悪くはなかったですよ。 周囲の評価が低かったので、どんなに酷いのか覚悟しての鑑賞でしたが、 周りが言うほど“面白くない”映画ではないと思います。 テーマや素材など、どれをとっても興味深いものを取り上げていて その面では、単なるパニックものの枠を超える可能性もあり かなり好感が持てました。 確かに、詰めの甘さは大きく、 時間の経過に伴う事象の変化が、かなり疑問や矛盾を孕んでいて 観ている最中、何度もスクリーンの中から引きずり出される思いで、 作中に没頭できずにいたのは、映画として大きなウイークポイントであるコトは否めません。 ましてや、画面に時間経過がテロップとして表示されるので たとえそれが科学上、常識だとしても 一般的に“あり得ない”とか思わせてしまうとしたら この辺は曖昧に濁した方がいいのか、 それとも、文字ではなく体感による時間の流れで表現した方がいいのか… まあ、観ている側は一々テロップの情報を冷静に分析する余裕のある方は少ないと思うので その辺の工夫を一考願いたい……と思うのは私だけでしょうか? あと、特別な立場にある人物の行動に疑問があったり 特別な状況下においての一般人の行動に戸惑ったり、 知識の無さで感じる疑問ならば申し訳ないけれど、やたらと疑問符の付く行動が目立った。 例えば、貧しい国で医療活動している医者が、 感染の疑いがあるにもかかわらず、他人への感染への配慮もせずに 帰国、渡航し、他人と接触するなんて あまりに常識はずれで“うそ”の匂いを嗅ぎ取ってしまい、 その後の展開をしらけさせてしまった。 そういえば、その医者が日本で吐血し、症状が重症に見えたのに 現地へ渡航出来るモノなんだろうか? 他の描写では、病状の進行はかなり速そうだけど…。 とにかく、物語の進行上、重大な欠陥を孕んでいることに間違いないと思うが…。 素材に関しては、未知の感染症発生の源に 経済的に貧しい国を土台にして、益々経済的に肥え太る裕福な国という 地球規模の社会問題を据えたコトに、大きな意義があると思う。 最終的にテーマは、医療倫理や人の生き方といった方向に強く傾くが、 上手くすれば、もう一本硬派な社会派の作品が作れそうだ。 出来れば観る側も、岩波新書:『エビと日本人』:村井吉敬 著 あたりでも読んで 少しは我が身の立ち位置を真剣に考察でもされたらいかがかと思う。 「なぜ日本なのか?」という問いへの答えとして、 新ウイルスに「ブレイム」という名を与えて 爆発的感染パニックを起こす日本に贖罪の意味を持たせたのも 作る側の意図と素材に対する拘りとセンスが伺えて面白いと思う。 で、せっかくここまで面白い素材を持ってきたのに 前出の詰めの甘さは、正直勿体ない。 さらに人物の掘り下げをせめて主人公の松岡とウイルス学の教授 仁志に関しては もう少し深めにして欲しかった。 WHOのメディカル・オフィサーとして冷徹なまでに職務を遂行する栄子との対比とか 仁志の“受け入れて共存して生きる”という考えを、 セリフだけでなくドラマで体験出来たら、 もっとクライマックスでの感動も大きかったと思う。 後、自分事になるが、ストーリー展開上重要な役割を担う脇役には 他との視覚的差別化をもっとハッキリとして欲しい。 第一感染者やその妻、養鶏場の娘など、外見上被る部分が多くて チラッと見ただけでは見分けがつかず、ストーリーを追うのに苦労しました…… って、ほんと コレ 私だけかもしれませんけど…人の顔と名前覚えるの苦手なんです(汗)。 そう言えば、名もなきフリーのウイルス研究者役のカンニング竹山さん、 すごくハマり役ですね。 それから、ウイルス感染で倒れてしまう看護師の夫役の爆笑問題の田中さん、 何気に小さい娘の父親役が凄く自然で好感が持てました。 御笑いの方って、かなりなイイ役者性を発揮する方がいらっしゃるんですよね。 …って、キャスティングスタッフの力量でもありますが…。 直接ウイルスの犠牲になった人だけでなく間接的に犠牲になった人など、 現代に潜む風評問題にも言及しようとの努力も、エピソードが分断気味ではあるが ストーリーの厚みを増すための意気込みとして評価したい。                              09.01.24. 鑑賞