朝日連峰縦走  以東岳( いとうだけ、1772m 大朝日岳(おおあさひだけ、1871m)         [東北]

 

 自分の部屋には昭文社の「山と高原地図」の朝日連峰版が2冊ある。一冊は昨年登ろうとして買ったもの。もう一冊は発行年を見ると昭和57年とある。(こちらのは「朝日・出羽三山」のタイトルになっている。)
 お隣の飯豊連峰は昭和55年の夏に縦走しているので、その頃から計画はしていたのだが、避難小屋利用での縦走というのはテントなしにしてもやはりハードで、年齢を重ねるにつれハードルはより高くなり、ずっと後送りになってしまっていた。
 昨年、栂海新道を日本海まで歩き、ちょっと自信が付いたので、今年はいよいよ朝日連峰縦走ということになった。

7月31日
 鶴岡で夜行バスを降りてから2時間以上待って大鳥行の路線バスに乗車。朝日庁舎バス停で降りた登山者は自分の他に一人いただけだった。予約しておいた登山タクシーに乗ると、女性の運転手さんが「昨日は10人以上いたんですけどねえ。」と言う。日曜入山にして正解だったようだが、ちょっと拍子抜け。

  泡滝ダムの登山口駐車場には20台近くの車が止まっていた。公共交通機関を使う登山者は少ないが、入山者は多いようだ。もっとも釣り人の車もあるとは思うが。

 身支度をして車道を少し歩くと、大きな案内板がある登山口。ここからは大鳥川に沿った登山道になる。ただ、川沿いというより、山腹に付けられている感じが強い。
 歩き出すとすぐに暑くなって、最初の休憩でズボンの裾を外し、半ズボンにする。

泡滝ダム

 

大鳥川

 

ヤマアジサイ

 冷水(ひやみず)沢の吊橋を渡り、2度目の休憩。周りは気持ちのいい森。朝日連峰はブナの王国と言われるだけあって、大木のブナが多い。


 タクシーを一緒に下りた人がゆっくりと追い越していく。休まずにゆっくり歩くタイプの人のようだ。
 ふと時計を見ると、もう1時間以上かかっている。ガイドブックのコースタイムではもう次の七ツ滝沢の吊橋まで行っていなければならない時間だ。ここのコースタイムはきつい、とは聞いていたが、予想 以上に時間がかかっている。
 ちょっと焦る。

冷水沢吊橋近くの森

 

七ツ滝沢の吊橋

 

ブナの森と下山者

 30分程で七ツ滝沢の吊橋を渡り、左に沢を見ながら一層ブナの濃くなった森を進む。いくつかの小沢を渡るがどこも水量が豊富だ。この登山道は水には困らない。
 何組か下山者とすれ違う。タクシーの運転手は「縦走者は大鳥口から登る人の方が多い。」と言っていたが、どうだろうか。以東岳ピストンで帰る人もいるのかもしれない。

 小休止して、七曲りの急登に取りかかる。登山道は何度も折り返しながらブナ林を登っていくが、ショートカットの直登ルートがたくさんあり、こちらを使ってぐんぐん高度を稼ぐ。先ほどの先行者を追い抜き、快調に登っていくと予想外に早く、池の周りを巡る平らな道になった。
 七ツ滝沢の吊橋から大鳥小屋までのコースタイムは1時間45分だが、実質1時間5分で着いてしまった。ガイドブックのコースタイムはばらつきが大きいようで、登山口 にあった案内図のコースタイムの方が実態に合っているようだ。

 

 
大鳥池からの以東岳(一番奥)

 

池畔に立つ大鳥小屋

 時刻はまだ1時前だが、今日はここまで。余力はあるが、次の狐穴小屋までコースタイムで6時間近くかかるので、無理。以東岳山頂近くの以東小屋が使えれば可能性は広がるのだが、今はまだ再建中だ。長い午後を小屋前のベンチで以東岳を見上げながらのんびり過ごす。
 

 小屋で買ったビールを飲んでいたら、途中で追い抜いたタクシーの同乗者が水場で顔を洗ったあと、先に進んでいくのが見えた。
 「えっ、どこまで行くんだろう。あのペースではとても狐穴までは行けそうもないが・・。以東小屋が使えると思っているのだろうか?」
 ひょっとしたらテント場で泊まっているのかも、と思い、後で確認に行ったが見当たらなかった。この人の行動は最後に知ることになった。

クロヅル

 

 大鳥小屋の宿泊者は僕の他に4人連れのパーティーが1組だけ。広々使えて快適だったが、いびきが凄かった。耳栓の効果を初めて実感することになった。 持っててよかった。夜行バスで要るかなと思ったのだが、ここで役に立った。
 それでも夜中に目が覚めて、思い切って外に出てみたら星空が凄かった。山に囲まれて周りの光に影響されないので、星を見るには条件がいい。見える星が多すぎて星座がなかなか分からないが、以東岳の上にさそり座が長々と伸び、人工衛星の光がゆっくりと天の川を遡っていった。

8月1日
  4人パーティが起きだして朝食の支度を始めたので、こちらも起きる。熟睡感はないが、頭はすっきりしている。
 昨夜の星空がそのまま快晴の空になったけれど、天気予報では今日は曇り。しかも夕方からは雨。今は晴れているが、なるべく急いだほうがいい。できれば、以東岳 山頂ではガスがかからず連峰全体を眺めたいし、できれば、狐穴小屋まで雨具を着ることなくたどり着きたい。雨が強くなれば狐穴に泊まる選択肢もあるが、竜門小屋まで行ければその先の見通しが付く。
 予定は天候任せで、取りあえず出発。以東岳へは直登コースよりも時間がかかるが、朝日連峰らしい展望と花畑のあるオツボ峰のコースを選ぶ。
 

池の端で直登コースと分れ、ブナの尾根道に入る。ひたすら登って1時間。傾斜が緩くなると、周囲は灌木になり、展望が開けるようになる。青空の下、以東岳の山頂がよく見える。
 三角峰は山頂を通らず右に回り込み、稜線に出ると一気に北や東の展望が開ける。隣にはアスピーテの月山。その左にはこちらも優雅な裾を引く鳥海山。月山の右手には葉山。 その右手の山形盆地は雲海の下だ。 

三角峰の肩から以東岳までの稜線を眺める

 

日本海と鳥海山

 

月山

 

 朝日連峰は花の多さでも知られているが、特に多いのが寒江山周辺、西朝日岳から大朝日岳、そしてこのオツボ峰から以東岳周辺だ。
 見れば、コメツツジ、キンコウカ、オオバギボウシ、タカネマツムシソウなどいろいろ咲いている。特にタカネマツムシソウが目立ち、そしてその色が濃い。小屋の管理人も言っていたが、今年のマツムシソウは色が濃いそうだ。朝の光を横から浴びているせいもあるかもしれないが、青紫色に見える。こんな色のマツムシソウは見たことがない。

オオバギボウシの群落

 

朝日連峰の全景

 

遠く大朝日岳(左端)

 

  オツボ峰あたりからは大朝日岳までの連峰全景が見渡せるようになる。山腹は緑に覆われ、雪渓が点在し、穏やかで伸びやかな山容はいかにも東北の山らしく感じる。

 既に雲が湧き始めたがなんとかまだ展望は利いている。連峰の峰々の間に雲が挟まっているせいか、大朝日岳が遥かに遠く見える。明日あの山頂に立つというのは想像しがたい距離に思える。
 

飯豊連峰

 

  目指す以東岳の左肩には長く飯豊連峰が伸びている。
 思えば東北の山はあまり相性が良くなく、山頂でガスに巻かれたりや雨にたたられた記憶が多い。今見えている、飯豊も鳥海も月山も皆そうだった。今までこれらの山から他の山を見たことがなく、今回初めてそれらの山々の山容をじっくり眺められたことになる。そういえば東北の山から日本海を見るのも初めてのような気がする。以東岳の山頂に着いた時には既に飯豊連峰や大朝日岳にはガスが掛かり始めたが、これだけ見えただけでも満足だ。

大鳥池俯瞰

 

ハクサンオミナエシ

 

 以東岳山頂からは、熊の皮を広げたような形と言われる大鳥池が真下に見える。伏せた熊の右手の上に大鳥小屋も小さく見える。
 山頂直下では以東小屋の工事が行われている。今年中に基礎工事を終え、来年、建屋工事を行って秋には完成の予定らしい。

 振り返れば朝日連峰主稜線。寒江山への稜線は緑の廊下だ。遠く狐穴小屋が雲に見え隠れしている。次はあれを目指す。
 すぐそばをアマツバメがすごい勢いで風を切って飛んでいく。 

以東岳から寒江山に続く稜線

 

 以東岳からの下りもまだ花が多い。ハクサンイチゲの白にタカネマツムシソウの紫が混じっている組み合わせは、あまり他では見たことがなく美しい。
 ただ、踏圧による土壌の流亡で砂礫地が広がっているのが残念だ。このままだと、今のお花畑の存続も危うそうだ。何か手立てが要りそうだ。登山という行為は自然破壊でもあることが如実に分かるのが辛い。

 

 

ハクサンイチゲの群落

 

砂礫地が広がる

 

 

トモエシオガマ

 

  標識がないと山頂かどうか分からない中先峰などいくつかのピークを越え、コースタイムよりやや早く狐穴小屋がガスの中に現れた。小屋の周囲は小沢や湿地があり、気持ちの良さそうなところだ。

 まだ雨は落ちてこず、ここまでは出発前の「できれば」が叶っている。
 小屋の前で尺八を吹いていた管理人は午後まで大丈夫だろうとの見解。一休みして先に進む。竜門小屋までのコースタイムはあと2時間40分で、まだ先が長い。 いつもならガイドブックのコースタイムはあまり気にしないのだが、今回は天候に追われ続けて、どうしても気になる。

狐穴小屋のお花畑

 

 

イブキトラノオの群落

 

タカネナデシコ

 

 狐穴小屋から寒江山にかけても花畑が続く。ハクサンシャジン、ミヤマクルマバナ、イワオウギ、ミヤマダイモンジソウ、イブキトラノオなどなど。タカネナデシコ、ハクサンイチゲ、タカネマツムシソウが特に多い。ガスに包まれたどこまでも続く花畑の中を歩いていると、天国への道を歩いているような気分になる。
 

 

寒江山のお花畑

 

タカネマツムシソウ

 

 ところが寒江山の山頂でとうとう雨が降り出してしまった。止むかなと思って様子を見ていたが、しだいに降りが激しくなってきて、諦めて雨具、ザックカバーを着けて歩く。雨具を着るととたんに暑い。特にフードをかぶると堪らない。時々前を開けたりフードを取ったりしながらひたすら歩く。 後ろの以東岳の方角から雷鳴も聞こえ始める。雷に追われて先を急ぐ。
 アップダウンの続く道は現在地が分かりにくく、あと30分くらいかなあ、と思っていたら突然ガスの中に竜門小屋が現れた。ここのコースタイムは少し多めのようだ。とにかく、当初の予定通り、竜門まで来ることができた。

 

竜門小屋前から西朝日岳(左)

 

竜門小屋の水場。ビール800円

 

 今日も長い午後をのんびり過ごす。今日の宿泊者は他にカップルが一組だけ。昨夜は17人泊まったんだけどね。とは管理人の弁。ラジオを聞きながら寝転がっていたら、4時前には青空が戻ってきて、以東岳まで雲間に見えるようになった。以東岳の上をゴマ粒大のヘリが、小屋の建設資材を麓から何度も運びあげているのが見える。 傾いた陽射しに光っているのは日本海。その上にぼんやりと佐渡の影が見える。ちょっと嬉しい。

 小屋の定期交信を聞いていたら、どうやら大鳥小屋にいた4人組のパーティがこちらに向かっているらしい。狐穴小屋を出たのが2時くらいだったそうだが、まだ着いていない。管理人も宿泊者も外に出て心配していたが、そのうち双眼鏡で見ていた管理人が「まだあんなところを歩いている。」と声を上げた。こりゃ6時を回るな、とつぶやいたが、実際に4人が到着したのは陽がまさに沈もうとする6時半過ぎだった。
 高齢の女性も含んだグループで、もともと脚が遅くコースタイムの1.5倍が標準です。とリーダー風の男性が言っていたが、それにしても雷雨の中をよく来たものだ。明日、古寺鉱泉に泊まる予定なので無理をしたようだが、 取り敢えずたどり着けて良かった。今夜もいびきに付き合うことになったが、それはまあ仕方ない。

夕陽

 

8月2日
 例の4人組は今日も3時起きだろうから、それに合わせて起きればいいやと安心していたら、4人組が起きたのはもう4時近かった。さすがに昨日の疲れがあったんだろう。こちらも慌てて起床。他人任せにしたために、出発は30分遅れて5時。

 今日も天気予報は悪い。既に頭上は雲に覆われている。今日の「できれば」は西朝日岳から大朝日岳を眺めること。そして、大朝日小屋まで降られずにたどり着くこと。
 食料の予備は持っているので、大朝日小屋までに大雨になってしまったらもう1泊してもいいが、どちらかと言えば早く下山して温泉に入りたい。
 いつ降り出してもいいように、ザックカバーを付けて歩き出す。

 

竜門岳から中岳(左)、大朝日岳(右)

 

熊の糞?

 20分程の登りで竜門岳山頂。まだガスは上がってこず、大朝日岳が暗い雲の下に見える。振り返ると以東岳もまだ見えている。
 西朝日岳への登りも花が多い。セリ科の白い花、フウロソウのピンク、キリンソウの黄色が目立つ。この辺りはヒナウスユキソウが多いようだが、花は既に終わっている。
 天気が良かったら気持ちのいい道だろう。と思っていたら、道の真ん中に濃い緑色の異様な物体。「今の時期は、熊は草を食べて緑の糞をする。」という昨日の小屋の管理人の話が思い出される。熊自体にはほとんど会わないが、糞 には時々遭遇するらしい。これがそうかは分からないが、大きさから考えると他の動物が思い浮かばない。

 

西朝日岳山頂からガスの大朝日岳

 

雲湧く稜線の先に以東岳

 

 もう少しで西朝日の山頂にたどり着こうとしたまさにその時、あっという間に向う側から流れてきたガスに山頂は覆われてしまった。う〜ん、タッチの差でアウト。
 しばらく待ったが、ガスが取れそうもないので中岳との鞍部に向かう。すると、見る見るうちにガスが晴れて大朝日が姿を見せた。反対側は雲の湧く稜線の先に以東岳まで見える。短い時間だったけれど、最後の展望を楽しむことができた。

 

 

ニッコウキスゲ

 

ミヤマリンドウ

 中岳を左から巻くと、ガスの切れ間に雪渓が見えてきた。連峰一の名水と言われる金玉水の雪渓だ。ただ、稜線から下りないと水は得られないので、そのままパス。大朝日小屋は小屋近くに水場がなく、金玉水まで汲みに来なけらばならないので、あまり泊まりたくないのだ。

 大朝日小屋まで登ったがまだ、雨は落ちてこない。小屋の横を抜けそのまま大朝日の登りにかかる。これが最後のピークへの登りと思うと、力が入る。

金玉水の雪渓と大朝日小屋

 

 今回は昨年の栂海新道と同じくらいの重さのザックを背負っているのだが、あまり荷物が苦にならない。膝も肩も痛くならず、至って快調だった。靴を新調したのも良かったのかもしれない。 

 

 大朝日の山頂に登りついたがやはり展望はない、時々ガスが切れた時に、小朝日への稜線や反対側の平岩岳など近くが見える程度だ。

 最後のピークなのでのんびり行動食を食べ、「さて、下るか」とザックを背負った瞬間にポツリと雨が落ちてきた。これまた何というタイミング。一度は止むかなと思いながら も、 ザックを下ろして雨具を着ける。

大朝日岳山頂にて

 

 中ツル尾根に付けられた登山道はハイマツの中を真っ直ぐ下っている。岩がちの急な道を滑らないように慎重に下って行く。雨は時々大粒のものが混じり、すぐには止む気配はない。
 黄色いポンチョの登山者とすれ違い、なおも下る。周りがハイマツから灌木帯になる頃、道の脇に「七合目 1500m」の小さな標識が目に入った。この尾根は一本調子の下りで現在位置が分かりにくいので、この標識はありがたい。一息入れて、なおも下る。

左が中ツル尾根、向かいは平岩山

 

 尾根は広くなったり狭くなったりし、傾斜も緩急を繰り返して下っていく。雨もまた強弱を繰り返す。陽が射して来て雨脚が弱まることもあるが、蒸し暑さが増すだけで、一向に止まない。むしろ、小朝日の尾根の向うから雷鳴が近づいてくる。

 六合目を過ぎ、五合目付近は太いブナの森になる。大鳥口も朝日鉱泉口も山腹は立派なブナ林だ。
 ブナを眺めていたら、先ほど登っていったポンチョの登山者がもう下ってきた。ピストンとは言え、かなりの健脚だ。

 
五合目付近のブナ林

 

 三合目付近には太いヒメコマツが何本も立っていて、不思議にその下は雨が落ちてこない。雷に急かされてゆっくり休んではいられなかったが、ここでは少し落ち着いて休憩がとれた。

 なおも下って、やっと二俣の吊橋に到着。ここが二合目で標高は660m。朝日鉱泉が560mなので、後100mだ。
 登りでも幾つか吊橋を渡ったが、朝日連峰の吊橋はどこも同じような構造で、そしてよく揺れる。どこも踏板が渡してあるので怖いことはないが、ここのは長いので、揺れ方も大きい。

二俣の吊橋

 

  ここからは朝日川左岸の川沿いの道。しかしいきなりの高巻き。下り切ってホッとした体には少々きつい。ブナの中の巻き道で沢水も豊富。晴れていればここも気分の良い道だとは思われるが、雨はまだ雷鳴を伴って降り続いている。高巻きが終わると今度は流れのすぐそばの岩をたどる道。増水した流れは勢いがすごく、あと1mも増水すると怖いだろうなあと思う。
 その先は吊橋で一旦右岸に渡る。ブナの大木が並ぶ少し平らなところで、あとで朝日鉱泉の地図を見たら孫兵衛平と記されていた。写真を撮りたいが、雨脚が強く諦める。 
 平らな道が現れたので油断していたらその先は流れ込む沢を渡る箇所で道が崩れていて、 滑りやすい急斜面をロープを伝って下り、石飛で沢を渡ってまた斜面を登る。少し進むとまた同様に支流のところで崩れている。中ツル尾根を下り切ればもう楽になると思っていたら大間違いだった。この道をピストンするのもなかなかハードである。

 もう一度吊橋で左岸に渡ると、さすがに平らな歩きやすい道になってきた。いつの間にか雨がやみ、陽も射し始めた。鼻歌交じりに歩いていたらブヨに腕を2か所も刺された。むちゃくちゃ痛くて、かゆい。朝日連峰は虫が多いとは聞いていたが、締めくくりでやられてしまった。
 杉林の中、平岩岳への道を右に分け、鳥原山からの道を左から合わせて、最後に本流の吊橋を渡ると山道は終わり。目の前の階段を登り切ると朝日鉱泉だった。

 朝日鉱泉の玄関は登山者でごったがえしていた。 ちょうど午後の登山タクシーが出る前で、皆玄関に出てきたところのようだった。
 玄関先でずぶ濡れの雨具を脱いでいたら、その中の一人に声を掛けられた。見ると、同じタクシーで入山し、大鳥小屋に泊まらず先に進んでいった人だった。その人は結局狐穴小屋までたどり着けず、以東岳の先でビバークしたとのこと。そして昨日は大朝日小屋に泊まり、今日下山したとのことだった。「ホントはビバークなんてダメなんだけどね。」と本人も言っていたが、まあ取りあえず無事でよかった。

 部屋に案内されたら、今日は宿泊者が少ないので一人一部屋と言われる。ゆっくりできてありがたい。
 温泉に入り、外のベランダで生ビールを飲んでいたら、雲が切れて大朝日の山頂が覗いた。あそこから下りてきたのだと思うと、感慨もひとしお。
 天気に追われて少々慌ただしかったが、それなりに展望も得られたし、花も見られたので、満足満足。 

 夕食の際には、これから登る人にさりげなく難所の情報を教え、にこやかにプレッシャーをかけるのは、下ってきた者の特権。

朝日鉱泉から見上げる大朝日岳

 

<おまけ>
  朝日鉱泉の主人によれば最近は縦走する人が少ないと言う。確かに今回の山行でも、以東岳から大朝日岳の間ですれ違ったのは2日間で2組3人だけ。 大鳥池への登りでは何組かの下山者とすれ違ったので、週末が含まれる日程だともっと多いとは思うが、こんな状況は予想していなかった。かつては学生の夏合宿などでよく使われていたのだが、最近はあまり来ないとのこと。山中で幕営出来ないことも少しは関係があるかもしれない。
 縦走となるとやはり公共交通機関を使うことになるが、JRの左沢(あてらざわ)駅からこの朝日鉱泉に来るのも、最初は民営のバスだったが利用者が減って採算が合わずに町営になり、今はそれもなくなって朝日鉱泉が期間限定で乗り合いタクシーを運行している。(採算ラインギリギリらしい。) 予約が要らないのはありがたいが、一日2便しかない。マイカーを回送してくれる業者もあるようだが、個人的には気楽に使える感じではない。
 全てを百名山ブームのせいにする気はないが、それも一つの要因だろうし、有名なピークのみ日帰りピストンという登山形態は、休みがとりづらいものにとっては、仕方のない選択肢なのだろう。
 でも、少し山に関心がある人なら「朝日岳」は「大朝日岳」だけではなく「朝日連峰」だと思う。連峰ならば縦走したいじゃないか。朝日連峰は十分にその価値がある。 (もっともこだわり過ぎると、自分のように登る機会を何十年も逸することになるかもしれないが。)

朝日連峰ルートマップ


[山行日] 2016/7/30(土)〜8/3(水)
[天気] 31日 (日) 晴れ              2016年7月の天気図
 1日(月) 晴れのちガス、一時雨      2016年8月の天気図                            
 2日(火) 曇りのち雷雨
[アプローチ]

30日 JR岡崎 19:01 →(特別快速)→ 19:23 豊橋 19:29 →(普通)→ 20:03 浜松 20:11 →( ひかり480号)→ 21:40 東京 21:52 →(普通)→ 21:56 秋葉原 22:40 (国際興業バス)

31日 → 5:20 東京第一ホテル鶴岡前バス停=エスモールバス乗り場 7:52 (庄内交通バス)→ 8:22 朝日庁舎 8:30 (登山タクシー:落合ハイヤー)→ 9:10頃 泡滝ダム
      
・泡滝ダムの登山口駐車場にトイレ有り。

[帰り道]

 3日 朝日鉱泉 7:30 →(登山タクシー:朝日鉱泉朝日岳登山クラブ)→ 8:35 左沢駅 8:56 →(普通)→ 9:40 山形 10:57 →( つばさ138号)→ 13:48 東京 14:33 →(ひかり517号)→ 15:56 豊橋 16:02 (新快速)→ 16:25 岡崎
 

[コースタイム]
31日          
  行動時間 発着時刻 地点名 休憩時間  
  0:45 9:20 泡滝ダムP出発 (約530m)    
  10:05 小沢の滝 0:10  
  0:30 10:15  
  10:45 冷水沢吊橋 0:10
  0:50 10:55
  11:30 七ツ滝沢吊橋 (約700m)  
  11:45 七曲り下 0:15
  0:50 12:00  
  12:50 大鳥小屋(タキタロウ山荘)着   全行動時間
2:55     0:35 3:30

 

1日         3:15起床
  行動時間 発着時刻 地点名 休憩時間  
1:05 4:30 大鳥小屋出発 (約970m)    
5:35 三角峰下 0:05  
0:40 5:40  
6:20 三角峰肩 0:05  
1:05 6:25  
7:30 オツボ峰先 0:05  
0:25 7:35  
8:00 以東岳山頂 (1771.9m) 0:25  
1:05 8:25  
9:30 中先峰 (1523m) 0:05  
0:40 9:35  
10:15 狐穴小屋 (約1500m) 0:10  
1:05 10:25  
10:40 三方境 (1591m)    
11:00 北寒江山 (1658m)    
11:30 寒江山 (1695.3m) 0:25  
1:05 11:55  
13:00 竜門小屋着 (約1570m)   全行動時間
7:10     1:20 8:30

 

2日         3:55起床
  行動時間 発着時刻 地点名 休憩時間  
1:20 5:05 竜門小屋出発    
5:25 竜門山 (1688m)    
6:25 西朝日岳 (1814m) 0:15  
1:45 6:40  
7:40 中岳巻き道    
8:10 大朝日小屋    
8:25 大朝日岳山頂 (1870.8m) 0:35  
0:50 9:00  
9:50 七合目 (1500m) 0:05  
0:35 9:55  
10:30 五合目 (1200m) 0:10  
1:45 10:40  
12:00 四合目、長命水 (1060m)    
12:25 三合目 (850m) 0:10  
1:25 12:35  
13:00 二合目、二俣吊橋 (660m)    
13:20 一つ目の吊橋手前の小沢    
14:00 朝日鉱泉着   全行動時間 
7:40     1:15 8:35

 

 

[小屋・宿] 大鳥小屋
(タキタロウ山荘)
・夏季は管理人がいる避難小屋、1,500円
・100名収容。

・室内に水場、洋式水洗トイレあり。
・缶ビール500円。


管理人デザインの
以東岳記念ピンバッジ
竜門小屋
・夏季は管理人がいる避難小屋、1,500円
・50名収容。

・水場は外に引水。トイレは室内で和式水洗。
・缶ビール800円。
(帰路のタクシー運転手の話では日本一高いビールとのこと。でも、歩荷するのだから当然と思い、飲んでしまう。)
朝日鉱泉ナチュラリストの家
・1泊2食、8,000円。
・赤茶色の温泉。内湯のみ。石鹸、シャンプーあり。
・生ビール、中600円、小450円。

・部屋は和室だが荷物置きスペースもあり、快適。
・充電用コンセントあり。
・デッキから大朝日岳が眺められる。