野坂( のさかだけ                                                [福井南部]  914m 

 

 野坂岳は敦賀市の背後の山で、岩篭山、西方ヶ岳とともに敦賀三山と言われている。岩篭山は1980年、西方ヶ岳は1998年のどちらも10月に登っている。
 久しぶりの山歩きでどこに行こうか迷い、手軽に登れて落葉樹の多い季節感のある山として、岩篭山に行こうと思ったのだが、天気が良さそうなので、白山が見える可能性が高い野坂岳に変えた。岩籠山は沢沿いの道なので、もう少し若葉が出揃った頃に行くことにしよう。

 野坂いこいの森の入口を通り過ぎ、なおもキャンプ場の間の車道を登っていく。登山道らしい案内板の近くに駐車場があり、もう少し先までいけるかと思ったらすぐに車止めがあった。やはりここから登るようだ。 
 平日にもかかわらず、既に10数台車が止まっていて、駐車場は一杯。路肩の広い所へ止める。

 支度をしている間にも車があがってくるが、なんともう下山してくる人もいる。今9時半だから、6時ころから登ったのだろう。人気のある山らしい。市街地の近くなので健康登山の山かもしれない。

 登山口の周辺はキャンプ場だが、すぐ杉の植林地に変わる。なかなか寒く、ウインドブレーカーを着たまま歩く。
 道は沢に沿って登っており、ふと目を上げると白い花をいっぱいにつけた木が沢を塞ぐように立っている。コブシだ。その先には山桜も咲いている。まだ、早春の感じだ。

杉の植林地を登る
 

コブシの花
 
トチノキ地蔵

 石に彫られた地蔵さんのところで沢をわたり、斜面を横切りながら支尾根に出る。展望が開けて敦賀の市街と敦賀湾が望める。市街地の左手には緩やかな三角形の西方ヶ岳が敦賀湾を区切っている。

 ここからは尾根道になり、まだ新緑にもなっていない。裸木の影が登山道の上に縞模様を描いている。

山桜越しに西方ヶ岳と敦賀湾
 

行者岩
 
山頂の手前のピーク

 行者岩は帰りに寄ることにして先に進む。左手に山頂らしきピークが見えてきたが、まだまだ遠い。(しかも行ってみると一つ手前のピークだった。)
 稜線上はカエデやリョウブの気持ちのいい落葉樹の道。ムシカリやマンサクが彩りを添えていて、まだまだ早春の山そのものだ。振り返ると一面の落葉樹の森の向こうに西方ヶ岳が覗いている。
 

マンサクの花
 
遠く西方ヶ岳

 標高が上がるにつれてブナも増えてきた。1000mに満たない山ではあるが、日本海側なので幹の白いシロブナだ。芽吹きはまだまだで、北風に吹かれて立ち尽くすだけ。稜線の左手にはまだ雪が残っていた。寒いはずである。

 山頂近くの登山道沿いにロープが張ってあり、「カタクリを踏まないでください」と看板が立っている。カタクリの葉っぱはあるが、花はまだない。と思ったら笹薮のなかに2輪だけ咲いていた。

 最後の傾斜を登りきると避難小屋があり、その後ろが山頂だった。

ブナの森
 

 山頂は広く開けていて360°の展望。北東の方角を見やれば、期待した白山が・・・。と思いきや、山頂の展望盤で確かめてみると、どうも奥美濃の山々らしい。三周ヶ岳あたりが見えているようだ。
 白山は雲の中で、それらしきあたりにぼんやり白い山肌が見えるだけ。風は強いのだが遠望は利かない。残念でした。

 北から西にかけては日本海が広がり、常神半島や三方五湖の一部、遠く青葉山も霞んで見える。南の方は湖北の山々が連なり、三国山と乗鞍岳の鞍部越しに、予想外の大きさで琵琶湖が広がっている。
 「ああ、琵琶湖はこんなに近いのだ。」
 琵琶湖の向こうは京の都である。敦賀や小浜から鯖街道など、京への物資の輸送路が開かれていたのも、もっともなことだと納得できる。
 

山頂の一等三角点
 

常神半島
 
奥美濃の山々

 北風を避けるためツゲの木の陰に座り込み、お湯を沸かしてカップヌードルを食べる。スープの暖かさがうれしいほど風は冷たい。 先程まで上空をかなりの速さで通り過ぎていた雲も今は全くなく、青い空が広がっている。
 ドリップのコーヒーを飲みながら改めて山々を眺める。大きな伊吹山、それに続くのは金糞山や横山岳だろうか。どれもいい山だった。

 下山の前に避難小屋を覗いてみる。板張りで割ときれいだ。部屋の隅に嶽権現の祠が置いてあ ったので、無事の下山を祈ってお参りをする。壁の温度計は8℃だった。

イワナシの花
 

 下山の途中で、先ほどパスした行者岩に寄る。登山道から分かれて岩の基部まで行くとロープが下がっていた。ロープに頼りながら登りかけたら、首から下げていたカメラがロープに触れて、レンズキャップが落ちてしまった。すぐ足元に落ちたのだが、傾斜がきついので、そのまま転がり、コンコンコンと軽やかな音をたてて飛び跳ね、谷底へ落ちていって見えなくなってしまった。また、やってしまった。
 山でレンズキャップをなくしたのはいったい幾つ目だろうか?すぐに写真が取れるようカメラはいつも手に持っているので仕方がないのだが、気を付けていてもどうしようもない時もあるのだ。

 岩の上には先客がいた。初老の男性が一人。場所を譲ってもらい岩の上に上がると敦賀の市街地が眼下に広がる。街を見下ろすなら山頂よりも眺めはいい。

 その男性は敦賀市内の方で、初めて野坂岳に登りに来たとのこと。退職して時間を持て余していて、いつも眺める野坂岳に登ってみようと思い立って出かけて来たが、登り始めが遅かったので行者岩で引き返すつもりようだ。 

敦賀の市街地
 

 愛知県の岡崎から来たと言ったら、息子さんの奥さんは岡崎の隣の西尾市の出身だと言う。息子さんが愛知県で働いていた時に知り合って、結婚してこちらに転職したとのこと。
 このおじさん、話好きらしく、敦賀の歴史をいろいろ教えてくれる。興味深かったのは平清盛が厳島神社を造る前に、敦賀の気比神宮を大陸貿易の拠点にしようとしていた、という話。遥か昔には渤海国との交流の窓口になっていた土地なので、大陸交易を目指した清盛が目を付けたというのは、頷ける話だ。先ほど山頂から見た京への近さも頭に浮かんだ。
 その他、織田信長が北陸攻めに邪魔になる気比神宮を焼いたとか、いろんな話をしてくれたが、切り上げるきっかけがなかなか掴めなくて、少々困った。

 20分ほどおじさんと話をして、行者岩を後にする。後は下るだけ。
 トチノキ地蔵を過ぎて谷沿いの道になると、登りではコブシや山桜など上ばかり見ていて気づかなかったが、流れの近くはニリンソウやヤマエンゴサクなど花ざかりだった。キャンプ場には、以前、小浜の久須夜ヶ岳でたくさん見たトキワイカリソウも咲いていた。
 山の春はまだまだこれからだ。

ヤマエンゴサク
 

アイコンをクリックするとマップがでます。


[山行日] 2013/4/22(月)
[天気] 晴れ
[アプローチ] 北陸道 敦賀IC (R27)→ 西野神交差点 →(県道)→ 敦賀市立野坂いこいの森駐車場       [約10km]

・駐車場10数台程。
[コースタイム] 9:30 いこいの森駐車場 (0:30) トチノキ地蔵 (0:30) 行者岩分岐 (1:00)  11:30  野坂岳山頂 12:30  (0:40) 行者岩 (0:40) いこいの森駐車場 14:10   (計3:20)
[地図] 敦賀 (1/50000)
[ガイドブック] 分県登山ガイド19 福井県の山  山と渓谷社