イブネ(1160m)、クラシ(1145m)                                     [鈴鹿] 

  

 鈴鹿の御在所岳の西に、愛知川源流の谷を挟んで大きな山塊がある。鈴鹿セブンマウンテンのひとつの雨乞岳から北へ、標高1,000m前後の山々が連なり銚子ヶ口まで続いているが、その間の台地状の山がイブネ、クラシである。
 鈴鹿の奥座敷とも言われ、あまり登る者もいない山であったが、2015年に滋賀県の東近江市が市制10周年を記念して「鈴鹿10座」というものを選定し、その中のひとつにイブネが選ばれたことから、広く知られるようになった。また山頂一体に苔の絨毯が広がり、そこでのテント泊がコロナ禍のソロテント泊ブームで注目され、急に登山レポートが多くなった山である。
 イブネ、クラシの名前は国土地理院の地形図には表記されてないが、昔からガイドブックには記載がされていて、行きたいところではあったが、一般の登山道がなく沢歩きか 薮の尾根を登るしかないため、諦めていた。
 今回もバリエーションルートであるイブネの南東尾根かクラシの北東尾根を登ろうと思っていたが、病み上がりで不安があるので、少々距離は長いが古道である千草街道を 滋賀県側からたどり、杉峠から尾根伝いにイブネに登ることにした。現在のところ利用者が最も多く、ルートが明確な安全な道だと思われる。
 ちなみに「鈴鹿10座」は御池岳、藤原岳、竜ヶ岳、釈迦ヶ岳、御在所岳、雨乞岳、イブネ、銚子ヶ口、日本コバ、天狗堂の10山である。 

 道の駅「奥永源寺渓流の里」は山中の三桁国道沿いではあるものの、ゴールデンウィークということもあって、20台くらいの車中泊の車で賑わっていた。
 羽毛ではなく間違えて化繊のシュラフを持ってきてしまった上に、思いのほか冷え込んだこともあって、あまり眠れなかった。と書いたところで2年前の金剛山の記録を見てみたら、全く同じ失敗をしていた。おまけに寒くてガスに火が付かなくて苦労したことも同じ。反省がない。

 なんとかカップうどんを食べて甲津畑の登山口まで移動。既に7〜8台の車が止まっていた。イブネはやはり人気があるようだ。
 林道入り口の鎖をくぐり、しばらくは舗装された林道を歩く。

 

右が登山道

 

杉林

 

 杉谷善住坊かくれ岩は先を急ぐのでパス。スギ、ヒノキの植林地を進むと右手に、昭和初期までこのあたりで採掘をしていた鉱山関係者に祀られていた 、と言われる桜地蔵尊の祠がある。

 道の駅でゆっくりトイレを使えなかったのでもよおしてきたが、左右の斜面は急で身を隠す場所がない。桜地蔵尊の先の植林地でなんとか登れる場所を見つけ、キジ打ちをして落ち着く。術後1年を過ぎてから整腸剤を飲むようになって少し排便回数が減ってきたが、まだ気にせず山歩きをする状態にはなっていない。
 

桜地蔵尊

 

 橋を渡って渋川の右岸側に移ると林道から山道らしくなってくる。この道は千草街道といい、昔は近江と伊勢を結ぶ間道だったとのこと。近江商人が行き来をし、谷沿いに点在する鉱山を結ぶ道でもあったようだ。
 谷はかなり狭いところもあり、こんなところによく道を通したものだと感心する。道沿いには炭焼き窯の跡がたくさん残っているし、集落と思われる住居跡の石積みも残っており、山奥に かかわらず歴史が感じられ生活の匂いがする。

 

蓮如上人旧跡の碑と井戸

 

蓮如上人と頓入一夜泊りの竃

 

 大峠への分岐を過ぎ、なおも進むと谷が少し開け、大きなモミの木の下に蓮如上人旧跡の碑が建っている。碑の近くには 、近江で布教活動を行っていた蓮如上人が、比叡山の衆徒に追われ逃げ込んで難を逃れたという炭焼き窯がある。

 窯の前のベンチで休んでいると、下から次々と登山者が上がってくる。今日は鈴鹿の奥地でも賑わっているようだ。杉峠までに10組以上のハイカーに追い抜かれた。

 蓮如上人旧跡から少し行くと太く立派なシデの大木があり、その先で吊り橋を渡る。右岸に渡り返した道はだんだん傾斜を増していく。

 

シデの大木 吊り橋

 

 道の脇に「シデの並木」の説明板があり、この付近にミズナラ、カエデ、クマシデなどの巨木が68本あり、市の天然記念物になっているとのこと。並木とあるが街路樹的に植えられたものではなく、巨木の森という意味らしい。
 確かに太い木が多いが、枝先に元気がないものや、倒木になってしまっているものも見られる。巨木の森としては、あまり永くはもたないかもしれない。

 

シデの並木あたり

 

タチツボスミレ

 

ヒナワチガイソウ

 

 シデの並木あたりから次第に傾斜がきつくなり、周りの新緑がますます眩しくなってくる。緑に囲まれて実に気持ちがいい。 沢からはミソサザイのさえずりが響いてくる。
 秋の紅葉もさぞかし綺麗だろう思われる。

 ロープが張られた崩壊地を過ぎると杉峠にたどり着く。かつては杉の大木があったそうだが、今は開けた峠になってしまっている。峠の向こう側の愛知川源流も新緑に埋め尽くされている。

 

杉峠

 

 峠で一休み。頭上をジュウイチが鳴きながら飛んでいく。パンをひとかじりして杉峠の頭に向かう。登りはじめはかなり急で、背後に雨乞岳がせり上がってくる。
 空は霞がかっていて青空ではないが、それにしても新緑が気持ちいい。所々混じっている三角の針葉樹がアクセントになっている。

杉峠付近からイブネ(左)と南西尾根

 

愛知川源流

 

国見岳(左)と御在所岳(右)

 

 杉峠の頭の山頂手前からはアセビの花越しに昔登った懐かしい綿向山が顔を出す。
 背後の東雨乞岳に突き上げる沢には雪が残っている。今年は冬が寒かったので、雪が多かったのだろうか。

杉峠の頭山頂付近のブナ林

 

雨乞岳(イブネ山頂から)

綿向山(杉峠の頭手前から)

 

 霧が出たら迷いそうな広い杉峠の頭でダイジョウへの尾根道を左に分け、佐目峠へは右手に少し下っていく。
 佐目峠は杉峠よりも広く明るく開け、アセビが点在している。ここからクラシ山頂に登り返す。長い道のりだったので、最後の登りでバテる。

佐目峠からイブネを見上げる

 

 やっとのことでイブネ山頂に到着すると、さっそく苔に覆われた広場がお出迎え。お〜、これが噂の苔の絨毯か。
 苔の向こうには国見岳、御在所岳、鎌ヶ岳が並び、評判に違わぬ絶景である。素晴らしいじゃないか。

イブネ山頂の苔の絨毯

 

 苔の原と背丈よりも少し高いアセビの間を進むと「イブネ」の簡単な標識があるが、全く山頂らしくない。周りにはあちこちにハイカーの姿があり、鈴鹿の最奥にしてはかなり賑わっている。昼前というのにアセビの陰に幾つかテントも立っている。
 山頂一帯はクラシや銚子のピークにかけて起伏のある台地が広がっていて、樹林もあるがほとんどは灌木と苔。そして裸地。苔の中を踏み跡が通っていて、裸地化しているところもあり、少し気が引ける。

 

イブネ北端からクラシ方面

クラシ山頂から御池岳

 

 イブネ山頂からほとんど平らな道を進み、北東尾根が登ってくるイブネ北端へ。そこから苔の中を少し下って明るい林に入りクラシに登り返す。こちらも展望がいい。スマホのアプリで調べると、北の方に見えるのは霊仙岳、御池岳、藤原岳、竜ヶ岳などの鈴鹿北部の山々。


 クラシにも次々とハイカーがやってくる。山頂は風が吹き抜けるので長居をする人はいないため、ウインドブレーカーを着込んでここで昼食にする。
 しかし、それにしても気持ちがいい。鈴鹿のこんないい場所を知らなかったとは。だが、昔のガイドブックではイブネ、クラシ一帯は深い笹原と記述してあったような気がする。

 

クラシ山頂から鎌ヶ岳

ハルリンドウ?

 

  家に帰って調べてみると、鈴鹿に登り始めた1980年頃の山渓のアルパインガイドはもちろん、2001年発行の昭文社の「山と高原地図」でも深いヤブと記述されている。いつから笹原から苔に変わったのかは分からないが、御池岳山頂の笹ヤブが鹿に食べられてなくなったのと同じようなことが起こったのかもしれない。
 御池岳は2001年に登ったときは笹がすごかったが、2018年には見晴らしの良い背の低い草原に変わっていた。笹の花が咲いて枯れてしまったとも考えられるが、よく分からない。

 

雨乞岳北面の新緑

フモトスミレ

 

コケリンドウ?

サワシバの若葉

着生シダ

 

 下りは同じ道を戻る。
 

 新緑の道を気持ちよく帰ってきたが、登山口で車止めの鎖をくぐらず、横を抜けて林道に下りようとして、最後の一歩でコンクリート側溝の縁に躓いて転んでしまった。
 

新緑のトンネル

 

 以前から右肩が痛く、転んだ際に右手で体を支えようとしたが肩に激痛が走り、そのまま肩から舗装道路に突っ込んだ。肩の痛みがひどく、しばらく立ち上がれなかった。やっとのことで体を起こし、ザックをはずして腕を上げてみたら動かすことはできる。骨折はないようだ。
 ハンドルを動かすのもつらく、なんとか家に戻ったが、やはり最後まで気を抜いてはいけないということを改めて思い知らされた。反省。

 

イブネ・クラシ Route Map


[山行日] 2022/5/4( 水)
[天気] 快晴        2022年5月の天気図(気象庁)
[アプローチ] 東海環状自動車道大安IC (R421号)→  道の駅「奥永源寺渓流の里」 [約19km]

道の駅「奥永源寺渓流の里」 (R421号、県道188号)→  甲津畑登山口  [約18km]
      
・登山口付近の路肩に駐車。10〜15台ほど駐車可能。入山届のポストあり。

[コースタイム]  
  行動時間 発着時刻 地点名 休憩時間  
1:25 6:20 登山口 出発(420m)    
7:05 桜地蔵尊(550m)    
7:30 大峠分岐(古屋敷跡)    
7:45 蓮如上人旧跡(670m) 0:05  
1:05 7:50  
8:55 杉峠(1042m) 0:10  
1:00 9:05  
9:30 佐目峠    
9:50 イブネ山頂(1160m)    
10:05 クラシ山頂(1145m) 0:30  
0:15 10:35  
10:50 イブネ山頂 0:15 20℃
0:40 11:05  
11:45 杉峠 0:05  
0:55 11:50  
12:45 蓮如上人旧跡 0:15  
1:05 13:00  
13:25 桜地蔵尊    
14:05 登山口 着   全行動時間
6:25     1:20 7:45
 
[地図] 御在所山、日野東部(1/25000)