立山( たてやま)                              [北アルプス] 3015m

 

 立山駅前の登山者用駐車場で車中泊し、朝5時半起床。富山の日の出は5時44分なので、既にもう明るい。昨夜はまだ、いくつか空いたスペースがあったが、今はもう駐車場は満車状態だ。
 カップうどんを食べ、身支度をして6時半に立山駅に向かうと、
既にケーブルの切符売り場には長い列ができていた。平日ではあるものの、紅葉の時期なので、登山者も観光客も多いのだろうが 、ちょっと予想外だった。せっかく車中泊したんだから、もっと早く並べばよかった、と後悔する。
 ケーブルの始発は7時だがそれには乗れず、7時20分発の切符が割り当てられた。10分間隔で運転されるので、3本目ということになる。ケーブルはもちろん満員で、美女平で乗り継ぐ高原バスもどんどん増発されている。ケーブルに乗るのは遅くなったが、通常のバスの始発が7時40分なので、室堂には当初の予定通り着くことができた。

 立山に登るのは2度目。前に登ったのは小学校5年生の夏休みの時なので1966年(昭和41年)だから、ほぼ半世紀前の事である。
 親に連れられて夜行列車に揺られ、早朝にケーブルに乗り、高原バスで室堂に着いたとき、雪が多いのに驚いた。運動靴で雪渓を恐る恐る渡り、一ノ越からの岩場を這って登り、山頂の雄山神社に参拝した。
 前年の夏に富士山に登ったのだが、富士山はただただ眠いだけだった。それに比べると立山は変化に富んで楽しく、みくりが池温泉に泊まったので楽だった。 宿では湯船に湯の花が漂っているのに驚いた。温泉らしい温泉に入ったのは初めてだった。
 雷鳥も高山植物も初体験で、チングルマの名前をその時覚えた。

 それから室堂にはスキーに来たり、薬師岳へ縦走したり、剱に登ったりと何度も来ているが、立山に登る機会はなかった。雄山には登ったが、最高峰の大汝山までは行っていないので、 今回は紅葉のアルプスを手軽に楽しもうと、天気を見計らって登ることにしたのだ。

みくりが池と奥大日岳

 

 室堂平の気温は7℃。室堂平を歩く人々は観光客、ハイカー入り混じって、服装も履物も様々。寒そうにしている観光客もいるが、ダウンを着込んで準備万端のご婦人もいる。
 こちらは夏服に毛が生えたような装備なので少々寒い。さっそくウインドブレーカーを羽織り手袋をつける。風も冷たい。

 紅葉はと言えば、あまり赤いものはなく、どちらかと言えば茶色と黄色という感じ。観光ポスターにある、晴れ渡った空に錦をまとった立山、というのを想像していたのだが、ちょっと期待外れ。

チングルマ

 


 
一ノ越へ続く登山道は岩をコンクリートで固めた立派なもので幅1.5mほどありそう。表面はごつごつしていて、見かけより歩きにくい。もちろん子供の頃登った時にはこんなにはなっていたかったが、いつからこんなしっかり整備がされるようになったのだろう。
 驚いたことにこの舗装路は一ノ越まで続いていた。

 

 

雄山

 

一ノ越への道

 

 一ノ越は風が吹き抜けていた。室堂側から黒部渓谷側に抜ける風は強く、冷たい。耳が冷たいので、ニットキャップをかぶる。
 休んでいると、上から降りてきた人が、
「風が強く飛ばされそうで、怖くて降りてきた。」と、隣の人に話していた。

 御山谷を見下ろすと、半ばから下は草紅葉が広がっている。
 目を上げると、遠く槍穂連峰が霞んでいる。

一ノ越から雄山への稜線を見上げる

 

 一ノ越からは今までの舗装路と打って変わって、急な岩場の稜線歩きになる。
 本当に風が強い。油断をすると足がふらつく。風が強いせいか、寒いせいか、それとも空気が薄いせいなのか、脚が上がらない。
 朝晩の犬の散歩で足腰は以前より鍛えられているはずなのだが、思うように進まない。
 景色を眺める余裕もなく、風に耐えてひたすら登ったら、それでも予定より早く雄山頂上に着いた。

一ノ越俯瞰

 


 雄山山頂には休憩所が立ち、たくさんの登山者が休んでいた。休憩所の先の岩峰の上には雄山神社の社殿が建っている。こんな急な岩の上に立っていたとは驚きだ。子供の時はガスがかかっていたように思うので、このような景色は全く記憶がない。 
 

雄山山頂 ガスの向うに薬師岳、手前は龍王岳

 


 まずは、神社にお参り。登拝料500円を払って、頂の社殿へ。社殿の前の狭い広場に皆、脚を投げ出して座り(石だらけで正座はできない)神主さんにお祓いをしてもらい、祝詞をあげてもらう。抜けるような青空の下、厳かで気分がいい。
 祝詞の後、神主さんが言うには、社殿の周りに敷き詰められている石のうち、本当の山頂はすぐその石だけで、後は石を積んで平にしてある、とのこと。下から見上げると、確かにしっかり石積みがしてあり、その上に社殿は建っていた。

 

雄山神社 雄山神社から大汝山(右)、剱岳(左奥)

 

  雄山山頂から、小さなアップダウンのある岩稜を少し進むとじきに大汝山に着く。大汝の山頂下には休憩所が立っているが、既に閉まっていた。(後で、この休憩所は「春を背負って」という山岳映画のロケ地で、 中には映画の写真が飾ってあったと知った。)

 大汝山は立山の最高峰で、ここが目的地なのだが、その山頂は尖った岩で、ちょっと登る気にはなれなかった。まあ、隣の岩場も同じような高さなので、そんなにこだわることはないのだが。

大汝山山頂

 

 山頂からの眺めは素晴らしい。剱岳には雲がかかり始めたが、眼下には月面のクレーターのようにぼこぼこ穴が開いた室堂平が広がり、その向こうに大日岳の押さえが利いている。
 眼下には黒四ダムにせき止められた黒部湖が長く横たわり、その上にはなかなか山座同定しにくい鹿島槍ヶ岳以南の後立山の峰々が長く伸びている。地図を見なくても分かるのは、尖った針ノ木岳くらいなものだ。

 

大汝山山頂から室堂平俯瞰 黒四ダムと黒部湖

 

 ここでちょっと、この先の予定で迷う。
 取りあえず大汝は踏んだので目的は果たした。それで真砂岳の手前で分かれる「大走りコース」を下れば、室堂平の小屋で温泉に浸かれるのだ。だが、みくりが池温泉と室堂山荘は今日は満室であることは確認済み。雷鳥荘に電話をしてみようと思ったが、携帯は圏外。飛び込みでも泊めてはもらえるだろうが、ややリスクはある。
 まあ、この先別山まで縦走するようなことはないだろうから、今回は予定通り剱御前小舎まで行こう、と思い直した。
 あの小屋はめしは不味いが、今は雲に隠れてしまった剱の姿を、明朝なら拝めるだろう。

五竜岳(左)、鹿島槍ヶ岳(右)

 


 しかし、この先は裸の稜線で風が一層強く、だんだん体が冷えてきた。寒さのせいか気圧のせいか、頭も痛くなってきた。こりゃまずいぞと思い、富士の折立を下ったところで雨具の下を履き、真砂岳の山頂で雨具の上を着た。フードもしっかり被る。フリースのセーターも持っているがザックの一番下で取り出す気力がない。 既に思考能力が鈍っている。あまり食欲はないがパンをかじって腹におさめ、少々落ち着く。
 

真砂岳山頂からの別山

 

針ノ木岳と内蔵助小屋


 今日、最後の登りだと自分を励まして別山に登る。残念ながらガスが湧き、剱は見えない。別山北峰まで行き、岩の剱と対峙したかったのだがそれも叶わず。また来ることはないだろうなあ、と少々残念。
 別山の下りの途中でわずかにガスが切れ、剣沢と剱の足元まで見える。明日に期待をし、剱御前小舎に転がり込み、頭痛薬を飲んで夕食まで布団にくるまる。
 

剣沢俯瞰 八ツ峰の岩壁

 

 翌朝は5時半起床。外に出てみると、まだ風は強いが天気は良い。しだいに剱岳の岩壁に陽が射してくる。目の前の景色に声もない。この小屋に泊まる価値はここにある。
 室堂側に目を転ずれば、遠く薬師岳も朝日を浴びている。こちらからだと双耳峰に見えるのだな
。これも美しい。

朝焼けの剱岳 朝焼けの薬師岳

 

 今日は室堂に下るだけなので、6時の遅い方の朝食の班にしてもらい、6時50分にゆっくり出発。雷鳥沢のコースではなく、日が当たって写真が撮りやすいと思われる新室堂乗越経由で下る。
 昨夜はかなり冷え込んだようで、ハイマツに海老の尻尾がついている。もう山は冬である。 

 次第に室堂平にも陽が射し込んで、明るくなってくる。ちょうど一ノ越の鞍部に切り取られて、槍穂が稜線のつくる額縁に収まっている。

一ノ越の向うに槍穂連峰 海老の尻尾

 

 登山道わきのナナカマドはすっかり葉が落ちてしまって、赤い実だけになってしまっているものが多い。なぜか、紅葉真っ盛りのものもあるが、こちらは少数派。
 山肌が遠目には茶色に見えるのは鮮やかな紅葉が少ないからだろう。冬が駆け足でやってきて、色付く前に葉が枯れてしまっている感じがする。

天狗平の向うに鍬崎山、遠く白山

 

ナナカマドの実

 

こちらは紅葉中

 

 雷鳥沢にも陽が当たり始めたが、いつの間にか薄雲が広がり始めた。今日の方が天気は良くないようだ。風はずいぶん弱まった。

 雨具の下にフリースのセーターという、昨日以上の防寒対策なので、さすがに暑くなってきた。秋山は体温調整が難しい。汗をかかないうちに雨具を脱ぐ。
 

紅葉の雷鳥沢(立山と浄土山)

 

 雷鳥沢まで降りてくると木道が延びている。草紅葉が逆光に輝いて美しい。木道が続く草原は立山のイメージとは少し違うが、こういう景色は気分が穏やかになる。やっと秋に浸れた感じがする。

逆光の草原

 

剱御前を見上げる

 

室堂からの立山

 

 雷鳥沢の橋を渡りキャンプ場を抜けて長い階段を上ると雷鳥荘。昨日、携帯が通じなかった宿。
 新室堂乗越ですれ違った登山者は昨日ここで泊まったそうで、そんなに混んではいなかったそうだ。食事が美味しかったとも聞き、少々羨ましい。温泉にも入りたかったなあ。でもまあ 、上に泊まったおかげで剱がきれいに見えたからそれで良しとしよう。

 みくりが池まで来ると、もう観光地状態。弥陀ヶ原まで歩こうかと思っていたが、ふと登ってくる時のバスで途中下車のアナウンスがあったことを思い出し、室堂ターミナルの窓口で聞いてみたら途中下車OKとのこと。歩かずにバスで行くことにした。
 途中下車の人は美女平まで直行する人とは別の列に並ぶようになっていて、弥陀ヶ原下車の人は意外と多く20人程いる。やはり紅葉シーズンだからだろう。
 案内の人がマイクで「途中下車したら係りの人に乗るバスの予約をしてください。1時間後以降のバスなら必ず乗れるようにいたします。」と説明していた。システマチックになっているようだ。

 弥陀ヶ原のバス停で降りると、今度は乗車の人が長い列を作っていた。こりゃ弥陀ヶ原も観光地並みかと不安に思ったが、さすが弥陀ヶ原は広く、木道が数珠つなぎ の行列というようなことはなかった。
 ここも紅葉はいまいち。薄雲が広がって陽射しが弱く、鮮やかさもない。ベンチでパンを食べていたら、地元の人が「ことしの紅葉は良くないねえ。あおい葉もあるのに枯れ始めてるからねえ。」と言っているのが聞こえた。
 やはり、そういうことなんだと納得した。いい紅葉に当たるのはやはり難しい。

 

弥陀ヶ原

 

池塘と大日岳

 

登山者

 

美松坂の紅葉

 

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[山行日] 2015/9/29(火)〜30(水)
[天気] 29日:晴れのちガス、30日:高曇り       2015年9月の天気図(気象庁)
[アプローチ] 28日 北陸道 立山IC (県道3号 、県道6号)→ 立山駅周辺駐車場      [約24km]
・臨時駐車所を含め、駐車場はたくさんある。

29 立山駅 7:20 →(立山ケーブルカー )→ 7:27美女平7:35 →(高原バス)→ 8:25 室堂ターミナル

[コースタイム]
29日 行動時間 発着時刻 地点名 休憩時間  
0:50 8:40 室堂ターミナル出発 (2433m)    
9:30 一ノ越(2700m) 0:10  
0:45 9:40  
10:25 雄山山頂(3003m) 0:25  
0:20 10:50  
11:10 大汝山(3015m) 0:15  
1:05 11:25  
11:40 富士ノ折立    
12:30 真砂岳(2861m) 0:10  
0:30 12:40  
13:10 別山下分岐 0:05  
0:15 13:15  
13:30 別山(2874m) 0:15  
0:30 13:45  
14:15 剱御前小舎到着   全行動時間
4:15     1:20 5:35

 

30日 行動時間 発着時刻 地点名 休憩時間 5:30起床
1:20 6:50 剱御前小舎出発    
8:10 新室堂乗越 0:15  
1:10 8:25  
8:50 雷鳥沢キャンプ場(2270m)    
9:35 室堂ターミナル到着   全行動時間
2:30     0:15 2:45

 

[地図] 立山、剱岳 (1/25000)

 

[小屋] 剱御前小舎
・別山乗越。
・1泊2食付き9,500円。相部屋。
・お茶、お湯100円/ℓ。天水のため水は不自由。朝は洗面所の水がでなかった。
・食事は質素。