栂海新道  朝日岳(あさひだけ、2418m 親不知(おやしらず、0m)              [北アルプス]

 

 40年近く前の学生時代、ヤマケイで紀行文を読んで以来、栂海新道(つがみしんどう)は憧れだった。雪渓を縁取る手つかずのお花畑や湿原と針葉樹が織りなす 景観は本州の山とは思われず、「北の山」の雰囲気が一杯だった。また、3000mの北アルプスと直接日本海を結ぶ、ロマン溢れる道でもあった。しかし、当時はまだサワガニ山岳会が道を切り拓いてからあまり時間が経っておらず、コースタイムが長 い上、水場が限られる縦走は少々荷が重すぎた。手元にある昭和52年(1977年)版の山渓アルパインガイド「白馬岳・後立山連峰」では難コースになっている。
 そらから幾星霜。栂海新道はコースの整備が進み、貴重な宿泊拠点である栂海山荘も無人ながら規模が大きくなり、歩く人もそこそこあるようで一般ルートに近付いた。シュラフと食料を背負っての縦走は久しぶりなので少々不安もあるが、そろそろ行っておかないと一生行けないような気がするので、思い切って出かけることにした。

29日
 前日、一日かけて電車とバスを乗り継ぎ、蓮華温泉までやってきた。露天風呂にも入り、早めに就寝。蓮華温泉ロッジの朝食が遅いので朝食は弁当にしてもらった。
 弁当は出発してから途中で食べるつもりだったが、富山から来た同室の人がパブリックスペースで食べていたので、同席して食べてから出かけることにした。起きてすぐだし、単独行の緊張感からあまり食欲はないが、会話をしながらだと何となく食も進み、完食することができて有難かった。

  同室の人に先んじて、日の出時間に近い4時45分出発。既に外は十分明るい。ロッジ前の広場からは傘雲がかかった朝日岳が望まれる。今日はあそこまで行かなければならない。

 ザックを背負った瞬間、意外に軽く感じた。水も含めると13s程あるはずだが、今回の山行のために新調した50ℓのザックは背が高く背負いやすい。しかし、そう感じたのも束の間で、すぐに肩にずっしり重さを感じるようになった。 やはり重いものは重いのだ。

霧のかかる兵馬の平

 

 キャンプ場までは車道のような広い道。その先はブナ林の中を下っていく。朝日岳にはまず300m下って、それから登り返さなければならない。
 途中の兵馬の平は森の中にぽっかり空いた草原で、シモツケソウやオオバギボウシが花盛り。のんびり一日過ごしたい所だが先を急ぐ。
 

 そこから瀬戸川を渡る橋まではなおも下る。木道が整備されているところもあるが、昨日の夕方の雨でそれも滑りやすい。
 岩に足を滑らせて転び、二度目に転んだ時に右ひじを擦りむく。少々出血したが沢水で洗ったら何とか止まった。一層気を付けて歩く。

兵馬の平のオオバギボウシ群落

 

 意外に水量の多い瀬戸川を鉄製の橋で渡り、それからは登り。同じくブナ林の中を登りひょうたん池のそばを通り、二つ目の橋、白高地沢橋に出る。こちらの沢は広く、橋も長い。五輪山方面の展望も開ける。

 ここからまた登り。五輪高原まで森の中のジグザクの登りが続くのかと思っていたが、登りの途中で森が低くなり、灌木帯になり、そして花園三角点の手前で草原に出てしまった。一気に空が広くなり、緑の草原と残雪の白が眩しい。 キンコウカの黄、オオバギボウシの白、灌木にはコメツツジの花。

瀬戸川橋

 

 
五輪高原のお花畑

 

カライトソウ

キンコウカ

 

トキソウ

 

ユキワリソウ

 

ムシトリスミレ

 

ハクサンシャジン シロウマアサツキ

 

 ここの草原には花が多い。写真の他にニッコウキスゲ、シモツケソウ、アズマギク、ホツツジ、ヒオウギアヤメなどもある。雪渓の近くにはユキワリコザクラやイワイチョウなどの湿性植物が咲き、まだミズバショウやリュウキンカも咲いている。白馬岳方面が雲に覆われているのが残念だ。

 お花畑から少し登ると「ごりんの森」の標識があり、そこからは五輪山の山腹を巻いていく。幾つも小さな尾根を越え、雪渓の残る沢を渡る。周りは最初の内はシラビソなどの高木もあるが、だんだんナナカマドなどの灌木帯になる。同じような景色が続き、なかなか吹上のコルが近付いてこない。

 

 少々肩がザックの重さで痛くなってきた頃、やっとコルの手前の雪渓に到着。今年は雪が多いそうで、雪渓も大き目だとのこと。
 最初の雪渓の方が傾斜があり、表面が凍っていて慎重にトラバース。二つ目の雪渓の方が大きいが、見た目ほど傾斜がなくて、慣れもあってこちらはスムーズに渡ることができた。

吹上のコル手前の雪渓ふたつ、
背後が朝日岳

 

 吹上のコルは栂海新道が分かれるところ。明日はまた朝日岳を越えてここまで来なければならない。コルの周辺は見事なお花畑で、シシウドの白、シモツケのピンク、キンコウカの黄、タテヤマウツボグサの紫と華やかだ。残念ながらウルップソウは花が終わっていた。
 登りを前に休んでいると、下から次々に登山者が登ってくる。ロッジで同室だった三重松坂の人もやってきた。この人は蓮華温泉の朝食を食べてから登り始めているので、僕より2時間ほど遅く出発しているはずなのだがもう追いつかれてしまった。同室だったもう一人の富山の人を花園三角点のあたりで追い抜いたそうだ。

 

 

吹上のコル

 

吹上のコルのお花畑

 

 コルからガスのかかり始めた朝日岳に登る。イワオウギの群落が素晴らしい。
朝日岳の山頂は広くてハイマツのなかにぽっかり広場が空いている。立派な方位盤があるが、残念ながらガスで何も見えない。早々に朝日小屋に向けて下山する。

 

朝日岳の登りにはイワオウギの群落が広がる

 

朝日岳山頂の方位盤

 

 朝日岳には1981年(昭和56年)に登っているので二度目になるが、朝日小屋に泊まるのは初めて。前回は白馬岳から雪倉岳を越えてきて小川温泉に下山したが、テント泊だったので、小屋には泊まっていない。

 ここの小屋の周りも花が多い。

イワイチョウ

チングルマ コバイケイソウとチングルマの実

 

ハクサンコザクラ

 小屋に着いたら、松坂の方が小屋の前のテーブルで既に缶ビールを飲んでいたので、自分も受付けもそこそこに仲間入り。昨夜はバテないように食べること優先で我慢していたため、とりわけビールがうまい。明日、僕と同様に栂海新道を下るという人も加わって、山上の午後を過ごす。
 夕方、ガスが晴れて、白馬岳方面の展望が開けた。今回の山行で白馬岳を目にするのはこの時だけになるとは、思ってもみなかったが。

朝日岳

 

左から雪倉岳、白馬岳、旭岳

 

30日
  4時起床の予定だったが、周りがごそごそし始めて眠れなくなり、3時半に起きて出発準備を始める。今日も朝食は弁当にしてもらい、自炊室で食べ始めたがおにぎりが固くあまり食べられない。半分食べて4時15分出発。 

 外に出ると一面のガスでまだ暗い。ヘッドランプを付けて歩きはじめる。朝日岳の登りでもう明るくなり始め、ランプは要らなくなる。
 山頂でもガス。昨日見られなかった山頂からの展望を期待していたのだが、望み薄。今日も長丁場なので、先を急ぐことにする。
 朝日は射し始めたが空は暗い。昨日の予報では今日の天気はまずまずのはずだが、妙に雲が黒い。おかしいなあと思っていたら雨が降り始めた。
 今回は荷物を少しでも軽くするために折り畳み傘を持ってきていない。いつもなら傘をさして様子を見るところだが、仕方がないので雨具を着る。雨具の上下を身に着け、ザックカバー も掛けて歩きはじめる。
 すぐに止むだろうと思っていた雨は、思いのほか強く降り続きやむ気配がない。吹上のコルまで来て、このまま栂海新道に進むか少し迷う。蓮華温泉に下山することも考えたが、二度と栂海を歩く機会はないような気がして、天候の回復を期待して進むことにする。いざとなれば黒岩山からエスケープルートの中俣尾根を下る選択肢も残されている。
 

ガスに霞む五輪山

 

「ツガミ」とペイントされた岩を越える

 

  「↑ツガミ」そして「日本海↑」とペイントされた岩を乗り越え、いよいよ栂海新道に踏み込む。憧れの栂海新道だが雨の中を歩くことは想像していなかった。花に囲まれた天上の楽園を楽しみにしていたのだが 、まさか雨とは。 

 木道が敷設された湿原を抜けると、すぐに照葉の池が右下に現れる。白馬岳を映すと言われているが、今日はそれどころではない。雨に濡れないよう素早くカメラを出して一枚シャッターを押すのが精いっぱい。

照葉の池

 

 栂海新道は湿地ばかりと思っていたのだが、照葉の池の先で思いがけず砂礫地にな る。天気がよければ気持ちのいい稜線で、乾性のお花畑の道なのだが、今はルートを外さないように、テープに従ってガスの中を進む。

 しばらく雨の中をひたすら下り、アヤメ平に出る。この辺りも木道が整備されていて、滑りやすいながらも助かる。アヤメはまとまって咲いているところもあるが、一面アヤメという感じではない。雨が弱まったタイミングで写真を撮って先に進む。
 気が付くと下から単独行の登山者が登ってくる。会釈だけしてすれ違うが、栂海山荘を出てこの時間にすれ違うということは、かなりの健脚だ。

木道横に咲くヒオウギアヤメ

 

キンコウカの咲くアヤメ平

 

 アヤメ平を過ぎ、なおも複雑な地形の稜線を下っていく。湿原の中を行く道はほとんど川のようで、靴の中まで水浸しになってきた。天上の楽園ではあるが、足元は泥地獄である。

 1900m付近を過ぎると、少し雨が弱まってきた。ポンと大きな雪渓の上に出ると、眼前のガスが晴れて黒岩平が俯瞰できた。並行して走る稜線の間を雲が湧き、幻想的だ。初めて先行きの状況が分かった。

黒岩平の入口、一番遠くが今日の目的地の犬ヶ岳

 

キヌガサソウ

 

ニッコウキスゲの咲く黒岩平

 

  雪渓を目の前にして少々迷う。インターネットからの情報で簡易アイゼンを持ってきているのだが、やはり付けるのは面倒くさい。万一滑ってもスピードが出ないうちに止まれるよう、雪渓の縁の方を恐る恐る下る。何とか二つの雪渓をクリアし、黒岩平に入る。

 次に現れた雪渓の上で、下からの二人組とすれ違った。この先の雪渓の情報を聞くと、二つ目の雪渓が危ないので、右側を巻くようにとのこと。エールを交わして分かれる。

 天気が良ければ、と何度も思うが致し方ない。 針葉樹に縁取られた草原と花。見える限りの風景を味わう。
 幾つかの流れを越えると眼下に池塘のある湿原が広がった。雨も止み加減で、しばし休息。池塘を縁取るミズバショウとリュウキンカが絶妙な具合に配置されている。

 

 

池塘はふたつある

 

ミズバショウ

 

 教えてもらった雪渓を高巻き、しばらく進みと残念ながら黒岩平は 終わり。右手に中俣尾根のコースを分けると黒岩山の山頂にたどり着く。またもガスに囲まれ、山頂からの展望はない。
 行動食のバームクーヘンを食べ、靴を脱いで靴下の水を絞る。バケツから取り出した雑巾のように靴下から水が落ちる。

 

  ここからは稜線歩きになる。歩き始めてすぐに蛇に出会う。
 昨日、五輪高原で会った人が「あまり知られてはいないが、栂海新道はマムシだらけだ。」と言っていた。その人は30年ほど前に歩いたそうなので、伐開から随分経った現在ではそんな事はないだろうと期待していたのだが、やはり蛇だらけだった。雨上りということで、皆、道の上で体を乾かしているようだ。
 歩いていくと先にゴソゴソと藪の中に消えていくので実害はないが、しっかりとマムシ模様を見せつける者もいて、あまりいい気持ちはしない。 

さわがに山(左)から犬ヶ岳(右奥)の稜線

 

 

 稜線は高木帯の上に出ているようで、周りは灌木や笹に覆われている。ノリウツギやホツツジの花が多く、足元にはアカモノの赤い実も目立つ。
 晴れていると陽射しがきつく、暑さに参りそうだが、幸か不幸か曇りがちで直射日光からは守られている。まあ、それでも暑いが。
 

ノリウツギ

 

ホツツジ

 

 文子の池を過ぎた辺りで右膝の裏が痛くなり、テーピングをする。少し楽になる。しかし、雨にふやけた足の裏も痛い。こちらは、対処のしようがない。まめが出来たり、皮が破れたりしないことを祈るだけだ。

 黒岩山から栂海山荘までのコースタイムは約4時間。同じような小さなアップダウンを繰り返し、ひたすら前に進む。藪がしっかり刈られていてありがたい。 
 さわがに山あたりからは蛇もほとんど現れず、結局目にしたのは6〜7匹だった。

さわがに山山頂から犬ヶ岳を望む

 

 犬ヶ岳の手前の鞍部に北又の水場があり、ここで今夜の水を汲む。鞍部から西側の沢筋を3分ほど降りていくと、笹に覆われた右手の山腹から水が湧いている。一口飲むと冷たくてうまい。タオルで体も拭く。水筒とペットボトルに水2ℓを詰める。

 犬ヶ岳の登りは少々きつくて、ロープも張られている。ガレているところもあり、プラス2sになったザックに振られないよう、慎重に登る。

 犬ヶ岳山頂もガス。しばらく待ったが晴れる気配がないので、栂海山荘に下る。

ガスの犬ヶ岳山頂

 

 栂海山荘の扉を開けると、中は意外に広い。増築を重ねて現在は50人くらいの収容力があるそうだ。2階もある。部屋が幾つかに分かれていて、あまり 多くの部屋を汚すのはどうか思い、先客の男性のシュラフが敷いてある部屋の隅に荷物を広げる。雨の中を歩くことを想定していなかったので、ザックの底のシュラフが少し濡れていた。まあこの程度なら何とかなりそう。

 靴下を絞るとまた水が出るので、予備の靴下に履き替える。足の裏は乾いてきたが、それでも歩くとジンジンする。炎症を起こしているのか、摺れて低温火傷を起しているのか、そんな感じだ。

 先客は白鳥小屋から登ってきた方で高知県から来たという。しかも栂海新道を登るのは2度目とのこと。やっぱりここは人を魅了するコースなのだ。
 12時前にここに着いたが、その頃二人下って行ったと言う。昨日、朝日小屋の前で話していた人はどうやら白鳥小屋まで下ったようだ。

 僕の後に、もう一人朝日小屋から下ってきた方がいて、今日の宿泊者は3人。栂海新道の今日の通行者は下り4人、登り4人ということになる。この下山者の方は北九州から来たとのこと。
 北九州の方は5時過ぎに朝日小屋を出たのだそうだが、朝の天気予報は昨日とはすっかり変わっていて、雨の予報だったそうだ。既に雨が降り始めていて、白馬岳方面に向かう予定の人も、随分蓮華温泉に下ったとのこと。それを知っていれば、僕も下山していたかもしれない。どちらが良かったかは分からないけれど、このまま無事進めれば、取りあえず日本海まで歩くという満足感だけは得られそう。
 しかし、ここまでまだ日本海を見ていない。栂海山荘からは日本海の漁火が見えるそうだが、ガスに覆われたままでそれも叶わない。本当にこの先に海があるのか?いったいどこに向かって歩いているのだ?という感じになってしまう。

 フリーズドライのカレーライスを食べ、肩のストレッチをしたら他にやることが無くなった。昨夜は周りがうるさくてよく眠れなかったので、早めに就寝。

31日
 最終日。今日もロングランなので、3時半起床。ただ、自炊なので、出発は夜明け近くの4時45分。 同宿の北九州の方は今日は親不知の観光ホテルに泊まる予定だそうで、ゆっくりの出発のようだ。
 今日もガスが出ているが、昨日よりはマシなようだ。小屋の前からは行く手の白鳥山がシルエットで遠く見える。白鳥山まで約4時間のコースタイム。黒岩山〜栂海山荘とほぼ同じコースタイムだが、今日の方がアップダウンがきつい。はてさて、バテずに行けるだろうか。

栂海山荘前から白鳥山方面

 

 山荘からはまず標高差170mの下り。所々ロープが張ってある急な下り。普段なら手にしないロープもしっかり利用して下る。
 初日に転んで怪我をしてから、歩きは慎重になっている。こんな登山者が少ない山域では、怪我をしたら助けを呼ぶ手立てがなく、即危険な状況になってしまう。栂海山荘でも携帯の通話はギリギリだったので、稜線上とは言え、鞍部では圏外の可能性が高い。
 いつもはいい加減に歩いているが、今回はあまりキョロキョロせず、足元を見ながら慎重に一歩一歩進めている。ちょっと考え事や暑さでボオッとしていると、すぐぬかるみや岩で滑る。その度に、「気を抜くな、気を抜くな」と戒めながら歩く。

 

 黄蓮山を過ぎ、なおも200mほど下ると黄蓮の水場に着く。周りは一面のブナ林。朝日が射して白いブナの幹が美しい。

 右手の山腹を下っていくと小さな沢がある。下り2分くらい。北又の水場よりも近いが、途中ロープがあり、踏み跡は急。
 この水場は枯れることがあるそうだが、そんな感じもなく、しっかり流れている。見上げればブナの緑がキラキラ光り、雰囲気は明るく、水はうまい。

黄蓮の水場への降り口

 

 菊石山を越え、120m登って下駒ヶ岳。
 歩き始めは良かったのだが、また右膝が痛み出しテーピングをする。足の裏もまだ痛い。

 140m下って、白鳥山へは200m登り返す。この登りも急でロープが張ってあるが、良く整備がされていてありがたい。
 白鳥山の最後の登りの前に水場の標識があった。白鳥小屋に一番近い水場とのこと。立ち寄らなかったので水量は不明。

さわがに山山頂から犬ヶ岳を望む

 

 ほぼ、コースタイム通りで白鳥山に到着。ちょっと安心して、大休止。行動食を食べ、また靴下を絞る。昨夜替えたのに、また水がしたたり落ちるのには驚いた。靴自体がたっぷり水を吸っていて、乾いていないようだ。
 休んでいると、だんだんガスが晴れてきて、北の方の展望が開けてきた。幾つかの峰の先に平頂の犬ヶ岳、その向こうに残雪が光る朝日岳、長栂山。はるばる歩いてきたことがやっと実感できた。

 

白鳥山山頂

 

白鳥山山頂先から朝日岳方面

 

 白鳥山からはまたひたすら下る。ここも急で滑りやすい。
 シキ割りの水場付近は稜線に谷筋が幾つも食い込んでいて、地形が複雑になっている。その谷のひとつが水場になっている。辺りにヤマアジサイも咲いているが、またガスが湧いて来て、暗く重い感じ。

 なおも金時坂をひたすら下り、坂田峠に降り立つ。白鳥山からは600m以上下ったことになる。一車線ながら舗装された車道が横切っている。

シキ割りの水場

 

 車道に並行して旧北陸道の脇道が通っている。こちらが本来の坂田峠。海が荒れて親不知の海岸が通れないときの間道らしい。

 ここから尻高山へはまた登り。標高は600mほどになっているが辺りはまたブナ林。二次林ではあるだろうが、さすが日本海側は海に近い裏山もブナの山なのである。
 しかし、標高が低くなって一層暑さが増して来た。一応森の中なので直射日光は遮られるのだが、風がないと暑くて仕方ない。だんだん、山行というより苦行になってくる。
 この辺りから樹間にちらりと海らしきものが見えるが、まだ遠く、空との区別がつかない。

石仏の立つ坂田峠

 

 

尻高山山頂

 

尻高山山頂付近のブナ林

 尻高山から再び下る。車道を越えてなおも下ると、杉の植林地の中の二本松峠。昭和52年版のガイドブックではここから谷沿いに日本海に下る道があったようだが、今は廃道になっていて、栂海新道は入道山の稜線を辿って海に向かう。

 小さいながら最後のアップダウンがこれまたしんどい。足の裏は痛いし、肩も痛い。山上の涼風は途中から温風になり、今は熱風になっている。それも吹かないと、なお暑い。最後のコブを越えると後は海までラスト400mの下り。

ナツエビネ

 

 目印にしていた高圧線の下をくぐって、残り標高差200m。ここに来て、ゆったり打ち寄せる波が見えて、やっと眼下に広がるのが日本海だと気が付いた。
 工事中の林道を二つ横断したら、意外に早く国道8号の登山口に降り立った。国道のトンネル入り口に「天険親不知」の大きな標識が立っている。
 やっと着いた〜。遠かった〜。

 しかし、まだこの先があるのだ。海岸まで降りなければならない。日本海に触れなければ栂海新道完歩とは言えないのだ。

 
栂海新道登山口

 

 国道8号わきに駐車場があり、そこから海に向かって遊歩道が降りている。ザックを置いて空身で階段を下る。肩は楽だが、脚はしんどい。標識によると海までまだ標高差80mもある。どうりで高圧線下から国道までが近かったわけだ。

 旧北陸本線のレンガ造りのトンネルの横を抜けると、やっと目の前に海。今度こそ本当の到着。左右は親不知の岩壁に遮られ、狭い転石だらけの海岸の先はすぐ波打ち際。ここで感慨にふけられるのは栂海新道を歩いてきた者だけだろうと思う。

海への遊歩道

 

 

日本海

 

登山靴も海にタッチ

 

 一番期待していた朝日岳から黒岩平で雨に降られてしまったが、取りあえず栂海新道は歩き切った。予想外の雨中の歩行も乗り切ったし、10kg超の荷物にも耐えられた。これでちょっと自信がついた。避難小屋泊まりの朝日連峰縦走も行けそうな感じがしてきた。
 

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[山行日] 2015/7/28(火)〜31(金)
[天気] 29日 晴れのちガス
30日 雨のちガス
31日 ガスのち時々晴れ
[アプローチ]

28日 JR岡崎 7:12 →(特別快速)→ 7:44 名古屋 8:00 →(特急しなの3号)→ 10:05 松本(弁当買出し) 10:27 →(特急あずさ3号)→ 11:42 南小谷 12:00 →(普通)→ 12:20 平岩 12:40 (糸魚川バス)→ 蓮華温泉
      
・蓮華温泉バス停付近には駐車場、トイレ有り。
・駐車場から蓮華温泉ロッジまで徒歩数分。

[帰り道]

31日 親不知登山口 15:00 →(糸魚川タクシー)→ 15:30 親不知駅 15:43 →(えちごトキめき鉄道日本海ヒスイライン、普通)→ 16:04 泊 16:06 →(あいの風とやま鉄道、普通)→ 16:55 富山(弁当買出し) 17:10 →(特急ひだ20号)→ 21:02 名古屋 21:13 (新快速)→ 21:44 岡崎

・富山駅は北陸新幹線開通後、高山線を除く在来線が三セクになってしまい、駅構内に売店がなく、一旦改札を出ないと弁当が買えない!不便!

[コースタイム]
29日         4:00起床
  行動時間 発着時刻 地点名 休憩時間  
0:45 4:45 蓮華温泉出発 (1475m)    
5:30 兵馬の平(1320m) 0:10  
0:35 5:40  
6:15 瀬戸川橋(1170m) 0:05  
1:00 6:20  
7:20 白高地沢橋(1350m) 0:05  
1:50 7:25  
9:05 花園三角点(1753.7m)    
9:15 五輪高原(1780m付近) 0:20  
0:30 9:35  
10:05 1900m付近(標高点下) 0:05  
0:30 10:10  
10:40 2070m付近 0:05  
0:45 10:45  
11:30 雪渓手前(2180m付近) 0:10  
0:15 11:40  
11:55 吹上のコル(2220m) 0:30  
0:40 12:25  
13:05 朝日岳山頂(2417.9m) 0:10  
0:35 13:15  
13:50 朝日小屋(2150m)着   全行動時間
7:25     1:40 9:05

 

30日         3:30起床
  行動時間 発着時刻 地点名 休憩時間  
  1:00 4:15 朝日小屋出発    
  5:15 朝日岳山頂(2417.9m) 0:10  
  0:35 5:25  
  6:00 吹上のコル 0:05
  1:45 6:05  
  7:20 アヤメ平    
  7:50 1900m附近 0:15  
  0:55 8:05  
  8:55 黒岩平    
  9:00 黒岩平先(1650m付近) 0:15  
  0:30 9:15
  9:45 黒岩山(1623.6m) 0:20  
  0:55 10:05  
  10:35 文子の池    
  11:00 1612mピーク 0:20  
  0:30 11:20
  11:50 さわがに山(1612.3m) 0:20  
  0:35 12:10  
  12:45 北又の水場 0:30  
  0:45 13:15
  14:00 犬ヶ岳山頂(1592.5m) 0:05  
  0:10 14:05  
  14:15 栂海山荘着   全行動時間
7:40     2:20 10:00

 

31日         3:30起床
  行動時間 発着時刻 地点名 休憩時間  
0:55 4:45 栂海山荘出発    
5:40 黄蓮山 0:05  
0:20 5:45  
6:05 黄蓮の水場、ブナ林 0:10  
0:55 6:15
6:45 鞍部(約1120m)    
7:10 下駒ヶ岳(1241m) 0:10  
1:15 7:20  
8:35 白鳥山(1286.8m) 0:40
1:00 9:15  
10:15 シキ割の水場 0:10  
0:50 10:25
11:15 坂田峠(約600m) 0:15  
0:40 11:30
12:10 尻高山(677.4m) 0:10  
0:40 12:20  
12:50 車道横断    
13:00 二本松峠 0:10  
1:20 13:10  
14:30 親不知(国道8号)着   全行動時間
7:55     1:50 9:45

 

[小屋] 蓮華温泉ロッジ
・一泊二食9,500円

・宿泊者は外の露天風呂も入れるが、日帰り入浴の場合、内湯のみ500円、露天風呂込み800円必要。

薬師湯
朝日小屋
・一泊二食9,500円、要予約。

・ここの小屋は食事が良いことで有名なようで、今回もおでん、カジキの昆布締め、ホタルイカの沖漬、山菜のてんぷら、蕎麦など多彩で美味しかった。

・ロビーにお湯、お茶などが無料で用意されている。
栂海山荘
・無人小屋、事前に「ベニズアイ山岳会」に要連絡。
・登山道維持協力金2,000円。

・布団、毛布なども用意されている。
・自炊スペースがあり、部屋では火器厳禁。