安達太良山( あだたらやま)              [東北] 1700m

 

 なぜか今年は10月半ばになってから雨の日が続く。今頃秋の長雨なのだろうか。気象情報を毎日睨みながら悩んでいたが、東北地方はなんとかなりそうな 感じになってきた。来週も台風の影響が出てきそうなので思い切って決行。雨の中、夜行バスに乗り込む。

 郡山駅に着いた時はどんよりと雲が覆っていたが、レンタカーを走らせ、麓の岳温泉を過ぎてなおも高度を上げると、とうとう雲を突っ切って青空が広がった。お〜、狙い通りだ。

 奥岳の駐車場は紅葉シーズンということで平日にもかかわらず車がかなり止まっている。安達太良山は智恵子抄のみならず紅葉でも名高いので、観光客も混じって賑やかだ 。ただし、ゴンドラに行列ができる程ではない。
 まだ雲がかかっていて陽射しが斑なので鮮やかさにはいまいち欠けるものの、ゴンドラからの眺めは素晴らしい。

ゴンドラからの紅葉

 

木道の先に山頂が見える

 

ナナカマドの実

 

 ゴンドラを降りるとハイキングの団体さんがいっぱい。人混みは嫌なので薬師岳の展望台はパスして山頂を目指す。
 展望台でなくても眺めはあるだろうと思って歩いていたが、周りは松や灌木が一面に生えていて一向に視界が開けない。このあたりは五葉松平というだけあって、びっしりと松が生えている。こりゃ、絶景を見損なったかな
あ、とやや後悔。

1600m付近から篭山方面

 

山頂駅を振り返る

 

  それでも標高が1550mを超えるあたりから視界が開けて、眼下に台地のような広大な山体が広がった。松の緑の中に赤と黄色が混じる感じで、一面真っ赤という訳ではない。
 紅葉の斜面の先は一面の雲海が埋め尽くしている。

広い山体の向うに雲海が広がる

 

 それにしても、登山者が多い。平日ということもあり老夫婦、高齢者グループなどが目立つが、若者のグループ、山ガール、カメラマン、運動靴の観光客などバラエティーに富んでいる。山慣れないお年寄りも混じっていて、岩がちの急傾斜や道幅の狭いところでは渋滞気味である。

紅葉の斜面

 

 背の低い松が生える岩だらけの広い斜面を登りきると、山頂直下にたどり着く。安達太良山の山頂は広い稜線の上にポンと突き出した岩の塊で、通称「乳首」と言われている。「コンサイス日本山名辞典」には乳首山の別名も載っている。
 安達太良山は山体の大きな火山で、少し北にある箕輪山や鉄山の方が標高としては高いのだが、なぜかここが安達太良山の山頂とされている。やはり、乳首の方がよく目立つためだろうか。
 ちなみに箕輪山は標高1728mあるが、通常、安達太良山としての高さは乳首の標高の1700mが採られている。

山頂間近

 

雲の隙間に磐梯山 山頂から鉄山へ続く北の稜線

 

 乳首の上に上がってみると、山頂の岩の上は意外に広い。広い稜線が南北に伸び、東西にはこれまた広い山腹が広がっている。標高の割に安達太良山は大きな山だ。
 磐梯山は雲に覆われていて、時々雲の切れ間から山頂が顔を出す。明日登る吾妻山はこれも大きく横たわっていて、西端の西吾妻や西大巓あたりの山頂だけ雲がかかっている。
 山頂には入れ替わり登山者が訪れ、記念写真を撮る人が絶えない。上空はだいぶ雲が少なくなって、青空の面積が増えてきたが、これが智恵子の言う「ほんとの空 」なのかどうかは分からない。

山頂の八紘一宇の石碑

 

 乳首から下りて稜線を北に向かう。稜線は広く、なだらかでスタスタ歩ける。
 振り返ると乳首の上に夏のような雲が出ていた。まるで夏のアルプスのようではないか。

乳首の上の雲

 

 稜線を牛ノ背と呼ばれるところまで来ると、足元に巨大な窪みが広がる。旧火口の沼ノ平である。今までなだらかな山容を見てきたので、この荒々しい火口はとてもインパクトがある。 白い内壁は彫刻刀で削ったようにエッジが立っている。
 安達太良山の多様な魅力のひとつ、と言えばそういうことなんだろうけれど、とても異質な感じがする。でも、やはりすごい眺めだ。

沼ノ平

 

 牛ノ背からは稜線を外れ、峰の辻に下る。右手の乳首が段々高く遠ざかる。
 峰の辻からくろがね小屋に下るにつれて、周りが色鮮やかになってくる。小屋の付近が一番紅葉の盛りのようだ。
 小屋の前には谷が広がり、その上に鉄山の岩壁がそびえる。紅葉も美しい。

 この谷には温泉が湧いていて、立入禁止の立札が立っている。ここが岳温泉の源泉になっているらしい。くろがね小屋にも温泉が引かれていて、珍しく温泉に入れる山小屋になっているのでとても人気が高い。入浴だけでもできるそうだが、ここで気を緩めてしまうと後の下りが不安になるので、ここは我慢する。

篭山を見上げる

 

くろがね小屋を見下ろす 鉄山の岩壁を見上げる

 

ナナカマドとススキ

くろがね小屋

 

 くろがね小屋からは幅の広い登山道を下る。軽トラではやや難しいが、バギー車なら通れそうな幅や傾斜になっている。小屋への物資の荷揚げに使われるのかもしれない。温泉のパイプもそばを通っているのでそのメンテナンス用道路なのかもしれない。
 この辺りから見る対岸の紅葉も美しい。

 

くろがね小屋下の湿原

 

ダケカンバ

 

 しばらく行くと勢至平。道の傍らに石碑が立っているので近づいてみると「勢至塔」と彫られている。この塔があるために勢至平と言われているようだが、勢至塔の意味が分からない。
 帰って調べてみると、旧暦23日の夜に講員が集まって飲食しながら月の出を待ち、お経をあげたりして悪霊を祓うという民間信仰(月待行事)が全国的にあって、その講が記念に建てたのが二十三夜塔というものらしい。二十三夜塔と勢至塔は同じ性格のもので、月の化身が勢至菩薩と信じられていたことから、勢至菩薩の姿や、勢至塔の文字を刻んだものが建てられたようだ。

勢至塔

 

 勢至平を横切ると、新道と旧道に分かれる。新道は馬車道とも呼ばれ林道並みの道幅がある。旧道の方は昔ながらの山道だ。地図を見ると新道は車が上がれるようにつづら折りになっているので、旧道の方が早く下りられるだろうとこちらを選択した。
 ところが、旧道は泥んこ道。昨日までの雨も手伝ってこれ以上ないくらいのコテコテ、ツルツル道。今回はトレッキングポールを持ってきていないので、滑りそうでしょうがない。さすがに、途中で新道とクロスするところで、新道に乗り換えた。こちらは距離は長いが鼻歌交じりで降りられる。
 奥岳の駐車場まで戻ると、隣接の日帰り入浴施設の入口に蛇口が設けてあり、泥落とし用のブラシまで用意してあった。やはり、泥だらけになるのが当たり前の道なのか、と納得した。

西吾妻山へ

安達太良山ルートマップ


[山行日] 2017/10/17(火)
[天気] 晴れ         2017年10月の天気図(気象庁)
[アプローチ] 16  東名本宿BS 22:17 (夜行バス/福島交通)→

17日  7:10 郡山駅西口 (レンタカー/R156号)→ 9:25 あだたら高原奥岳P
      [約32km]

      山麓駅 →(あだたら山ロープウェイ)→ 山頂駅

[コースタイム]
         
  行動時間 発着時刻 地点名 休憩時間  
0:55 10:00 あだたら山ロープウェイ山頂駅発   晴れ
10:55 1590m地点 0:10  
0:20 11:05  
11:25 安達太良山山頂 (1699.7m) 0:35  
1:00 12:00  
12:15 牛ノ背    
12:30 峰の辻    
13:00 くろがね小屋 0:15  
1:20 13:15  
14:35 奥岳P 着   全行動時間
3:35     1:00 4:35
[地図] 安達太良山、中ノ沢 (1/25000地形図)

 

[温泉]

あだたら山「奥岳の湯」
・ロープウェイ山麓駅の隣にある日帰り入浴施設
・入浴料600円。(JAF優待で50円引き)、無休、10:00〜21:00。
・ボディソープ、シャンプー、ドライヤー完備。
・展望が開けて気持ちがいい露天風呂あり。
・休憩スペースはない。
・入口に泥落とし場がある。

[風景印] 岳温泉(だけおんせん)局
 (二本松市岳温泉1-223-3)

・図案
 安達太良山、県花・シャクナゲ、ニコニコ共和国入口