浅間山前掛山(まえかけやま)                             [上信越] 2524m 

 

 昨夜、携帯Webで日の出時刻を確認したら4時半頃だったので、3時55分に起床。カップ焼きそばを食べて4時40分出発。駐車場の端に、昨夜はなかったワゴン車が止まっている。

 車坂峠の標識から登山道に入る。外輪山のトーミの頭へは表コースと中コースがあるが、尾根道の表コースをたどる。昨夜の雨は止んだものの、周りにはまだ、ガスが掛かっていてる。 白いベールの向うからカッコウとホトトギスの声が絶え間なく聞こえてきて、よけいに静かさを感じる。

車坂峠
 

 尾根の傾斜は緩やかでカラマツの林になっているが、道の周りには岩がゴロゴロしている。登山道も火山性の砂礫で少々歩きづらい。 しかしながら、林床にはイワカガミ、ゴゼンタチバナ、ツガザクラなどが咲いていて、眼を楽しませてくれる。開けた砂礫地にはわずかながらコマクサも見られる。

 

 

表コースの登山道 イワカガミ

 

 少し傾斜のきつい斜面を登りきると、噴火時に噴石から身を守るための古いシェルターがあり、その先で外輪山の一角に出る。
 正面には逆光の中に大きな浅間山。まだもやっていて、切り絵のように平板に見える。
 振り返るとやっとガスが切れて、篭ノ登山、水ノ登山の全景が見える。遠望は利かないが、梅雨時なのでまあ良しとしよう。

 

東篭ノ登山、水ノ登山 逆光の浅間山

 

 外輪山の稜線を少し 下って登り返したところがトーミの頭。ここで一気に展望が開ける。
左手には黒斑山から鋸岳へ連なる切り立った外輪山。その外輪山の壁が右下に傾斜を緩めて収まったところが湯の平の火口原。その先がまた盛り上がって大きな前掛山の山腹になる。眼下に広がる湯の平は草原と三角形の針葉樹が入交り、東山魁夷の絵画のようだ。そう、これを見たくて浅間山に来たのだ。

 湯の平を俯瞰した写真を見たのはもう30年くらい前だろうか。確か上信越高原国立公園の紹介パンフレットではなかっただろうか。雄大でかつ変化に富んだ風景を 、この目で見たいとずっと思っていた。
 当時は浅間山の噴火活動が活発で、黒斑山までしか登れなかったと記憶している。どうせ、登るのなら浅間山本体にも登りたいと様子を伺っていたら、火山活動は収まってきた ものの仕事が忙しくなり、家庭事情もあって、後送りになっていた。ここまで来るのに随分時間がかかってしまった。
 しかし、時間がかかった分、感動も大きい。

 

外輪山(左端が黒斑山) 湯の平俯瞰

 トーミの頭からは外輪山の壁を下り、湯の平経由でまずは浅間山の前掛山に登る。湯の平までの下りは「草すべり」と言われる。
 草すべりは所々岩場のある急な斜面だが、道はジグザグを切っていて、そんなに危険は感じない。
 下り始めの草原にはハクサンイチゲやハクサンコザクラが咲いていて、アルプスの花畑の様相だ。

 下り始めたら、右手の谷底から風に乗ってガスが登ってきて、みるみる湯の平を真っ白に埋めてしまった。顔に当たる風はかなり冷たいので寒気が入り込んでいるのだろう。大気が不安定で、雲も湧きやすい。だが、ガスはそのまま居座ることなく、次第に薄れていった。まあ、今日は一日こんな天気なんだろう。

ハクサンコザクラ
 
 

草すべりをガスが登ってくる ガスに覆われた湯の平


 草すべりコースを降り切ると、右手から登ってきた浅間山荘からの道に突き当たる。合流点には噴火時の注意看板が立っている。
 湯の平からの道は快適そのもの。笹原は朝早い光を浴び、露を含んでキラキラ光っている。新緑のカラマツの間からは外輪山の壁が、険しい岩肌を見せて迫っている。
 周りはカラマツが多いのだが、道の右手にはシラビソも多い。次第に落葉で陽樹のカラマツから、常緑で陰樹のシラビソに遷移が進んでいるようだ。林床には相変わらずイワカガミが多く、マイヅルソウも多いのだが開花にはまだ少し早い感じ。

 登山道には今までなかった登山靴の足跡が付いているが、浅間山荘の方から登ってきたのだろう。湯の平までのコースタイムでは車坂峠からよりも浅間山荘からの方がやや短い 。同じように早朝から歩いているのだと思うと親近感が湧く。登山者は一人のようだ。

 

トーミの頭から黒斑山に続く外輪山の壁 湯の平口分岐の注意看板


 賽の河原分岐を過ぎると次第にカラマツの背が低くなり、空が広くなってくる。前掛山の山腹をを北に回り込みながら真っ直ぐ登っている登山道も、だんだん傾斜がきつくなってくる。火山砂利の道はズルズルと滑りやすいが、一歩一歩着実に高度は上がり、外輪山が低くな って、湯の平の全景が広がってくる。
 大気は霞んで遠くは見えないが、外輪山の向うに嬬恋村の高原が広がり、その上になだらかなすそ野を広げた四阿山が何とか見えている。その右手にあるはずの白根山までは見えない。

賽の河原分岐(右が前掛山) 前掛山を登るカラマツたち

 

 だいぶ登っては来たが、顔を上げてみるとまだまだ斜面は続いている。「なかなか手強いな」と思っていたら急に看板が現れ、ここから立入り禁止と 書いてある。見えていた斜面は火口に続くもので、前掛山は右手に続く岩壁の先にあった。
 最近は火山活動も落ち着いているようで、インターネットで調べると火口まで登った記録も随分目にする。しかしまあ、止めときなさいと言われるのを無視して登るほどの気もないので、未練なく前掛山に向かう。目の前の噴火口からはやや灰色がかった噴煙がわずかながら上がっている。
 そばにかまぼこ型をしたコンクリート製のシェルターがあり、景観保護のためか、壁面に火山岩が貼り付けてある。しかし、本当に噴火したら、こんなところに逃げ込めたとしても、生きた心地はしないだろうな。

 

目の前の火口は立入り禁止 シェルターと前掛山


 前掛山へ続く道は左側が切れ落ちた尾根道になっている。これも浅間山の外輪山で第二外輪山と言われている。こちらの方が外の外輪山より新しいという事だろう。右手には第一外輪山に囲まれた湯の平の全景が見えてくる。冷たい風がもろに当たるようになり、ウインドブレーカーを着る。

 

前掛山 湯の平全景


 気持ちの良い尾根道の果てが前掛山。火口の縁の向う側に、わずかに浅間山の本当の山頂が顔を出している。 あちらの標高は2568mで、前掛山よりも44m高い。
 南の方にはまるでサイの角のような尖った牙山(きっばやまと読むらしい)や剣ヶ峰が見下ろせる。これらの山も湯の平から流れ出る谷で分けられてはいるが、第一外輪山の一部である。それにしても、雄大な眺め だ。

 山頂には先客がいて、やはり浅間山荘からの登山者であった。すでに立入り禁止の火口まで登ってから、こちらに来たという。かなりの健脚である。 しかも半袖。さすがに寒いと言っている。
 火山に登ったのは初めてという事で、やはり雄大な景色に感動していた。まだ20代だろうか、荷物はそこそこ大きいのに、軽々と駆けるようにザレた尾根を下って行った。

 

浅間山火口 前掛山山頂にて


 彼が下った後に、ポツリポツリと尾根上に登山者の姿が現れてきたので、こちらも下山にかかるとする。
 振り返ると火口の上にもくもくと白い雲が湧き上がっている。おっ、噴煙か?と思ったが、雲は火口の向う側から湧き上がっており、成長中の入道雲だった。やはり、大気は不安定なようで、早めに下った方がよさそうだ。

 シェルターを過ぎ、前掛山の山腹を下るようになると、どんどん下から登山者が上がってくる。さすが百名山、ウィークデイでも登る人は多い。賽の河原分岐までに20パーティ近くすれ違った。

 

ツガザクラ ミネズオウ


 
賽の河原分岐からは外輪山コースで帰るために、標識に従ってJバンドに向かう。カラマツ林の林床にはツガザクラやミネズオウが盛りと咲いている。

 外輪山は壁のように聳えていて、とても道があるようには見えない。上に登る道は右手に行くにしたがってだんだん低くなる外輪山のはずれの鋸岳に付いていて、Jバンドという岩棚を利用して稜線に上がる。
 登り始めはそれほどでもないが、最後の岩棚は頭上に岩が張り出していてあまりいい気持ではない。落石に気を付けながら急いで通り抜ける。

 

右側に稜線に上がる道がある 前掛山の斜面から顔を出す牙山

  外輪山の上に出ると、また素晴らしい展望が開ける。
 湯の平の俯瞰は相変わらず広大で、その上の黒斑山がひときわ大きく、凛々しく見える。北側の嬬恋の高原の広がりも一層広く見え、外輪山の鋭い峰の連なりがその間を切り分けている。

 

黒斑山

 

 外輪山をたどる道は高度感は劣るが、爽快さはアルプスの稜線歩きに匹敵する。仙人岳、蛇骨岳と、稜線上には幾つかの岩峰があるが、登り下りも小さくあまり疲れを感じない。
 蛇骨岳の先から稜線は南に向きを変え、シラビソやコメツガの樹林の間を行くようになる。時々現れる草原には、ハクサンイチゲ、ツガザクラが、樹林の中にはヨウラクツツジなどが咲いている。

 

 

蛇骨岳あたりからの浅間山
 
ハクサンイチゲ


 樹林が切れたところが黒斑山山頂。岩場の山頂で背後は樹林で展望はないが、東側が開けて正面 の浅間山に相対することになる。だいぶ見慣れてきたが、いい展望台であるのは間違いない。浅間山本体はともかく、この変化にとんだ外輪山にはまた登って来たい。

 先客がいるので、少し離れて大休止。今日は少しずつ行動食のように食べてきたが、あとは下りだけなので少し落ち着いて最後の菓子パンを食べる。
 だいぶ雲が多くなってきたが、何とか天気はもってくれた。浅間の火口からはまた噴煙が上がっている。

噴煙が上がる火口
 


 トーミの頭で最後の展望を楽しんで、下山にかかる。トーミの頭の下の鞍部に立つ標識には「表コース55分、中コース45分」とあるので、迷わず中コースを下る。
 樹林帯を下る中コースは表コースほど展望は利かないが、所々草原もあったりして、それなりに面白い。途中から蛇骨岳方面に登る裏コースは廃道になっているようだ。
 中コースを一気に下って、駐車場着。着いたとたんに青い空も見えるのに、にわか雨が落ちてきた。
 

 

 

ミツバオウレン 中コースを下る

 

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[山行日] 2014/6/20(金)
[天気] 晴れのち曇り    2014年6月の天気図(気象庁)
[アプローチ] 19日 長野道・岡谷IC (国道142号)→ 蓼科町 →(県道40号)→ 東御市 →(県道94号)→ 地蔵峠(湯の丸高原) (湯の丸高峰林道/約7.3q)→ 車坂峠     [約72km]
      
・高峰高原ビジターセンターの駐車場を利用。未舗装であるが25台くらい止められそう。
・隣接する高峰高原ホテルの裏に公衆トイレがあるが、ちょうど改築中であった。
[コースタイム]
  行動時間 発着時刻 地点名 休憩時間  
1:30 4:40 車坂峠出発 (1970m)   10℃
6:10 トーミの頭(2320m) 0:10  
0:50 6:20  
6:55 湯の平口分岐(2015m)    
7:10 賽の河原分岐 0:10  
1:15 7:20  
8:20 シェルター    
8:35 前掛山山頂(2524m) 0:20  
0:10 8:55  
9:05 シェルター 0:10  
1:25 9:15  
9:50 賽の河原分岐    
10:40 仙人岳手前のピーク 0:10  
0:15 10:50  
11:05 仙人岳 (2319m) 0:05  
0:50 11:10  
11:25 蛇骨岳(2366m)    
12:00 黒斑岳(2404m) 0:25  
0:10 12:25  
12:35 トーミの頭(2320m) 0:15  
0:45 12:50  
13:35 車坂峠着 (1970m)   全行動時間
7:10     1:45 8:55
登り 3:35        
下り 3:35        
 
[地図] 車坂峠、浅間山 (1/25000)

 

[温泉] 湯楽里館 

・東御市の日帰り温泉施設。(東御市和3875番地)。年中無休。
・入浴料500円。
・石鹸、シャンプー、ドライヤーあり。露天風呂あり。
・浴室から上田盆地が見下ろせる。