経ヶ岳( はっきょうがたけ)1915m弥山(みせん)1895m                          [近畿・大峰] 

 

 標高1100mの登山口での車中泊は少々寒そうなので、谷間 にある道の駅、「杉の湯 川上」 を取りあえずの目的地にしたのだが、駐車場が狭く周りが明るいので、迷った末にパス。先に進んで適当なところを探していたら、登山口に向かう国道309号との分岐近くに駐車スペースがあった。トイレや街路灯もあって絶好の場所。国道脇であるが、なにせ山中なので交通量は多くない。寒くもなく、朝まで熟睡できた。

 翌朝、7時過ぎに行者還トンネル西口の駐車場に着いた時には、既に10台程の車が止まっていた。ウィークデイだが百名山である。登山者は多いだろうと予想される。 

  今では八経ヶ岳が深田百名山の大峰山と認識されているが、「日本百名山」を読むと、大峰山の盟主は山上ヶ岳であると記述されている。確かに信仰上の中心は山上ヶ岳であり、自分も1998年に登ってそれで良しとしてきた。
 ただ、大峰山の表題の下に標高1915mと記されていて、これは八経ヶ岳の標高であるために、どうもこちらが百名山の「大峰山」とされてきてしまったようだ。山ヤは高い山に登りたがるのだ。 それに山上ヶ岳は女人禁制だしね。

弥山登山口、左の階段を登る

 

小沢に架かる橋

 

樹皮だけのミズナラ

 

 しばらく沢沿いの道を行き、小沢に架かる傾いた木橋を渡って、本流との間の道をたどる。苔むした岩が転がる斜面を右に見て、左手に上がると本格的な尾根道になる。
 沢沿いの森はまだ緑だったが、登るにつれて周りのブナ、カエデなどの落葉樹林が色づいてくる。しかしあまり鮮やかではない。先月の立山もそうであったが、色づく前に台風などで葉っぱが傷んでいるのかもしれない 。
 どんどん標高が上がり、シャクナゲなども目につく。頭上の枝をカラやコゲラの混群がジュクジュクと賑やかに鳴きながら渡っていく。
 

 傾斜が緩くなり、林床に笹が目立ち始めたら主稜線の上に出た。ここが大峰山の奥駈道との出合である。
 風が吹き抜けて少し寒い。ウインドブレーカーを羽織る。

 稜線上は落葉樹の明るい林で、所々笹原が開ける。とても気分がいい。1600m峰までは少々アップダウンがあるが、そこから聖宝の宿跡までは、鼻歌も出そうな平坦な道が続く。

 1600m峰には「弁天の森」の標識が立っていた。北の方の樹林の切れ間からは大日山の尖峰を伴った稲村ヶ岳が良く見える。

大峰奥駈道出合

 

稜線上の奥駈道

 

弁天の森からの稲村ヶ岳
(左肩のコブが大日山)

 

 弁天の森から少し下ると樹林が切れて前方の展望が開ける。真正面の視界全体を弥山の山体が塞いでいる。堂々 とした姿の山である。
 
よく見ると山上に弥山小屋の三角屋根が見える。

 最低鞍部から少し登ったところが聖宝の宿跡。青銅製の行者像が建っている。辺りは稜線が広がり平らになっていて、何かしら建物が建っていたような雰囲気がある。

八経ヶ岳(左)と弥山(右)

 

聖宝の宿跡の行者像 階段が続く

 

 ここから、弥山へは約300mの登り。山の傾斜もきつくなるが、登山道はジグザグを切りながら無理なく登っていく。昔からの道はよくできている。見晴らしが利く場所では、歩いてきた奥駈道を見下ろすことができ、その向こうに遠く大台ケ原の 、これまた大きな山塊が霞んでいる。

 右手の山腹を巻くようになると、木製の階段が続く。周りの植生が針葉樹に変わり、標高が上がっているのが分かる。頭上に遠くから見た三角屋根が現れると弥山小屋の前に出る。 大きな小屋である。

大台ケ原遠望
手前が歩いてきた奥駈道

 

弥山小屋 弥山神社

 

 小屋の前のベンチに荷物を置き、鳥居をくぐって弥山山頂の神社まで行く。途中、皇太子殿下の行啓記念碑が立っている。
 山頂にある弥山神社の御祭神は市杵島姫命。水の神様である市杵島姫命が山上のお宮に祀られているのは不思議であるが、弥山神社は麓の天川村にある天川大辨財天社の奥宮になるそうで、弁財天は市杵島姫命と同神なのである。天川村は十津川の川上にあることから水の神である弁財天(市杵島姫命)が祀られているのだろう。

 神社の前からは右に真っ直ぐな稜線を引いた八経ヶ岳が美しい。
 

弥山山頂からの八経ヶ岳

 

 弥山小屋の前に戻り、八経ヶ岳に向かう。一旦鞍部に降り、登り返す。途中にネットの柵が現れ、登山道にある扉を開けて進む。鹿の食害からオオヤマレンゲを守るための柵で、柵の中はカエデの稚樹がいっぱい生えている。もちろんオオヤマレンゲも 生えているが、今は花はないので大き目の黄葉を付けた、ただの落葉樹にしか見えない。

鹿除けの柵

 

ナナカマド

 

 もう一度、扉をくぐって外に出ると、じきに八経ヶ岳山頂に着いた。ちょうど、4人組のグループが下っていき、山頂には1組の中年夫婦がいるだけでになった。下の駐車場の込み具合に比べると、意外に登山者が少ない。

 山頂には行者さんが残した木の札がたくさん積み上げられていて、三角点はその横に紛れていた。大峰山には靡(なびき)と呼ばれる行場が75ヶ所あり、八経ヶ岳は51番目の靡に当たるそうである。(ちなみに一番の靡は熊野本宮にある。)

 山頂からは一部、樹によって眺めが遮られるところもあるが、ほぼ360度の展望が得られる。
 隣の弥山はやはり大きく、ちょうど弥山小屋の上に山上ヶ岳が見える。

 弥山は「須弥山」の略だと言われ、仏教で宇宙の中心にそびえる高山とされている。地図で見ると弥山、八経ヶ岳、明星ヶ岳は一つの大きな山のように見え、全体で仏教的なイメージの「須弥山」を表しているよう に思える。
 弥山の山頂は平らな部分が多く、山上ヶ岳のように建物も建てられそうなので、修験道が盛んな頃は重要な山だったのではなかろうか。八経ヶ岳 は今でこそ近畿の最高峰、「百名山の大峰山」の代表として大きな顔をしているが、かつては「大弥山」の中のピークのひとつ、という程度の感じだったのではないか。

八経ヶ岳山頂

 


 弥山の右手は岩峰が寄り集まっている大普賢岳が特異な姿を見せている。その背後には台高の山々が連なっているが山名はさっぱり判らず、大台ケ原だけがその巨大さから識別できる。その右手にも山々が続くが、ただ山の深さに驚くだけだ。
 弥山の左手には意外な近さで金剛山が見え、隣の明星ヶ岳は弥山から見た八経ヶ岳と同じような直線的な美しい稜線を伸ばしている。
 その先には逆光に釈迦ヶ岳が霞んでいる。
 

八経ヶ岳からの弥山 大普賢岳

 

遠い三角が釈迦ヶ岳

 

枯れ木越しの明星ヶ岳

 弥山に戻り、荷物を置いて「国見八方睨み」に寄る。ここからは、北から東への展望が開け、稲村ヶ岳から山上ヶ岳、大普賢岳に続く稜線が良く見える。
 この辺りはトウヒやモミ(シラビソ?)などの針葉樹が多いが、立ち枯れて白骨化しているものが多い。山腹が崩れて白い岩肌が見えているところも多いので、土壌が浅いのが原因だと思われるが、台風の影響もあるのかもしれない。ただ、林床には稚樹も生えているので、 森が無くなってしまうことはないだろうが。

 

国見八方睨みから山上ヶ岳方面 苔?

 

 下山は同じ道を帰る。冷たい風に冷えたのか腰が少々危ない。軽いぎっくり腰のような感じで、変なところに力が入らないように慎重に下っていくが、動いていたら 次第に腰が温まってスムーズに動くようになった。
 登りの時も感じたが、奥駈道の稜線は樹林や笹原が混じり合って気持ちがいい。稜線の紅葉は過ぎた感じだが、暖かい陽の射し込む落葉樹林はこころが軽くなる。
 奥駈道から分かれ、谷に向かって下っていくと次第に山腹の色づきが良くなってくる。逆光に輝いて、登りの時よりも鮮やかに見える。気分よくトンネル西口の登山口に降り立っ て山行終了。トンネルの上の斜面も一面紅葉していた。

明るい稜線の森 逆光に光るブナ

 

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[山行日] 2015/10/20(火)
[天気] 晴れ              2015年10月の天気図(気象庁)
[アプローチ] 19  名阪国道 針IC (R369号)→ 宇陀市榛原 →(R370号)→ 吉野町宮滝 →(R169号)→ 国道169号と309号の分岐 21:45     [約76km]

・「天が瀬」バス停そばの駐車スペース。7〜8台駐車可。トイレ、公衆電話あり。

20日 6:40 国道169号と309号の分岐 →(R309 )→ 行者還トンネル西口 7:10

・有料駐車場、1日1,000円、有料トイレ(1回100円)あり。 駐車料金を取っているのだから、トイレの使用料まで取らなくてもいいのでは、と思う。

[コースタイム]
  行動時間 発着時刻 地点名 休憩時間  
1:05 7:20 行者還トンネル西口発(1100m)   13℃
8:25 奥駈分岐(1490m) 0:10  
0:15 8:35  
8:50 弁天の森(1600m) 0:05  
0:35 8:55  
9:30 聖宝の宿跡(1560m) 0:05  
0:55 9:35  
10:30 弥山小屋(1880m) 0:15  
0:25 10:45  
11:10 八経ヶ岳山頂(1915m) 0:50  
0:20 12:00  
12:20 弥山小屋 0:10  
0:40 12:30  
13:10 聖宝の宿跡 0:05  
0:45 13:15  
13:40 弁天の森    
14:00 奥駈分岐 0:05  
0:40 14:05  
14:45 行者還トンネル西口着   全行動時間
5:40     1:45 7:25
登り 3:15        
下り 2:25        
[地図] 弥山 (1/25000)

 

[温泉] 入之波(しおのは)温泉「山鳩湯」

・奈良県吉野郡川上村入之波、大迫ダム湖畔の温泉宿
・入浴料 800円
・4〜10月水曜定休。11〜3月火曜・水曜定休。
・入浴受付10:00〜16:00(入浴17:00まで)
・褐色のお湯。もともと杉丸太の湯船だったが、カルシウム分が固化して鍾乳石のような湯船になっている。
・シャンプー、ドライヤーあり。洗い場が狭い。