美 しき一日の終わり

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■有吉玉青            2012   講談社

『美しき一日(いちじつ)の終わり』。
うなるほど日本語の美しい物語。作者・有吉玉青は『恍惚の人』の有吉佐和子の娘です。
15歳の今宵は十三夜という日に父が連れてきた異母姉弟の弟。
姉・美妙と弟・秋雨。父から「美妙、秋雨と手を洗ってきなさい」と言われ、洗面所に連れて行き、上手に手を拭けない秋雨の姿に、美妙はひとつため息をつ き、タオルで秋雨の手を包んで拭いてやります。タオルの中の秋雨の手は、モミジのように小さく、ゴムのようにやわらかい。拭き終わると、秋雨は、「ありが とう ございます」と言いました。
母は秋雨の布団を母屋ではなく庭の書庫に運びます。しがらみの中で異母姉弟は出会い、そして、実の姉弟以上に許されない想いをお互いに抱き、生きていきま す。
物語は、美妙が70歳を迎えて美しき一日を秋雨と過ごす物語。「私たちはずっと、長い歳月を間違いなく生きてきた。おそらくは、この日のために。つらく苦 しく、なぜ生きているのか、わからなかったけれど、そのわけがわかると、すべてはなんと美しいのだろう」。秋雨は、姉に言います。「おねえさんが、よく 言ってくれた言葉を、もう一度聞きたいです」「よく言った言葉?」「いい成績をとったときや、学校に合格したときに」。ああ、あの言葉。「よくがんばった ね」。
この美しき一 日を迎える前、美妙は高校生の孫娘の里桜に語りながら、自分の生きてきた、ひとすじの道を心に見ま す。「自分だけのために生きる人生は小さくてむなしいけれど、人のために生きれば自分は無限に広がるのよ」と語りながら。その言葉は、秋雨が姉に求めたの と同じく、美妙が自らの人生を肯定する言葉です。
いつか出会えるたった一日のためにがんばって生きる人 生があります。その一日は、美しい一日であり、そして、その一日の終わりは…。

2012.5.18

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