演出、ストーリー共に無駄のない映画として完成度の高い逸品。 “納棺の儀”、この静寂で高貴とも言える動作に 華道や茶道に通じるトコロの様式美を感じる。 “様式美”、すなわち それは“心”。 故人をおくりだす“心”が存在するからこそ 人はそこに何かを見、何かを感じ、そして受け取る。 故に、哀しくも美しくそして…温かい……。 この、自然で洗練された動作。 さぞかし役者 本木雅弘は、この動きを自分のモノとするため、 研鑽に研鑽を重ねたに違いない。 冒頭の、この納棺師の美しいお作法とも言える動きを見せられてこその その後の展開が生きようと言うモノだ。 モッくんの役者魂に拍手を送りたい。 ストーリー展開といい、各々の人物たちの関係性といい、散りばめられたエピソードといい、 無駄がなく出来すぎの感、および次の展開がある程度読める、としても 登場人物たちの其々の心の移り変わりが自然で納得できるので、 深い感動と満足感で満たされる。 その、出来あがったストーリーを印象的に推し進める演出も、 これまた無駄がなく、シリアスなテーマを程よいユーモアを交え 笑いながらも自然と最も深い核心へと誘う手法に舌を巻く。 全体の流れの緩急も絶妙で、2時間20分という尺も全く気にならない。 まさに映画作品を構成制作する技術の妙を見せつけてくれた。 キャスティングも素晴らしく、 不器用でも愛情深く一途な好青年の新米納棺師を本木雅弘が熱演。 飄々としていても、物事の本質を見極め、且つ人を慈しみ尊ぶ 深い精神性を湛えた ベテラン納棺師を山崎 努が120%のハマり具合で好演。 申し訳ないが、可愛いけど普通過ぎて、どの役も同じにしか見えなかった広末涼子も、 本作では、好きな人のためにひたすら可愛く健気に尽くす、 癒し系、でも世間の目を気にするあまり、一時 夫を拒絶してしまう とても“普通人”な妻には、納得の配役。 彼女に「汚らわしいっ!」って言わせたのはインパクト大! 横たわる現実社会の根深くも至極人間的な問題を印象付けた。 『おくりびと』で語られるテーマは様々だ。 “おくるひと”そして“おくられるひと”、 その関係を描きながら、“生と死”の関係と そこから浮かび上がる“人生”そのものを 理屈でなく、目で、鼻で、耳で、舌で、そして手で感じさせてくれる。                 ↑ (生前愛用の口紅の色だったり、死後経過時間を物語る腐臭だったり、思わず漏れた嗚咽や罵倒だったり、 お礼にもらった食べ物だったり、握られた小石の小さく滑らかな丸みだったりする訳だ。) そう言えば、よく出てくる生と死を擬(なぞら)える様な“食べる”シーンは印象的だ。 そして…、その生き様に対して施される敬意を込めた儀式を司る “おくりびと”たる納棺師の存在に、敬意を込めて感謝したい。 彼らは、故人に関わる全ての人を ちゃんと“おくりびと”として、その場にいられるよう手を尽くして下さるのだから。                                 08.10.03.鑑賞