天狗原山(てんぐはらやま)2197m金山(かなやま)2245m              [上信越・頸城]

  

 本来ならばこの時期はアルプスの縦走など遠出をする季節なのだが、今年は新型コロナウイルスの感染拡大で山小屋利用は少々リスクがある。それに宿泊には事前予約やシーツ持参など制約が多く気疲れする。そこでこの時期ならではの花の山に日帰り登山ということになった。6月の三ノ峰、7月の櫛形山に続き、花の山第三弾である。
 天狗原山、金山を知ったのは遥か昔、1981年8月に妙高山に登った時。山頂から西の方角に、稜線に残雪が引っ掛かったなだらかな山容を見つけ、歩いたら気持ちがいいだろうなあ、と思ったのが最初である。当時は湿原のあるなだらかな山に大きな憧れがあった。
 登る季節が夏山シーズンに重なることもあっていつも後回しになってしまい、2008年には隣の火打山から再び天狗原山、金山の稜線を眺め「まだ登れてないなあ。」と 思ったものだった。
 目に留まってからほぼ40年。とうとうそれを実現する時が来た。

2008.8.2 火打山山頂からの天狗原山(左)、金山(右)

 登山口にはトイレがないので、国道沿いの道の駅「小谷」で車中泊。国道を通る車の音と暑さでなかなか寝付かれなかったが、車中泊では毎度のことだが、明け方は涼しかった。
 4時半に起きて登山口に移動。登山口のところで林道は通行止めになっていて、ゲートの前の駐車スペースに車を止める。最大10台くらいしか駐車できないと聞いていたので、満車になっていないか心配だったが2台しか止まっていなかった。
 これも毎度のことで、あまり食欲は無いが、コンビニおにぎりやサンドイッチを腹に詰め込み出発する。

 登山道からいきなり急登で、ブナやトチノキの落葉樹林の斜面をジグザグを切りながら登っていく。ウォーミングアップなしでの急登はしんどい。まれにみるスローペースで、歩き出してすぐに単独行の男性に追い抜かれたが、どういう訳か先に出発し休憩していた5人の中高年グループを追い抜いてしまった。
 道は両側の藪の刈り払いが済んだ直後といった感じで、くぐらなければならない倒木も2本だけで、新しいものは切断して除けてあった。歩きやすくて感謝で頭が下がるが、刈り棄てられた草や笹が露に濡れて滑りやすい。
 アルプスの登山道に比べれば道は狭い。空色のエゾアジサイがたくさん咲いている。

 

エゾアジサイ ジャコウソウ

 

 急な斜面を登り切り、ブナタテ尾根の上に出る。ブナタテ尾根というだけあって、ブナの太い樹が多い。ミズナラなども混じっている。
 水場があるはずと気を付けて歩いていたが、干上がった池があるだけで見当たらない。涸れてしまったんだろうかと思っていたら、池からもう一段上がったところ に小さな広場あって、その片隅に水が流れていた。細々した流れだが、下山時には冷たい水がありがたかった。

パイプが設置してある水場

 

ブナ林 遠く地蔵岳(左)と乙妻山(右)

 


 尾根道ではあるが小さなアップダウンがあり、ぬかるんで滑りやすく、歩きやすいとは言えない。
 1741m標高点付近からは樹冠の間から鋭く尖った雨飾山が見える。昔登ったことがあるのだが、あんなに尖っていただろうか。
 1741m標高点を過ぎるとしばらくの間、道は雨に削られた深い溝の中を行くようになり、笹に覆われて薄暗く一段と滑りやすくなる。
 葉っぱだけのミズバショウの湿地を抜けると目の前にガレ場が広がった。

雨飾山

 

ヤマグルマに埋め尽くされた谷

溝状の道

 

 ガレ場にはロープが掛かっていて、それに頼って直登する。ガレ場というよりザレ場という感じで滑りやすい。
 遠目には分からなかったがザレ場は一面にお花畑になっていて黄色のミヤマコウゾリナ、紫のナンテンハギ、クガイソウ、ピンクのイブキジャコウソウ、ナデシコ類、クリーム色のイワオウギ、白いセリ科のボウフウ類など色とりどりだ。日陰にはヒメシャジン、クサボタン、ホタルサイコなども咲いている。こんなところにもお花畑があるとは、さすが隠れた花の名山である。

1949m標高点手前のガレ場

 

ミヤマコウゾリナ

 

ナンテンハギ

 

シナノナデシコ

 

イワオウギ

 

クサボタン

 

ホタルサイコ

 ガレ場の上が1949m標高点で、そこからはコメツガ林のなだらかな歩きやすい道になるが、しばらくしてまた登りが始まる。
 右手に岩場の崖が現れるが、ここにも花がたくさん咲いている。遠目で見にくいが、ヒメシャジン、シモツケソウ、セリ科の花などが咲いている。

 崖の上からは雲の上にわずかに雪倉岳の頭が覗いている。近くにあっても白馬岳は雲の中で見えない。

ミヤマママコナ

 

崖にも花が

 

雪倉岳

 しばらく登ると道は左手にトラバースするようになり、笹原をくぐり抜けると天狗原山の一角の草原に飛び出す。だれが置いたのかハクサンフウロの群落の中に小さな石仏がある。あまり古いものではなさそうだ。
 ここからはお花畑と低い笹原が混じり合って続く。ハクサンフウロ、ハクサンボウフウが多く、ウサギギク、ハクサンチドリ、ネバリノギラン、クルマユリ、ゴゼンタチバナなどが混じる。
 

石仏

 

ハクサンフウロ

ウサギギク

 

クルマユリ

 

天狗原山山頂付近

 

 天狗原山の山頂標柱は天狗原山の一番北のコブにあり、三角点はその手前のピークにあるらしいのだが、お花畑に踏み込まなければならないので、三角点はパス。
 ここまでも雲の多い空模様だったが、東斜面からガスが上がってきて、金山の方は見えにくくなってきた。金山へは一旦鞍部を下り、金山谷の源頭部を登る。谷の中にも花が咲いていて、ミヤマキンポウゲが道を塞ぐように咲いている。シナノキンバイ、オタカラコウなども咲き、黄色主体の花畑だ。

 

天狗原山から金山方面を望む
(下山時に撮影)

 

金山谷源頭、登りきると神の田圃

 

シナノキンバイ

 

オタカラコウ

 

 谷を登りきると神の田圃の湿原が広がる。緑の中に白い花が一面に咲いている。こんな場合、普通はセリ科の花が多いのだが、ここはモミジカラマツが主体で、そこにハクサンボウフウが混じっている。あまり見たことがない組み合わせだ。
 他にもイワイチョウ、コバイケイソウ、イワショウブなどが混じっているがどれも白い花で、混じり合って分かりにくい。イブキトラノオも多い。

神の田圃

 

モミジカラマツとハクサンボウフウの花畑

 

イブキトラノオ

 

 神の田圃を過ぎるとハクサンコザクラが現れ始める。しかし、もう盛りを過ぎているのか傷んだ花が多い。
 最初に天狗原山、金山を遠望した時にも、12年前に火打山の山頂から見下ろした時にも、どちらも8月にも関わらず、稜線近くに雪田が残っていた。ところが今年は全く残雪がない。冬に積雪が少なかったのか、梅雨の長雨で溶けるのが早かったのか原因は分からないが、残雪がないために花の季節の進みは少し早いのかもしれない。
 雪が溶けるのに合わせてコザクラは咲いていくので、今年はもうピークを過ぎてしまったのかもしれない。

ハクサンコザクラ

 

チングルマ

 

ニッコウキスゲ

 

 金山の山頂へは稜線の東側の斜面をトラバースするように進む。金山谷と奥金山谷が削った浅いカールのような谷の上部を横切っていくのだが、谷の境の低い尾根を越えるたびに新しい草原、新しい花畑が広がり、写真集をめくっているような感じがする。

 山頂に近づくにつれてニッコウキスゲが増えてきて華やかになっていく。神の田圃ではもう綿毛になっていたチングルマが山頂近くではまだ咲いていた。「これで晴れていれば天国なんだがなあ。」う〜ん、残念。

向うのピークが金山山頂

 

 金山の山頂は笹に囲まれていてあまり展望は利かない。焼山、火打山方面は開けているが、残念ながらどちらも雲の中。パンなどを食べながらガスが切れるのを待ったが、最後まで山頂は見えなかった。
 焼山方面へははっきりした道がついていて、健脚の人はここから往復するらしい。
 途中で追い抜いたグループが登って来たので、名残惜しいが下山にかかる。
 コロナ禍のもと、本日の登山者は6パーティー、11人くらいかな。

金山山頂

 

 下山後、雨飾高原露天風呂へ。ちょうど一人出てきたところで、湯舟を独り占め。周りはミズナラなどの落葉広葉樹林でなんとも気持ちがいい。しかし、少々熱い。ふと見るとホースが転がっていて、水でぬるく出来るようになっていた。水の出るホースを抱いて入るとちょうどいいが、背中が熱い。なかなか落ち着いて入っていられない。おまけにホースの蛇口をひねるために湯舟から出たらアブに脚を刺されてしまい、外で涼むことも出来ない。
 30年前に雨飾山に登った時もこの露天風呂に浸かったのだが、その時は7月で実に爽やかだった。周りの森からキビタキのさえずりが降ってきて「キビタキの湯」と名付けたのだが、今回は「アブの湯」になりそうだ。でもこの露天風呂は大好きである。

天狗原山、金山ルートマップ


[山行日] 2020/8/5(水)
[天気] 曇りのちガス      2020年8月の天気図
[アプローチ]

4 長野道安曇野IC (北アルプスパノラマロード、R147号)→  道の駅「小谷」   [約70km] 
・水洗トイレ、温泉施設、食堂あり。
・国道を通る車の音がうるさい。

5日道の駅「小谷」 (R147号、県道114号)→ 小谷温泉 (林道)金山登山口     [約20km] 
・10台程駐車可。
・トイレ、登山ポストなし。
・登山口までの林道は全線舗装、ほぼすれ違い可能。

 
[コースタイム]  
行動時間 発着時刻 地点名 休憩時間  
1:30 5:45 金山登山口 発    
6:45 水場    
7:15 1741m標高点(花畑上) 0:05  
0:50 7:20  
8:10 1949m標高点(ザレの上) 0:05  
1:05 8:15  
9:20 天狗原山山頂(2197.1m) 0:05  
0:50 9:25  
10:15 金山山頂(2245m) 0:30 23℃
0:35 10:45  
11:20 天狗原山山頂 0:10  
0:45 11:30  
12:15 1949m標高点 0:05  
0:35 12:20  
12:55 1741m標高点(ヒメコマツ) 0:05  
0:15 13:00  
13:15 水場 0:15  
0:40 13:30  
14:10 金山登山口 着   全行動時間
7:05     1:20 8:25
登り 4:15      
下り 2:50      

 

[地図] 妙高山(1/25000)

 

[温泉]

雨飾高原露天風呂  
・小谷温泉雨飾荘の手前にある無料の露天風呂。
・近くに駐車場あり。
・入浴協力金の箱と脱衣所と湯舟しかない。
・周りは落葉樹の森で実に爽快な露天風呂。