鳳来寺山( ほうらいじさん)695瀬戸岩(棚山高原)約700m               [奥三河] 

 

 10月に事故に遭って車を買い替えることになったのだが、半導体不足で新車が届くのは2月。それまでは軽の代車なので行ける山は限られる。そこで、近場で歩き残していた鳳来寺山と棚山の間の東海自然歩道を繋げることにした。

 鳳来寺のバス停から土産物屋の間の狭い道を進み、門谷の駐車場に車を止める。他に車はない。駐車場から見上げると、既に鳳来寺山の鏡岩が陽に照らされて光っている。

 営業しているのかどうか分からない旅館や一応やっていそうな硯屋などを眺めながら参道を抜けると、石段が始まる。石段の入口には鳳来寺を開いたという利修仙人の像やら石仏やらいろいろ建っている。
「名勝及天然記念物」と「日本観光地百選」の二本の「鳳来寺山」の石柱が目を引く。

門谷駐車場から鳳来寺山を見上げる

 

石段登り口の日本観光地百選の石柱

 

仁王門

 

 山上の鳳来寺の参道であるこの石段は1425段あるという。数えながら登る気はないが、所々に何段目という標識が立っている。石段は幅が3mくらいあって、よく整備がされている。自然石を並べた感じの石段だが、踏面も水平が保たれていて歩きやすい。

 少し上ると国指定重要文化財の朱塗りの仁王門が杉木立の中に聳えている。門の左右の仁王像も、迫力のあるいい顔をしている。
 その先にはひときわ高い傘杉が石段脇に立っている。日本一高い杉と以前は聞かされていたが、傍らの解説板を読むと、今はそうではないらしい。ドローンなどで樹高が測りやすくなってきたので、どこか他のところの杉の方が高いと判断されたのだろう。

傘杉

 

 参道の左右には、所々石垣で作られた平地があり、旧○○という寺院の名前の標識が立っている。標識には修派も記されて入れ、真言宗と天台宗の両方があり、鳳来寺山が修験の場であったのが分かる。

 まだ建物が残っているものが二寺あり、こんな歩いてしか来られないところでお寺が維持できるのかと驚いてしまう。

 石段は登るにつれて勾配がきつくなり、左右の石垣も高くなって、まるで山城を登っているようだ。いい加減疲れてきた頃にやっと鳳来寺の本堂の前に出た。

石段

 

鳳来寺本堂、背後は鏡岩 東照宮

 

 鳳来寺の参拝は後にして、まずは東照宮に向かう。右手に水平に伸びる道をたどると数分で左側に石段が現れ、それを登ると東照宮前の広場に出る。なおも石段を上り、鳥居をくぐると東照宮。日光の東照宮とは比ぶべきもない小さな社であるが、拝殿周りには鮮やかな装飾がしてあり、東照宮らしさを感じさせる。何年か前に塗り直しがなされたようだが、風雨の影響が大きいとみえて、早くも退色が見て取れる。
 拝殿脇の社務所には神職さんではなさそうだが、ちゃんと人がいて御守などを並べている。

 

 鳳来寺本堂に戻り、お参りをして鳳来寺山の山頂を目指す。ここからは東海自然歩道になるが、山頂までは遊歩道のようなものと思っていたのに、いきなり鉄製の階段が現れ驚かされる。
 鳳来寺から山頂までの区間は、昔、車で鳳来寺まで上がり山頂に登っているので歩いているはずなのだが、全く覚えがない。

 利修仙人が入定したという岩窟を過ぎ、自然観察会の団体さんを追い抜いて尾根に上がったところが奥ノ院。しかし、お堂がひどく壊れている。下山後に調べたところによると落雷にあったらしい。
 裏手の岩場に上がると眺めがよく、遠く豊川の市街地や三河湾まで見える。

 

奥ノ院裏の岩場からの眺め、右手奥が本宮山

 

 尾根を北にたどり、壊れかけた休憩所を過ぎるとじきに鳳来寺山の山頂に着いた。標識がたくさん立っているが三角点はない。展望もない。

 陽だまりでパンを食べ、一息入れて棚山への縦走路に入る。

鳳来寺山山頂

 

 地形図には山頂のすぐ先に695mの標高点があるが、ここは瑠璃山と呼ばれているらしい。鳳来寺山の標高はここの高さが一般に表示されている。
 せっかくだからと岩峰に登ってみると眺めがいい。北の方角に宇連山と明神山が奥三河の特徴のない山並みの中でひときわ目立っている。

 「登った甲斐があったなあ」と満足して先に進むと展望の開けた岩場があり、こちらでも十分いい眺めだった。

瑠璃山先の岩場からの眺め、宇連山(左)と、明神山(右奥)

 

 ここからは玖老勢(くろぜ)峠まで200m以上下ることになるのだが、しばらくは岩尾根の登り下りが続く。鉄製の階段がいくつも現れ、なかなかハードなコースだ。この稜線の先の岩古谷山は東海自然歩道の三大難所のひとつと言われているが、ここも険しさでは引けを取らないのではないだろうか。

 古びた鉄製の階段に混じって比較的新しい木製の階段も現れる。階段に付いているプレートを見ると平成16年設置とある。
 昔(30年程前)、愛知県の観光課というところに勤めていて、東海自然歩道に関わる仕事として木製の階段や橋の図面を引き、古い施設の修繕をしていた。まだ、このように営々と施設の修理がされているのを見ると、懐かしくまた嬉しく思う。

鉄の階段が続く稜線の岩場

 

 クロ岩とか犬戻しとか名付けられた岩場を過ぎ、玖老勢峠に降り立つ。ずいぶん下って来た感じだ。
 峠は狭くて、木製のベンチとテーブルがそのほとんどを占めている。
 コブを一つ越えた413m標高点のある鞍部で休憩。ここから東側に下る道が地形図には記されているが、道があるようには見えない。

 

棚山への稜線の道

 

鳳来寺山を振り返る

 玖老勢峠から棚山へ登り返す。鳳来寺山と棚山はあまり高さが変わらないので、降りた分だけ登らなければならない。尾根の幅が少し広くなった感じで、ジグザグを切って登っていく。周りは針葉樹の植林が少なくなり、広葉樹の雑木が増えて明るくなった。棚山で風が遮られるからか風の音が静かになり、 シンとした陽だまりの尾根を登っていく。鳥の声もほとんど聞こえない。

 

 次第に傾斜が緩くなり、棚山の一角に登り着いたようだ。林床に笹原が広がり、森の感じが今までと少し違う。

 棚山山頂への踏み跡が右に分かれるが、棚山は以前川売(かおれ)から登っているし、山頂に立っても展望はないので今回はパス。灌木が繁る平坦地を右に見ながら先に進む。

 標識に導かれて左に進むと瀬戸岩の断崖の上に出る。足元は切れ落ちており、玖老勢の集落が良く見える。
 立っている岩は真っ黒で松脂岩(しょうしがん)と言うらしい。まるで石炭のようで黒光りしている。陽だまりのその岩の上に座ってカップヌードルを食べる。静かな初冬の昼下がりだ。

瀬戸岩からの眺め

 

 瀬戸岩の先で宇連山へ続く東海自然歩道と分れ、大石の集落へ下る。このルートはネットで調べるとかなり荒廃していて迷いやすいらしい。ちょっと緊張する。
 踏み跡のような道を少し下り始めてじきに足が攣りそうになる。下りなので滑らないように膝の内側に力を入れるのだが、その筋肉が攣りそうになった。下りで足が攣るなんてことは初めてなので少し焦る。まだ下り始めたところなので先は長い。なるべく膝に力を入れないようにゆっくりと進み、攣りそうになると立ち止まりって足を休める。 擬木の階段が現れ、普段なら歩幅をあわせるのが面倒でイヤなのだが、今日は踏ん張らなくてむ済むのでありがたい。
 少しずつ下って行くと足が温まってきたのか、痛みが和らいできた。瀬戸岩で休んだ時に冷えたのが原因かもしれない。何とか、だましだまし下れそうだ。

 珍しく尾根上に擬木のベンチとテーブルがあり、その先は岩場になっていた。岩場を下りて踏み跡を先に進むと道がない。違ったかな、と岩場を登り返すと先ほどの擬木テーブ ルのところで道が尾根から外れて山腹を下っていた。スマホの地図で確認すると確かにこちらが正しいようだ。地形図の登山道のルートはかなり忠実に表現されているようだ。

 

 登山道は山腹を下り、谷を越え、どんどん高度を下げる。谷にずり落ちかけた擬木柵などもあり荒れた感じはするが、ルートはしっかり辿ることができ、危険なところはないようだ。植林地に入ると杉の落枝が道を覆って分かりにくいが、注意して行けばルートは分かる。

 山麓に近づいた辺りで左下がりの斜面の下に建物が見え、寝観音のお堂だと思われた。少し先の標識から戻るような感じで谷の奥に入っていくと、上の登山道から見えた建物は壊れかけた行者の道場のようだった。 「さて、寝観音は」とあたりを見回すと、滝の向うの岩壁に階段が付いており、どうもその上の岩窟のなかにあるようだ。バスの時刻が気になるが、せっかくだから 滝の下の橋を渡り、階段を登って見に行く。
 岩窟には鉄製の格子がはまっていて、その中に石の塊がある。顔の部分が残っているので石仏と分かるが、後に付けられたらしい左手と足以外はただの岩のようで、パッと見には観音像には思えない。
 そばに解説板があり、新城市指定の文化財で、鎌倉時代のものと書いてあった。

寝観音の滝

 

 寝観音で少し休んで冷えたためか、また左膝が攣りそうになってきたが、じきに大石の集落に下り立つことができた。バス停の場所が分からないので、 車の通りの多い県道に出て鳳来寺方面に歩いて行くと、待合所のあるバス停が見つかった。久々の縦走でかなり疲れた。
 30分程バスを待ち、鳳来寺のバス停に戻った。

大石のバス停、背後は瀬戸岩

 

 鳳来寺のバス停から駐車場に戻る途中、旧鳳来町立門谷小学校に寄り道。
 ここは昨年の朝ドラ「エール」の主人公、裕一の通った小学校としてロケ地になったところ。背後に山を背負った木造校舎は雰囲気がある。
 昭和45年に廃校になり、現在は野外教育センターとして利用されているらしいが、時間が遅くてもう閉まっていた。

 また、小学校の前を流れる小川に架かる小さな橋は、NHK-BSの「にっぽん縦断 こころ旅」で火野正平が「こころ橋」と名づけた橋。

 

旧鳳来町立門谷小学校

 

こころ橋

鳳来寺山〜瀬戸岩 ルートマップ


[山行日] 2021/12/3(金)    2021年12月の天気図(気象庁)
[天気] 快晴
[アプローチ]

新東名・新城IC (R151号、県道32号)→  鳳来寺山下、門谷駐車場     [約10km]
      
・20台ほど駐車可能、トイレあり、隣接のレストラン部分も含めれば70台ほど駐車できる。他に鳳来寺バス停近くに無料駐車場あり。

[コースタイム]  
  行動時間 発着時刻 地点名 休憩時間  
0:50 8:35 門谷駐車場 出発   5℃
8:45 石段下    
9:25 鳳来寺(東照宮往復) 0:00  
0:50 9:40  
10:15 奥の院    
10:30 鳳来寺山山頂(695m) 0:15  
1:05 10:45  
11:45 玖老勢峠    
11:50 413m標高点 0:05  
1:00 11:55  
12:45 棚山分岐    
12:55 瀬戸岩 0:25 10℃
1:30 13:20  
14:25 寝観音    
14:50 鳳来大石バス停 着   全行動時間
5:15     0:45 6:00
 
[地図] 鳳来寺山、海老 (1/25000)