竜ヶ岳( りゅうがたけ)                              [富士山周辺] 1485

 

 新東名を走ると、清水PAあたりからいつも正面に富士山が見えるのだが、今日はすっぽりと雲の中。
「やっぱりダメか。」
 明日の方が天気がいいことは分かっていたのだが、明日は用事があり今日しか日がない。冬型の気圧配置が強まり、雲が出やすいという予報だったが、「行ってみなけりゃ分からない」と出かけてきた。だが、 天気は悪い方の目が出た。富士山の見えない竜ヶ岳なんて・・・
 しかし、新富士ICで高速を降り、朝霧高原まで上がってくると、みるみる富士が姿を現した。相変わらず富士市の方には雲がかかっているが、富士山の北側は青空が広がっている。有難い。これで来た甲斐があるというもんだ。

 竜ヶ岳は北側の本栖湖から登るルートが一般的なようで、ガイドブックにもそちらが紹介されているが、今日は北風が強いので、風がよけられる南側の根原集落の方から登ることにする。それに 新富士ICから行くと、こちらの方が登山口が近い。
 しかし、国道から集落内の脇道に入ったら、すぐに車止めのゲートに突き当たってしまった。地図ではA沢貯水池あたりまで行けそうだったのだが、ちょっと当てが外れた。ゲートの手前に民地の空き地があり、そこに車を止める。看板に協力金500円とあり、そばの郵便受けに500円玉を入れる。これで堂々と止めておけるのだから安いものだ。

登山口 (すぐ先にゲートがある)

 


 
身支度を整え歩きはじめると、ちょうど軽トラがやってきてゲートを開けて入っていく。車から降りたおじさんが「どこへ登るの。」と聞くので、「あれ。」と山を指さすと。「竜ヶ岳か。」と返ってくる。こちらから登る人もいるようだ。そして「まっすぐ行った方が近いよ。」と教えてくれる。礼を言って歩き出す。
 しばらく杉林を行くとA沢貯水池の脇に出る。ここからしばらくは東海自然歩道を歩くことになる。標識が右手の脇道を指しているが、先ほどのおじさんの言葉に従い、貯水池に沿って真っ直ぐ端足峠に向かう。

 

A沢貯水池

 

竜ヶ岳を見上げる

 

 だが、道はすぐに左手の堰堤の方に下がっていってしまい、正面には杉の植林地が立ちふさがった。「こりゃ違うな。」と思ったが引き返すのも面倒なので、そのまま植林地に突っ込む。しばらくは踏み跡があったが、次第にそれも薄くなり、傾斜もきつくなってきたので、 右手にあるだろう東海自然歩道の方角に方向転換。切り捨てられた丸太を跨ぎ、落ちた枝に足を取られながら植林地を抜ければ、そこに東海自然歩道があった。時間はさほどかかっていないが、体力的には少々ロス。
 

 道はミズナラの中をゆるゆると登っていき、小さな沢を越えると分岐の標識。竜ヶ岳の山腹を巻き、真っ直ぐ東へ行く東海自然歩道と分かれ、左手の端足峠への山道に入る。標識には英文で「Hashita  pass」と添えてある。
 端足峠は読み方が分からず、まさか「たんそくとうげではないだろう」とは思っていたが、他に思いつかなかったのでずっと自分の中では「たんそくとうげ」と呼んでいたのだが、ここで正しい読み方が分かった。

 分岐からは再び杉の植林地の中を行く。斜面の傾斜がきつくなり、道はつづら折りに登っていく。

端足峠(正面が竜ヶ岳)

 

 歩き始めのころは指先が冷たかったのだが、歩くにつれて体温が上がってきて暑くなってくる。手袋をはずし、毛糸の帽子を脱ぎ、手にもって歩く。シャツのボタンも外す。冬の低山歩きは体温調整が難しい。少し風が吹けば寒いし、日当たりが良ければ暑い。

 峠に着いたとたん、足元は雪になり、北風が吹きつける。慌てて手袋、帽子を付け、襟元を閉める。やはり稜線の北側は寒い。風を避けて、南側から上がってきたのは正解だったようだ。
 峠からは朝霧高原を隔てて富士が大きい。広い裾野の上に立ち上がった富士は一際高く見える。

端足峠からの富士

 

泥濘の道 雨ヶ岳

 

 峠からはしばらくブナ林の中の平らな雪の稜線を進み、笹原の山腹に取り付く。笹原の中をジグザグに道は登っていくが、日当たりがいいのか雪は無く、泥だらけの道。やや凍り気味の固いところを選びながら、泥を撥ねないように、滑らないように登る。

 下ばかり見ていたが、ふと目を上げると、白い峰々が目に飛び込んできた。南アルプスの白根三山だった。北岳、間ノ岳、農鳥岳と続く稜線は真っ白。富士山ばかりか南アまで見えるとは、予想外の天気になった。思い切って来てよかった。

白根三山が競り上がる

 

 
 笹原の上は再びブナの疎林になり、道の上の雪が増える。凍り付いたところもあり、滑りやすい。アイゼンは持ってきているが、古いタイプの物で装着が面倒なので、両手のストックにすがりながら無理やり登る。普段はストックを持つとストックを突くことに神経を使い、下ばかり見て歩くことになるのでほとんど使わないが、こういう時は有難い。ストックなしでは怖くて登れないだろう。

 再び笹原に出て、山頂が近いことを思わせる。南アルプスを振り返ると、北の鳳凰三山から南の赤石岳、聖岳までパノラマが広がっている。鳳凰山の右手には半分雲に隠れた八ヶ岳も見える。峰々の上の雲が微妙に影を落とすので、南ア全体が白く輝くのをしばらく待っていたが、北岳が顔を出せば赤石が隠れるという具合で、諦めて部分的に写真に収める。
 

赤石岳(左)と悪沢岳(右) 左から間ノ岳、北岳、白く覗くアサヨ峰、黒い鳳凰三山

 

 傾斜が緩くなっても、道はしばらく笹原の中を右に左にうねりながら進み、まだかいなと思い始めたころ一面雪原が広がる広い山頂に着いた。さすが正面の富士が大きい。去年のちょうど今頃、反対側の金時山から富士を眺めたが、こちらの方が均整がとれた姿で、一ランク上に思える。伸びやかにすそ野が広がる富士の姿は格別で、富士の展望台としては一級品だろう。横から光が当たる様子も、陰影が際立って美しい。

 広い山頂にはテーブル付のベンチが3つ。今日は他に登山者がいないので、展望もベンチも貸し切りである。少々風が冷たいがカップヌードルで温まる。

 

山頂からの富士
 
昼メシ

 

 広い山頂の東の方に行ってみると、眼下に青木ヶ原樹海が広がる。樹海の向うに御坂山地が険しい姿を見せて立ち上がり、足和田山との間に西湖が光って見える。樹海の中に出べそのように、大室山 も盛り上がっている。こちら側の眺めも良い。北の方には奥秩父の山々が連なっているが、やや霞んでいる。

 

御坂山地(左から鬼ヶ岳、十二ヶ岳、遠く黒岳)

 

青木ヶ原樹海

 


 下山は同じ道を戻る。北側の本栖湖からは何本もルートがあり、登り下りで違うコースが取れるが、南側は根原からのルートしかないので、これが欠点。

 登りで苦労した雪道は下りではもっと厄介で、一層慎重になる。しかし、半分雪が溶けかかったところもあるので、これまたアイゼンなしで下ってしまう。アイゼンを持っていながら滑って骨折なんてことになると御笑い種なので、よけいに注意して下るようになる。

 何とか泥濘道まで下り、少しホッとする。見下ろすとA沢貯水池が真四角な水面を反射している。いかにも自然林の中の巨大な人工物という感じで、違和感ありありである。

雪道

 

A沢貯水池俯瞰
 
樹間に本栖湖


 下りは正規の東海自然歩道を下ってきたが、A沢貯水池手前の杉林を出たところに新しい立派な案内板があった。昔、仕事で愛知県の東海自然歩道の施設修繕をしていたことがあったが、当時と比べると遥かに案内板のセンスが良く、情報量も多い。これは静岡県内だけかもしれないが、英語や中国語の表記もされている。感心至極で、頭が下がる思いだ。

 

 家に帰ってから富士市と御殿場市の富士山ライブカメラを見てみたら、どちらも雲が多い一日で、御殿場からはほとんど富士山の見えない一日だったようだ。富士は方角によって天気がずいぶん違うことが分かった。

 

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[山行日] 2015/1/28(水)
[天気] 晴れ   2015年1月の天気図(気象庁)
[アプローチ] 新東名・新富士IC ( R139号) → 根原登山口駐車場       [約31km]  
      
・ハイカー向け民地の駐車場。協力金500円を入れる郵便受けがある。
[コースタイム]  
  行動時間 発着時刻 地点名 休憩時間  
1:10 10:05 根原登山口駐車場出発   4℃
10:20 A沢貯水池    
10:40 東海自然歩道分岐    
11:15 端足峠 0:05  
1:00 11:20  
12:20 竜ヶ岳山頂(2693m) 1:00  
1:45 13:20  
14:15 端足峠    
14:35 東海自然歩道分岐    
14:50 A沢貯水池    
15:05 根原登山口駐車場着   全行動時間
3:55     1:05 5:00
登り 2:10        
下り 1:45        

*雪道で無雪期よりも時間がかかっている。
[地図] 精進 (1/25000)
[ガイドブック] 富士登山パーフェクトガイド〈大人の遠足BOOK〉 (JTBパブリッシング)

 

[立寄り湯] 富士山「天母(あんも)の湯」   <富士宮市山宮3670-1>
・HPのどこにも温泉とは書いてないが、温泉と紹介されているものもある。
・平日、60分まで410円。シャンプー、ドライヤーあり。
・露天風呂あり。富士宮市街が見下ろせるが、男湯から富士山は見えない。(女湯からは見えるらしい。)
・営業時間10:00〜19:00。月曜定休。