利尻岳( りしりだけ) <利尻山>                                                [北海道]  1721m

 

8月24日沓形岬公園から)

 
利尻岳に登ったのは学生時代の1976年(S51年)の8月。大雪、十勝の縦走、知床の縦走 を終えた後やってきた。鴛泊の市街地近くのキャンプ場から日帰りでピストンしたが、山頂はガスで展望は全く効かず、礼文島や樺太はもちろんのこと、楽しみにしていた「ぐるりと海」という眺めも見られなかった。
 今年はコロナウイルスの感染が広がり、夏山はどうしようかと迷っていたら百名山完登を目指しているNom君から「利尻にいきませんか?」というお誘いがあった。こんな時期に感染者が出てしまうと対応が大変な離島に行くのはいかがなものか、とは思われたが、以前から展望に未練があったために「利尻ならもう一度行ってもいいよ。」言っていたので、迷いながらも同行することにした。

 利尻に到着した日は、空港からは山頂が見えなかったものの、ホテルのある沓形からはきれいに全景を見ることができた。沓形からの利尻岳は整った三角錐ではなく、南に延びるノコギリ状の稜線が険しさを強調していた。さて、明日は天気予報が芳しくないが、どうなることか。

 宿の送迎バスで鴛泊コースの登山口まで送ってもらい、5時45分に出発。甘露泉までは舗装された緩やかな遊歩道が延びる。

 甘露泉ではドラム缶のようなものを背負った5〜6人程の一行が水を汲んでいたが、そのまま通過。左に姫沼へのハイキングコースを分けてミズナラやホオノキの落葉樹林を進む。林床にはエゾゴマナやサラシナショウマの白い花が咲いている。

 歩くのが速い野村君には先に行ってもらい、先ほどの一行と前後しながらマイペースで進む。

鴛泊コース登山口の北麓野営場

 

靴底の種子落とし

 

甘露泉

 4合目付近はエゾマツやトドマツの針葉樹の森で、進むにつれてだんだん周りの木々の樹高が低くなってくる。傾斜はまだ緩やかだ。
 道の両脇に風雪で曲がったダケカンバが現れてきて、やっと5合目に到着。わずかに鴛泊方面が見下ろせるようになった。
 先ほどの一行が追い付いてきたので、背負っている大きな筒のことを聞くと、プラスチック製のパイプでこれを縦に埋めて石や土を詰め、登山道のステップにするとのこと。9合目から上はかなり登山道の崩壊が進んでいるようで、宿のホテルでも「コマドリプロジェクト」と称して登山道修復の 寄附を募っていた。<巻末のINFORMATION参照>

4合目(下山時に撮影)

 

ダケカンバの道 クロツリバナの実

 

 周りの木々がだんだん低くなってきて、6合目の第一見晴台で一気に展望が開ける。
 霞んではいるが礼文島は見える。だが、さすがに樺太は分からない。ポン山越しに鴛泊の市街地が見え、港のそばの溶岩ドームであるペシ岬も良く見える。

 

礼文島遠望(海岸近くは利尻空港)

 

第一見晴台からポン山越しに鴛泊港

 第一見晴台からはハイマツの間を登る。少し登ったところに携帯トイレブースがあり、狭い道が混んでいる。

 胸突き八丁の7合目を過ぎてなおも登ると第二見晴台。Nom君が待っていてくれたが、随分ここで休んでいたらしいので、先に行ってもらう。
 少し岩場になっていて、島の北半分が良く見える。先ほどから見えていた長官山にかなり近づいてきた。
 山腹の広い斜面にはハイマツとスズダケが同じ緑ながら色合いを変えてモザイク状に広がっている。

 

第二見晴台から長官山(左)を見上げる

 

ノコギリソウ(シュムシュノコギリソウ?)

 

イワギキョウ

 なおも登って8合目の長官山。今まで見えなかった利尻岳の山頂がここで姿を現したが、なんと山頂にはもうガスが掛かっている。ありゃ〜、今回もダメだったか。まあ、こんな天気なので予想はしていたが、やはり気力が萎える。それでもひょっとしたら山頂でガスが切れるかもしれないと、当てのない期待をして先に進む。 

 長官山からは隣りの小ピークまで少し尾根道を進み、左手に避難小屋が見えてきたら、それに向かってトラバース気味に下る。

長官山の石碑

 

利尻岳と避難小屋

 

利尻山避難小屋

沓形の市街地を見下ろす

 

リシリブシ?

 避難小屋の周りにはベンチがあり、先行者が休んでいる。だんだん近くをガスが流れるようになってきたので、少し休んでパンを齧っただけで先に進む。

 小屋から先は道の傾斜がきつくなる。山頂方向はガスで見えないが、下界はまだ視界が効き、沓形の市街地や岬が見える。
 5合目で聞いたように、プラスチック製の土留めや木製の枠などで登山道が修復されている。

9合目のトイレブース
 

 9合目を過ぎると広い斜面にお花畑が広がる。もう最盛期は過ぎているので、利尻固有のリシリヒナゲシなどは見られないが、ノコギリソウやウメバチソウなどが咲いている。少し葉っぱが色づいているようで、山上は既に秋の気配だ。

斜面に広がるお花畑

 

シコタンハコベ

 

エゾヤマゼンコ?の実

 

ジンヨウスイバ

 

リシリトウウチソウ

 

 沓形コースの合流点を過ぎると、傾斜はさらにきつくなる。プラスチックのパイプや木枠の他、木段、鉄線の蛇かごなども使って階段や足場が作ってあり、崩れそうな斜面には土のうが積んである。
 このあたりの登山道は崩れやすい火山灰なので、登山者の踏圧や雨水の流れなどで浸食されて深い溝のようになっているところもある。
 登山道を確保する作業がなければ、ほとんど登ることができないような状態で、有難さが身に染みる。

修復された登山道
 

 登り着いた山頂は全くのガス。待っていたNom君が、先ほどまではローソク岩が見えていたんですけどねえ、という。44年ぶりの利尻岳はまたしても展望が得られなかった。まあ、こんなもんでしょう。山頂の神社の祠に無事の登頂を感謝する。

 山頂は風も激しく、ガスが体に当り濡れてくる。ここでもパンを齧っただけで、15分程で下山する。

山頂の祠にて

 

 9合目を過ぎたあたりでガスが雨粒のようになり、雨っぽくなってきた。ウインドヤッケが濡れてきたが下れば雲の下になるだろうと雨具を出さずにそのまま下る。
 ところが避難小屋を過ぎて長官山への尾根道に出たころに急に大粒の雨が降ってきた。迷ったがすぐにやむだろうと先に進む。しかし、雨はどんどん強くなり稜線で風もきつく瞬く間に体が濡れてきた。これはまずい。
 稜線で雨避けになるところもなく、しかたなく登山道にザックを下ろしヤッケを脱いで雨具を着る。先に傘を差そうかと思ったが風が強く煽られそうなので、もたもたと雨具を着けた。その間に体はびしょ濡れ。あっという間に 登山道は川のようになりザックも濡れる。
 やっとの思いで雨具を着て再び下山。ベタベタと不快ではあるが、体の芯まで濡れているわけではないので大事には至らないと、滑りやすい足元に気を付けながらボチボチと下る。すぐに止むかと思われた雨は第一見晴台手前まで続いた。
 途中、すぐそばにシマリスが現れたが、カメラをザックに仕舞ってしまったし、スマホもすぐに取り出せず写真が撮れずに残念だった。

 

 甘露泉近くまで下ってきて、エゾゴマナにアサギマダラがとまって蜜を吸っているのに気が付いた。写真を撮りながらふと、何でこんなところにいるんだ?と思った。
 アサギマダラは寒くなると南の島に渡る蝶なのだが、もう夏が終わろうとしているのにこんな北のはずれの島にいて大丈夫なのだろうか。寒くなる前に南下できるのだろうか。
 おまえ、のんびりしていて大丈夫か? 

 結局44年ぶりの利尻岳も「ぐるりと海」の望みは叶わなかった。

エゾゴマナにとまるアサギマダラ
 

 

利尻岳ルートマップ


[山行日] 2020/8/25(火)
[天気] 曇りのち時々雨       2020年8月の天気図
[アプローチ] 8/24  中部国際空港 9:30 →(ANA)→ 11:20 新千歳空港 12:35 →(ANA)→  13:25 利尻空港 →(ホテル送迎バス)→  ホテル利尻

8/25  ホテル利尻 5:25  →(ホテル送迎バス)5:45 登山口

・北麓野営場の休憩所、トイレなど利用できる。下山後の靴洗い場もある。

[コースタイム]  
  行動時間 発着時刻 地点名 休憩時間  
1:45 5:45 鴛泊登山口 発    
6:25 四合目 (390m)    
7:00 五合目 (610m)    
7:30 第一見晴台(六合目) (760m) 0:05  
0:55 7:35  
8:30 第二見晴台 (1120m) 0:10 19℃
0:30 8:40  
8:55 長官山(八合目) (1218m)    
9:10 避難小屋 0:05  
0:25 9:15  
9:40 九合目 (1410m) 0:05  
0:25 9:45  
10:10 沓形コース分岐 0:05  
0:20 10:15  
10:35 利尻岳(北峰)山頂 (1714m) 0:15  
0:35 10:50  
11:25 九合目 0:05  
0:20 11:30  
11:50 避難小屋 0:05  
1:25 11:55 突然の雨
13:00 第一見晴台    
13:20 五合目 0:05  
1:05 13:25  
14:30 鴛泊登山口 着    
7:45     0:55 8:40
登り 4:20   (コースタイム5:05h)    
下り 3:25   (コースタイム3:45h)    
    <コースタイム8:40h>    

 

[ガイドブック] 利尻島 登山ガイド」 利尻富士町・利尻町

 

[宿]

ホテル利尻
・利尻町沓形にある町営のホテル。
・天然温泉が広く、露天風呂も気持ちがいい。
・夕食に毎日生ウニがつく。
・鴛泊、沓形どちらでも登山口までマイクロバスで送迎してもらえる。

[コマドリプロジェクト]

・登山道崩壊という、利尻山のコマった問題をトリ除くことを目的に行われている活動。
・応援ピンバッジや手ぬぐいを買う(1,000円)ことで募金ができ、利尻山の保全の支援ができる。

 

【風景印】
沓形局

利尻富士と沓形岬に建つ詩人時雨音羽の碑

鬼脇局

利尻山、オタトマリ沼、湿原植物

鴛泊局

姫沼から利尻山を望む