蓮華岳(れんげだけ、2799m針ノ木岳( はりのきだけ、2821m)        [北アルプス]

 

 今年は白山開山1300年ということで、知り合いの宮司さんの神社の白山講に混ぜていただいて、白山登拝を予定していた。ここの白山講は毎年白山に登り、室堂の奥宮で餅撒きをしているそうで、今年は1300年祭で、たくさん餅を運び上げるのでちょうどいいとの事だった。
 しかし、台風5号の接近で前日になって急遽中止になってしまった。月末に予定している次の登山は少々ハードなので、5月以来登っていない脚では不安が大きい。台風通過後の残りの2日間で足慣らしが出来るところはないか、と考えたのが蓮華岳と針ノ木岳。
 蓮華岳は大町から見上げると一番目立つピラミダルな大きな山。針ノ木岳は一昨年立山から見て、ホントに針みたいだと思った山。気になる山を2つ一度に登れ、しかも登山道が雪渓歩きなので涼しそう。 天気予報を睨みながらギリギリまで迷った挙句、とにかく出かけてみることにした。

大町山岳博物館からの蓮華岳

 

針ノ木岳と内蔵助小屋

8月9日
 前夜に扇沢に着いた時にはまだ雨が降っていて、しかも大雨警報継続中。天気は期待できなかったのでゆっくり出発しようと思っていたが、目が覚めたら晴れていた。
 慌てて食事をして出発したが、登山口の案内所に登山届を出す頃には、もう霧雨が降っていた。まあ、こんなもんでしょう。
 登山道は樹林の中だが、岩がゴロゴロした歩きにくい道で、3、4回車道を横切る。ヘリポートの空き地を過ぎると本格的な山道になる。ブナ林が始まり、沢を幾つか越えていく。昨日の雨でどの沢も増水している。

ソバナ

 

ウド

  大沢小屋の手前の赤沢はどこを渡っていいか分からないくらい増水していて、少し上流に登って流れにポールを差し、それを頼りに岩から岩へ飛び渡る。
 後で針ノ木小屋で聞いた話だが、沢が渡れないと電話をしてきた登山者がいたそうだ。自分も逡巡するくらいの水量で、さもありなんと思われる。
 今回は雪渓歩きがあるので、珍しくトレッキングポールを持って (それもわざわざ新調して)きたのだが、こんなところで役に立つとは思わなかった。ポールがないと足を滑らせていたかもしれない。

増水した赤沢

 

針ノ木雪渓

 

ニッコウキスゲとオオバギボウシ

  大沢小屋で今夜の針ノ木小屋の宿泊予約を無線でしてもらい、一安心。なおも樹林を進むとやっと雪渓が見えてきた。
 雪渓下部は崩壊が進んでいて、ニッコウキスゲやオオバギボウシの咲く左岸をたどり、河原のような少し広いところを過ぎてから雪渓に取り付いた。

 

 チェーンスパイクを履き、ヘルメットを被り雪渓に踏み出す。まあ、ヘルメットまでは要らないだろうと思うが、穂高用に買ったものの一度も使ってないので、試しに持ってきた。意外に風通しが良く快適である。
 それでも、雪渓の上には50センチ大の岩や、モミやカンバの枝などいろいろなものが落ちている。雪渓自体も全体に薄汚れていて、景観的にはあまりよろしくない。ただ、吹きおろしてくる風は涼しく、快適である。
 チェーンスパイクは時々滑るが、傾斜があまりないので、大したことはない。ポールはプロテクターを外しても、先端が刺さらないくらい、雪面は固い。

 両側から岩壁が迫って雪渓が狭くなっているところはノドと呼ばれ、傾斜がきつくなっている。雪面に割れ目が幾つか入っていて、少々緊張する。

ノドのところのクレバス

 

 ノドを過ぎると雪渓は再び広くなり、傾斜も緩くなってじきに雪渓歩きは終わりになる。
 登山者がアイゼンを外しあちこちで休んでいる。
 自分もパンをかじりながら雪渓を見下ろしていたら、突然雨が降って来た。パンを咥えながら慌てて雨具を着けたが、すぐに小降りになってしまった。
 見上げると峠付近の雲は黒っぽいままなので雨具を着けたまま歩き始めたが、暑くてしばらくしてまた脱いだ。

通り過ぎたノドを見下ろす

 

 
ミヤマダイコンソウ

 

モミジカラマツ

 増水した沢を赤旗に導かれてちょっと苦労して渡り、草地の登りに取り付く。ミヤマキンポウゲ、ダイモンジソウ、モミジカラマツ、ミヤマダイコンソウなど花が多い。
 しかし、ここからの沢沿いの登りは傾斜が急で、だんだん足が重くなる。最後のザレ場のジグザグの登りは峠が見えているだけに、かなりしんどかった。

最後のザレ場

 

 針ノ木小屋でまず宿泊手続きをして、余分な荷物をデポ。ただし天候不安定なので、着替えやヘルメット以外はほとんど持っていく。予定では今日は針ノ木岳をピストンするつもりだったが、展望が望めないのでコマクサ群落のある蓮華岳に変更する。
 峠から蓮華への稜線の道はいきなり急登で、ますますペースが遅くなる。ガスに包まれた最初のピークを越えたころから砂礫地にポツポツとコマクサが現れ始め、広い尾根を進むにつれてどんどん多くなってくる。なかなかこれだけのコマクサが見られるところはないと思う。わずかな窪みにチングルマやコイワカガミも咲いている。

コマクサ

 

コマクサ群落

 

タカネシオガマ

 

イタドリ

 

 ガスの中に祠が見えたのでやっと山頂かと思ったが、若一王子神社の奥宮(おそらく大町の)で、山頂はもう一つ先のピークだった。蓮華岳と書かれた標識は北葛岳への分岐に立っていて、三角点はなお10mほど東にあった。

 山頂はガスに覆われていて何も見えなかったが、プリンを食べて休んでいたら、急にガスが晴れて北葛岳やその南に続く峰々が見え始めた。一瞬、尖った針ノ木岳の山頂もガスの切れ間に覗いた。大町は雲の下で、これまで大町から見上げていた眺めの逆の展望は叶わなかったが、まあこれは仕方ない。

蓮華の大下りを登ってくる登山者

 

三角点から峠へ戻る稜線、
向こうのピークの方が高く見える。

 

蓮華岳を振り返る

 

  小屋まで戻るとだんだんガスが晴れてきて、南の方角の展望が開けてきた。部屋の窓からも高瀬湖の向うに槍穂まで見え、外に出ると北側の鹿島槍も雲の上に顔を出してきた。日没までの間、夕日に染まる北アルプスの峰々と雲の競演を楽しむ。
 小屋のテレビの予報はあまり良くないが、明日の展望もなんだか期待できそうだ。

 

北葛岳

 

遠く大天井から槍穂の稜線、近景左は七倉岳。

 

北葛岳を越える雲

 

雲海の上に左から前穂、奥穂、槍

 

8月10日
 何もすることがなく、早く寝たのでうつらうつらしていたが、11時半に水を飲んで次に目が覚めたら4時半だった。同室で鹿島槍方面へ縦走する人たちの布団は既に空だった。日の出は5時くらいなのでちょうどいいと思い、そのまま起きてトイレに行った後、外に出る。

 蓮華岳はシルエットに沈んでいるが槍穂のあたりが明るくなり始めていて、北葛岳の東の雲海の果てに富士が覗いている。薬師の上には月が出ている。
 次第に山々が明るくなり、双耳峰の水晶が美しく、赤牛岳がひときわ赤く染まっている。
 小屋の裏に回ると、スバリ岳が剱岳のような岩肌を見せ、そこから鹿島槍、五竜と後立山連峰が連なり、遥か白馬まで望める。
 いい天気だ。

雲海に浮かぶ富士

 

 

水晶岳と手前左の烏帽子岳

 

スバリ岳

 

 5時半からの朝食をそそくさと済ませ、要らない荷物を乾燥室に置かせてもらって、針ノ木岳へ向かう。
 昨日同様、小屋からすぐ急登の稜線でしんどいが、一晩休んだので取りあえず脚は上がる。
 少し登ると斜面が広がり、ウサギギク、ミヤマキンポウゲ、ヤマハハコなど花が多い。針ノ木とスバリ岳の鞍部から今まで見えなかった剱岳が顔を出す。ちょっと見たことのないアングルだ。
 山頂へはほぼコースタイム通りの1時間弱で到着。

一番右が針ノ木岳山頂

 

 

スバリ岳から赤沢岳への稜線

 

稜線から覗いた剱岳

 

 針ノ木岳山頂からの展望は何とも言いようがない。北は白馬岳から南は槍ヶ岳の右肩に覗く乗鞍岳まで北アの名立たる山は全て見える。後立山の爺ヶ岳から北、烏帽子岳から南は歩いたことがあるが、この間の区域は空白になっていて、今まで登った山々が初めて見る角度から眺められ感動してしまう。立山の山頂に薄く雲が懸っている以外は全てクリアに見える。
 しみじみ眺めていると、水晶岳の稜線の東側にはカールがあることや、立山が黒部湖から随分切り立って聳えていることなどに改めて気付く。
 抜群の展望をいつまでも眺めていたいがそうもいかないので、後ろ髪を引かれる思いで下山にかかる。

 

 

高瀬湖の向うに大天井から槍穂の稜線が連なる

 

薬師岳のカール

 

 

立山三山と剱岳。眼下は黒部湖。

 

最奥は白馬岳方面その右手前に五竜、鹿島槍

 

 小屋に戻り荷物をパッキングして出発。ザレ場のジグザグ道を下ると、既に登山者が急登を登ってくる。
 昨日渡るのに気を遣った雪渓手前の流れも、水量が減って楽に渡れる。さて、これから雪渓下り、と思ったら、左岸側のトラバース道を登山者が次々に登ってくる。話を聞くと、雪渓の崩壊が進んで危ないので巻き道を通って来たとのこと。針ノ木小屋の人はまだ大丈夫ですよ、と言っていたので一日で状況が変わるとは俄かには信じられないが、昨日も確かに雪面に亀裂は入っていた。
 履きかけたチェーンスパイクを脱いで少しトラバース道を進んでみると、ちょうど雪渓を登ってきた人がいて、かなり危ないので下るのは止めた方がいいと言う。その言葉で決心をし、巻き道を下ることにする。
 

  巻き道はまだ整備が進んでいなくて、ザレ場を横切るヶ所などは注意がいる。
 ノドの上から見下ろすと、やはり昨日より随分亀裂が開いていて、崩壊間近の感じがする。ちょうど下から登山者が登ってきて、クレバスのところで逡巡していたが、何とか跨いで越えて行った。歩いている人はどんな感じだか分からないが、上から見るとかなりヒヤヒヤする。
 それでも何組かノドを登ってくるようだった。

クレバスが開いたノドを登る登山者

 

 巻き道は意外に花が多くて、クルマユリ、タテヤマウツボグサ、ミヤマママコナ、コバノコゴメグサなどいろいろ咲いている。
 巻き道は雪渓尻まで続いているのかと思ったら、鎖で岩場を降り、ノドのすぐ下の雪渓に下りてしまった。ここから雪渓歩きということらしい。
 下からノドを見上げてもやはり亀裂が見え、昨日より広がっているように思う。しかし、そこを下ってくる人もいるので驚いた。まあ、これだけの厚さの雪だから簡単には崩れないのかもしれないが、想像すると怖くて自分では下れない。まあ、自己責任ということなんだろうな。

クルマユリ

 

下からノドを見上げてもクレバスが見える

 

巻き道は右の岩壁の鎖を登る

 再びチェーンスパイクを履いて雪渓を下る。チェーンスパイクの歯は小さいので下りは滑りやすいが、傾斜の急なノドのところは過ぎているので、危ない感じは全くない。喘ぎながら登る登山者の横を、快調に下って雪渓尻まで降りる。

 大沢小屋まで来ると小屋の前に「コーヒーあります」と出ていて、それに誘われて一休み。美味しいコーヒーを飲みながらパンをかじり早い昼食にする。視線を窓に向けると、正面には爺ヶ岳が窓枠に切り取られて絵のように見える。
 小屋の主人が言うには、コーヒーを湧かす水はこの先の苔沢から汲んでくるのだが、その沢は伏流水になっていて、雨が降っても濁らないのだそうだ。下るときに是非とも汲んでいくように勧められる。

 小屋には針ノ木小屋で同室だった人が既に下ってきていて、雪渓を下ろうとした時に下から「来るな〜。」と声がかかったが、何だかわからずに下って行ったところ、亀裂が凄かったので慌てて引き返したとのこと。やはり判断が難しいところだ。

雪渓の上に広がる雲

 

 小屋でゆっくり休んで、再び下山。勧められたとおり、苔沢で水を汲む。
 登りで渡渉に苦労した赤沢はかなり流れが減っていて、これも楽に渡ることが出来た。
 樹林帯の日陰ではあるがだんだん暑くなってきて、扇沢にやっと降り立つ。登山口の案内所のテントには誰もいなかった。扇沢は観光客で賑わっていたが、既に雲が広がり始めていた。

 車で少し行った葛温泉の仙人閣で温泉に入る。昼時だったためか、湯船には他に誰も居らず、のんびり汗を流した。

苔沢の流れ

 

 

蓮華岳、針ノ木岳 ルートマップ


[山行日] 2017/8/9(水)〜8/10(木)
[天気]  9日(水) 曇り時々晴れのちガス、一時雨        2017年8月の天気図(気象庁)
10日(木) 快晴のち晴れ
[アプローチ]

 8日 安曇野IC → 大町 → 扇沢無料駐車場  [約41km]
 ・23時半頃到着。無料駐車場は半分以下の駐車状況。
 ・トイレは扇沢バスターミナルを使用。

[コースタイム]
9日         5:00起床
  行動時間 発着時刻 地点名 休憩時間  
1:30 6:50 扇沢出発 (1410m)    
8:20 大沢小屋 0:10  
0:40 8:30  
9:10 雪渓尻(約1850m) 0:10  
0:45 9:20  
10:05 雪渓上(約2130m) 0:30 食事中に降雨。
0:45 10:35  
11:20 2365m付近 0:10 ←雨具を脱ぐ。 
0:25 11:30  
11:55 針ノ木小屋(2536m) 0:30 ←宿泊手続き、不要荷物デポ。
1:15 12:25  
13:40 蓮華岳山頂(2799m) 0:45  
0:50 14:25  
15:15 針ノ木小屋到着   全行動時間
6:10     2:15 8:25

 

10日         4:30起床
  行動時間 発着時刻 地点名 休憩時間  
0:55 6:00 針ノ木小屋出発    
6:55 針ノ木岳山頂(2821m) 0:30  
0:45 7:25  
8:10 針ノ木小屋 0:20 ←パッキング。
0:40 8:30  
9:10 雪渓上(約2130m) 0:05  
0:15 9:15 ←高巻き 
9:30 ノド首下 0:10  
0:20 9:40  
10:00 雪渓尻(約1850m) 0:05  
0:30 10:05  
10:35 大沢小屋 0:25 ←コーヒーで昼食。
1:10 11:00  
12:10 扇沢駐車場到着   全行動時間
4:35     1:35 6:10

 

 

[山小屋] 針ノ木小屋
・100名収容。1泊2食9,500円。
・宿泊者は水1ℓ無料。
・食事はあまりうまくない。冷凍食品中心。
・乾燥室あり。
・トイレが臭う
・当日は定員の半分くらいの宿泊者。
[温泉] 葛温泉、仙人閣
  
<日本秘湯を守る会会員の温泉>
・入浴料700円。
・室内に湯船が2つ。外に露天風呂あり。
・かけ流しなのか、どの湯船もとても熱い。
・石鹸、シャンプー、ドライヤーあり。
・コインリターン式の貴重品入れあり。
・昼時だったためか、他に誰も入っていなかった。快適!