、彼は天国の扉が開かれたような喜びを経験したのです。

　喜びのあまり！隠された宝の評価からくる歓喜です。哲学や宗教、教育や道徳の中にない、キリストの福音こそが大真理であるとの評価がお互いの中にあるでしょうか。

持っている物すべてを売り払い

　どえらい宝を発見した者は、何とかしてこの宝を自分のものにしたいと思うでしょう。そこで彼はその宝を得るため、畑の獲得に走りました。喜びに胸をときめかせながら、手当たり次第、自分の所有物のすべてを売り払い、その土地を手に入れ、首尾良くその宝をわがものにしたのです。

　大いなる宝をわがものにしようとするためには、この決断と行動が必須です。天の御国はこの決断によって自分のものになるのです。モーセも「キリストのゆえに受ける辱めを、エジプトの宝にまさる大きな富と考えました」（ヘブル11：26）。使徒パウロも「キリスト・イエスを知っていることのすばらしさのゆえに、私はすべてを損と思っています」(ピリピ3：8）と言い、すべてを失いました。バックストンも彼の友人C・T・スタッドも、英国での富、誉れ、栄達のすべてを献げました。かつて塩屋の神学校において一人の韓国人神学生は聖霊によるきよめの恵みを渇き求め、何を失ってもかまわないと、自分の不法入国の罪を告白しました。こうして彼らは、大いなる宝、救いの喜び、救いを伝える喜び、内住のキリストの宝をわがものとしたのです。

　畑に隠された宝の発見、絶大な価値との大喜びの評価、それをわがものにするための決断と行動、こうした天の御国獲得のいとなみが、この厳しい時代の中になされるように祈りましょう。イエス様はすべて、イエス様こそ宝、「キリストには代えられません/世の何物も」と心から歌いましょう。