金剛山(こんごうさん)                                     [奈良] 1125m 

  

 世の中は新型コロナウイルスの感染拡大のために大騒ぎ。東京、大阪では外出自粛の要請がされ、愛知県でも名古屋市を中心に感染者が増加し、感染経路を辿れない感染者が増えてきている。
 そんな時に「山に行こう」などというのは不謹慎ではあるが、我慢していると精神衛生上よろしくなくイライラしてくるので、なるべく人に接触しないよう、車移動、車中泊で出かける。と言っても普段の山行スタイルと変わらないのだが、手洗や食事には神経を使う。
 行先は金剛山。二百名山である。二百名山全てを登れるとは思っていないし、そんな気もないのだが、まあ百名山を登ってしまった後は、登りたい山のリストに どうしても二百名山が増えてきてしまう。偶然ではあるが、今年になって登った山は御在所岳、大日ヶ岳、天狗岳で 、再登ながらどれも二百名山だった。
 金剛山は大阪府の最高峰ではあるが、アプローチのしやすさから奈良県側から登ることにした。

 午後9時半頃に高天彦神社に到着。杉並木の参道前に駐車スペースがあるが、その横に10台以上は駐車可能な駐車場があり、その隅に車を止める。間違えて羽毛ではなく化繊のシュラフを持ってきてしまったので、寒くてあまり眠れなかった。明け方、寒くてぐずぐずシュラフの中にいたら、気が付いた時には駐車スペースの方に5台程車が止まっていた。ウィークデイなのに何ということだ。
 慌てて起き出しガスボンベに火を付けるが寒くて火が消えてしまう。手でボンベを温めながら、なんとかカップうどんを作って朝食とする。

 駐車スペースのところに「迂回登山道 高天彦神社から高天ノ滝のルートは通行できません」と案内板が出ている。平成23年と平成29年の台風によって登山道が崩落してしまったようだが、ヤマレコの記録によれば簡易的に迂回路ができていて通れるらしいので、予定通り高天ノ滝経由で登る。

う回路の案内板

 

高天彦神社

 

登山道わきの桜

 

 まずは高天彦神社にお参りする。御祭神は高皇産霊神(たかみむすびのかみ)。なかなか偉い神様が祀ってある。この集落は高天(たかま)と言われるだけあって、高天原の伝承がある。
 高皇産霊神は高天原に現れた最初の三神のうちの一柱なので、この地に祀られるにはふさわしい神様である。

 神社の前から始まる登山道は水車の横を抜け、ピンク色が濃い桜の脇を通り高天ノ滝に続く。滝までは狭い道ながらも舗装がされている。

 高天ノ滝は見た瞬間、「意外に小さな滝だなあ。」と思ったが、どうやら台風の土砂崩れで埋まってしまったようで、かつては二段目の滝がもう少し下まであったらしい。一段目の滝の落差は5mくらいか。
 

高天ノ滝

 

 滝の手前で沢を渡り、山腹に取り付く。急な道がしばらく続き、次第に尾根道になる。案内板で示された迂回路と合流したところに「い-2」と書かれた看板があった。 緊急時に位置を知らせるための看板で、ダイヤモンドトレイルに合流する所の「い-7」まであるらしい。
 先行していた3人の女性グループに追いついたのでこの先の登山道の状況を尋ねると通行可とのこと。安心して先に進む。

 周りは一面の針葉樹の植林で桧と杉が植えられているようだ。まだ細い幹だが、手入れはまずまずといったところ。林床の植生はあまりないが、アオキの赤い実が目立つ。

ヒノキの植林地を登る

 

 高天から登るこの道は高天道と呼ばれているが、郵便道とも言われるらしい。かつてはこの道を通って郵便が山上に運ばれたようだ。
 と、そこで妙なことに気が付いた。金剛山は大阪府の最高峰なのに、何で奈良県側から郵便を運ぶんだ?楠木正成の千早城が大阪側の尾根上にあり、ロープウェイも大阪側から登っているので大阪との関わりが深いはずなのに何でだ?
 改めて地図を見て驚いた。大阪府と奈良県の県境は金剛山の山頂付近で稜線を外れて大きく大阪府側に迂回し、山頂一帯は奈良県になっていた。金剛山は奈良県の山だったのだ。 

アオキの実

 

 とすると、金剛山は大阪府の最高峰ではないのか?家に帰ってから調べてみると、国土地理院のHPでは金剛山は大阪府の最高地点となっていて、その標高は1056m。金剛山の南東の尾根上にあるらしい。
 Wikipediaでは大阪府の最高峰としてはお隣の葛城山を掲載しているが、その標高は959mである。

 

 植林地の中の単調な道に飽きてきた頃、道は崩壊地に突き当たる。斜面が大きくえぐられているところが二ヶ所ある。どちらも崩壊地を避けて迂回路が造ってある。
 崩壊地からは樹木に邪魔されず東側の展望が開ける。明日香の盆地が見下ろせ、昨年登った大和三山の天ノ香久山も見える。盆地の向うには山々が重なり、なだらかな山並みの中に高見山の三角形が存在感を見せている。

 崩壊地を過ぎると登山道の傾斜がきつくなり、丸太階段が現れる。この階段が植林地の中を延々と続き、それがやっと切れて尾根の上の道に出る。
 金剛山から葛城山に続く道で、大阪の府境をたどるダイヤモンドトレイルと呼ばれる道だ。これを左に進むとロープウェイ乗り場から来るコンクリートの道に合流し、そこに一の鳥居が立っている。鳥居の横には「史跡金剛山」の石柱もある。

崩壊地から高見山を遠望

 

丸太階段が続く

 

一の鳥居

 

 鳥居くぐって登っていくと、右手に葛城山が見えてくる。葛城山の方が標高が低いので、見下ろすような感じになり、山頂部の枯れた草地がきつね色に見える。

 仁王杉を過ぎると金剛山の山頂の葛木神社にたどり着く。もっとも高いところは神社の敷地の中らしく、そこに立つことはできない。御賽銭をあげて登頂を感謝する。
 葛木神社の御祭神は葛木一言主大神(かつらぎひとことぬしのおおかみ)。古事記や日本書紀にほんの少しだけ登場するだけだが霊験あらたかな神で、一言だけ願いをすれば叶う神と言われている。もともと は事代主神(ことしろぬしのかみ)を祀る神社で、一言主大神は後から祀られるようになったらしい。一言主大神は山麓の葛城一言主神社にも祀られていて、そちらが総本社のようだ。

 

葛城山 葛木神社

 

 金剛山の山頂に葛木神社があるというのは、少し変な感じがするが、もともと葛城山というのは金剛山や葛城山を含むこの山塊の総称とのこと。最高峰であるためにかつてはこちらが葛城山と呼ばれていたが、役小角が建立したお寺が一乗山金剛山寺(現在の金剛山転法輪寺)であることから、いつの間にか金剛山と呼ばれるようになったらしい。

 役小角の開山ということからも分かるように金剛山はもともと修験道の山で、現在葛木神社が建っているところに金剛山寺があったのだが、明治維新の神仏分離令で廃寺となり、以後、葛城神社として存続してきた。戦後、現在の本堂が建てられ転法輪寺として復興したらしい。
 ちなみに「転法輪」とは「法輪を転ずること。

釈迦が説法して人々の迷いを砕くことを、戦車が進んでいって敵を破ることにたとえたもの。」とのこと。

 

夫婦杉

 

転法輪寺本堂

 

 転法輪寺にもお参りし、本堂前の階段を下りると右手の売店の横に人だかりのする建物がある。これが有名な?登山証明のハンコを押してくれる所らしい。「登山回数捺印所」とあるだけに、金剛山は回数登山で知られている。
 普通は健康登山とか毎日登山とか言われるが、ここはスケールが大きくて、向かいのトイレの横に貼り出してある記録者名簿を見ると1万回登山の方もいて驚かされる。回数登山という言い方がふさわしいものに思える。
 先ほどの葛木神社の玉垣にも「五千回登山記念」などと彫られたものもあって、回数を目的とする登山が広く行われていることが分かる。

登山回数捺印所

 

 捺印所の先にあるのが、国見城跡の展望広場。大阪側の展望が開け、大阪湾沿いの果てしなく広がる市街地が眼下に見下ろせ、高層ビル群も右端に見える。市街地の向うには六甲の山並みも横たわっている。
 今日は予報では晴れることになっていたが、薄雲が広がり風はないもののうすら寒い。コーヒーを飲みながら頭上を見上げると葉を落とした枝の上をカラ類がピチピチと鳴きながら渡っていく。谷間からウソの声も聞こえてくる。山腹は針葉樹の植林一色だったが山頂付近にはブナ林など自然林が残っていて、野鳥の数も多い。

大阪の市街地を見下ろす

 

金剛山山頂ライブカメラの画像(金剛山練成会のHPから)

 

 この広場は時計広場とも言われていて、ここも金剛山の名所のひとつ。NHKの「ドキュメント72時間」でも紹介されたライブカメラがあるところで、毎時00分と30分に静止画が撮影され、インターネットでその画像が公開されている。時計はその画像の時間を表示するためのもので、本来は山頂の気象状況を紹介するカメラであったが、だんだんそれに登山者がポーズを取るようになり、写真に写ることを目的に登る人が現れ人気になっていったらしい。
 ちょうど山頂で休んでいるときに9時に近付き、人々が時計の近くに集まり始めたので、自分もそばにいる人にどこまで写るか聞いて画面の端に収まった。

 

マツバカケ尾根の下山路

 

不動尊像

 

 下山はどうしようか迷ったが、迂回路に指定されていた尾根道を下ることにした。ダイヤモンドトレイルとの分岐から、登って来た丸太階段の道ではなく、右手の植林地のなかの踏み跡を下って行く。しばらくははっきりしない巻き道だが、尾根に出ると登山道らしくなってくる。しかし、郵便道ほど整備された感じではなく、登りはともかく下りに使うとトレースに迷うところもある。
 登りと同じでこちらも果てしなく植林地でわずかに右手の斜面が自然林になっている所があるが、変化に乏しい道である。
 この道はマツバカケ尾根と呼ばれていて、尾根伝いの中道と途中から山腹を巻く裏道とがあるが、中道の方を下った。別名不動道と言われ、途中の道の脇に 石造りの不動尊像がある。

 い-2のポイントで一旦郵便道に合流し、高天ノ滝へは行かず右手の踏み跡を下る。少し下ると植林地を抜け、急に明るく開けた段々畑に出る。獣除け柵が設置されているが、ほとんどは休耕地のようだ。

 

段々畑のヤマナシ

ヤマナシの花

 

 ふと目の前に真っ白い花を枝一杯に付けた樹が現れた。その白さから桜ではないことは分かるが、何の樹だろう。瓦屋根の民家をバックに緑の段々畑に立つその樹は、いかにも穏やかな山里を表しているようで一幅の絵のようでもある。
 家に帰って調べてみても樹種がはっきりしない。ズミとも思ったが、ズミはつぼみがピンク色だし、花と葉が一緒に出るのでどうも違う。結論としてヤマナシとしたが自信はない。

 

 段々畑を下りて一軒家の民家の前を左折し、庚申さんの前を通って登山口の駐車場に戻る。まだ10台程車が残っている。

 金剛山は登山途中が植林地ばかりで面白くはないが、山頂と山麓が魅力的な山だった。

高天の里

 

金剛山ルートマップ


[山行日] 2020/4/3( 金)
[天気] うす曇り        2020年4月の天気図(気象庁)
[アプローチ] 2日 京奈和道・御所南IC (R309号、県道30号)→  高天彦神社参道前駐車場 [約6km]
      
・20台ほど駐車可能。高天彦神社にトイレがある。
[コースタイム]  
  行動時間 発着時刻 地点名 休憩時間  
0:50 6:35 高天彦神社 発    
7:00 い-2分岐    
7:25 い-4 0:05  
1:20 7:30  
8:25 一の鳥居    
8:35 葛城神社    
8:50 国見城跡、山頂広場 0:35  
1:30 9:25  
9:40 一の鳥居    
10:00 まつばかけ尾根、ヤッホーポイント    
10:55 登山口駐車場 着   全行動時間
3:40     0:40 4:20
 
[地図] 御所、五條(1/25000)

 

[温 泉]

かもきみの湯  <御所市大字五百家333>
・日帰り温泉施設。天然温泉らしい。入浴料600円。
・広い浴槽。源泉湯、薬草湯など露天風呂が4槽くらいある。
・ボディソープ、シャンプー、ドライヤーあり。