大川入山(おおかわいりやま)                             [南信] 1908m 

  

 新しい登山靴を買ったので「夏山の前に履き慣らしをしなければ。」と山を探すが、今年の梅雨は天気が続かない。しかたなく日帰りで行ける手頃な山として大川入山を選んだ。
 大川入山は母校の小学校の校歌にも歌われる故郷の川・矢作川の源流の山で、1982年に登ったことがある。なんと34年前。11月の末のことで、南アルプスが良く見えた記憶がある。(驚愕の山行記録は最後に)

 早起きは苦手だが夜明けが早いので、4時25分に自宅を出発。治部坂峠の駐車場には6時20分到着。まだ朝の清々しさを残す中、身支度を整えすぐに出発する。
 上空は染まりそうな青空だが、朝っぱらから「あお〜、あお〜」とアオバトが陰気な声で鳴いている。

 デンソーの保養所の側を通り、舗装道路から登山道へ。浄水設備の横を抜けると、鉄の橋で沢を渡って向かい側の支尾根に取り付く。

沢を鉄橋で渡る

 

 尾根道は木の根が露出していて歩きにくい。シラビソやアカマツも混じるが、木の根を気張って張っているのはヒノキのように思われる。この木の根道が延々と続く。 

 ウグイスやコルリ、ミソサザイなどの鳥の声も聞こえるが、ジャワジャワとうるさいエゾハルゼミの声にかき消される。

木の根道

 

 支尾根を登り詰め、稜線に出ると木の根道も終わり、歩きやすくなる。横岳山頂近くで一か所、道が北側に崩壊しているが、巻き道が付いている。崩壊地からやっと大川入山の山頂が望める。三角の山容が美しい。
 伊那谷を隔てた南アルプスも望むことができ、シルエットながら仙丈ヶ岳から聖岳まで確認できる。梅雨時にしては遠望がきき、うれしくなる。

 早くも下山してくる人がいてびっくりする。登山口に豊田ナンバーのランクルが止まっていたので、おそらくその人だろう。それにしても早い。

大川入山

 

 横岳山頂は三角点があるものの、樹林に覆われていて展望はきかない。

 ベンチがあるので朝食のコンビニおにぎりを食べていたら、男性が登ってきて先行していった。ウィークデイでもこんな山に登る人がいるのだ。
 30年前に登った時は、ガイドブックには載っておらず、コースの状況を調べるのに苦労した覚えがあるが、今は意外に人気の山のようだ。ここは長野県なので奥三河の山とは言えないが、山続きなので、愛知県のハイカーにはそこそこ知られている。

横岳山頂

 

 ここからは緩やかなアップダウンの稜線歩き。灌木が茂っていたり、カラマツが植林されていたりして展望が利かないのが残念だが、日陰も提供してくれるのでその点ではありがたい。それでも1616mのピークからは茶臼山など奥三河の山々の展望が開ける。
 地面にドウダンツツジの花がたくさん落ちている。盛りは過ぎてしまっているようだが、まだ花を付けているものもある。ほとんどがサラサドウダンだが、ベニドウダンと思われるものもある。大川入山にはカイナンサラサドウダンもあると、昔調べた時にネットに出ていたが、それらしいものは見つけられなかった。

愛知県の最高峰、茶臼山

 

ベニドウダン

 

 登山道の上にはカラマツやシラビソの枯れ葉が積もっていて、クッションが効いて膝にやさしい。歩きやすいが稜線は長い。そろそろくたびれてきた頃に突然「山頂まであとおよそ2km」の標識が現れる。あと2キロかと思ったが、この2キロが長かった。(後であとおよそ1kmの標識も現れるのだが、この1キロは妙に短い。「およそ」がポイントらしい)

 最後の登りにかかる鞍部の手前に古い標識があった。シラビソの幹に打ち付けられた標識は錆がひどく、かろうじて文字が読める程度。この山には近頃の山には珍しくほとんど標識がないが、この標識はおそらく30年前にもあったのだろう 。そう思うと「よく頑張ってるな。」と、ちょっと愛おしい。

 

古い標識

 

 最後の登りにかかってもカラマツなどがあって展望が利かないが、少し登ると笹原が開け、やっと山頂が見えてきた。

 青空と笹の緑と木々の深緑。光が溢れ、コントラストが効いて眩しい。気分よく山頂に到着。

笹原の道を登る

 

 横岳で先行していった登山者がちょうど降りて行ったので、山頂には誰もおらず独り占め。
 北の方に中央アルプスが見え、展望盤によれば、空木や南駒が手前に、その左奥に木曽駒が続いているようだ。南アルプスは周りの木に邪魔されて、赤石岳方面は見えないが、北部の仙丈から白根三山辺りが見えている。

大川入山山頂

 

中央アルプス

 

 もう少し良く見えるところはないかと山頂の先に進んでみると、山頂の端で北側が開けた。緑の稜線の先に蒼く見えるのは恵那山だと思うが、いつもの船底型ではなく三角のすっきりした山容で見間違えてしまう。
 その右には御岳と乗鞍が霞んで見え、なおも右には薄っすらと穂高連峰まで見える。奥穂は雲の中だが、前穂の鋭い頂がよくわかる。梅雨時にしては上々の眺めではないか。

左奥が恵那山 (右手、薄く御嶽)

 

乗鞍岳遠望

 

 途中の稜線では終わりかけであったサラサドウダンも、山頂一帯ではまだ充分見られる。木によって随分花色が違うが、サラサドウダンは変異が大きいそうだから皆、サラサだと思われる。ベニサラサドウダンという種類もあるのだが、こちらはもう少し北の方に生えるらしい。花が赤いものほど葉っぱも赤っぽいのが興味深い。

 

白っぽいサラサドウダン

 

中間のもの

 

赤っぽいサラサドウダン

聖岳(左)と上河内岳(右)

 

隣りの笹の稜線(背後は焼山)

 

 昼飯を食べ、1時間ほどのんびりして下山にかかる。なんとかもう少し南アが見えないかと思って注意していたが、南端の聖岳、上河内岳が見えただけだった。

 登りには気が付かなかったが、笹原のササに花が咲いていた。あちこちに見えるが、一面に咲いているという訳ではない。ササは花が咲くと一斉に枯れると言われていて、最近どこかで一斉に開花したとテレビで放映していたが、開花の当たり年だろうか。60年に一度咲くとも言われているが、本当に確認した人がいるのかは怪しいと思う。

 下山途中に出会った登山者はいずれも単独行で3名。本日の登山者は全部で6名だったようだ。

笹の花

 

ルリビタキの幼鳥

 

緑の宇宙

 さて、山行中ずっと感じていたのは、「こんなに展望が利かなかったっけ?」ということだった。横岳から大川入山山頂にかけての稜線はもっと眺めが良かったような気がした。木々の葉が落ちた晩秋ということもあっただろうが、それにしても、もっと展望を楽しみながら歩いたように思っていた。

 それで、帰ってから昔の山行記録を引っ張り出してきて、読んでみてビックリ!
 なんと、横岳山頂から大川入山はもちろん、中ア、八ヶ岳、南アが見えたと書いてあるではないか。現在、樹林に覆われていた横岳山頂は、当時、伐採直後だったようだ。すっかり記憶から抜け落ちていたが、昔のアルバムには南アのパノラマ写真が残っていた。 大川入山の山頂の木々も低かったようで、360度眺められたと書いてあった。
 30年の歳月は、木々をこんなにも成長させ、こんなにも展望を変えてしまうのかと、改めて驚いた次第だった。
(ちなみに、今回登り下りで5時間35分かかった行程を、当時は3時間35分で歩いていた。これも驚き!若かったんだねえ。)

横岳付近からの大川入山
(1982.11.28撮影)

 

 

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[山行日] 2016/6/27(月)
[天気] 晴れ      2016年6月の天気図(気象庁)
[アプローチ] 自宅(岡崎) (R248号、県道39号 )→ 足助 →(R153号)→ 治部坂峠P     [約90km]
      
・国道の北側の駐車場15台ほど駐車可能。
・トイレなし。東屋あり。
[コースタイム]  
  行動時間 発着時刻 地点名 休憩時間  
1:15 6:35 治部坂峠P (1220m)   13℃
7:50 横岳 (1574.6m) 0:10  
1:50 8:00  
8:55 鞍部    
9:50 大川入山山頂 0:50  
1:25 10:40  
11:15 鞍部    
12:05 1616mピーク 0:10  
1:05 12:15  
12:25 横岳    
13:20 治部坂峠P   全行動時間
5:35     1:10 6:45
登り 3:05        
下り 2:30        
 

 

[温泉] 平谷温泉「 ひまわりの湯」

・長野県下伊那郡平谷村252。 道の駅に併設された日帰り温泉施設。
・入浴料 600円。 (JAF会員証提示で100円引き)
・無休営業(冬季12月〜3月 毎週水曜日定休)。
・コインロッカー無料
・露天風呂が広く気持ちがいい。
・石鹸、シャンプー、ドライヤーあり。