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■辻村深月            2010  新潮社

死んだ人間と生きた人間を会わせる窓口の使者(つなぐ)。
高校生の歩美が祖母から使者をこれから引き継ぐ話。
一人の人間がこの世にいるうちにあの世の使者に会える機会は一人分だけ。たった一晩、会うことができるルールです。誰に会いたいかを指名できるのは生きて いる 者だけ。
前半は使者を使う側のストーリーが展開され、後半には使者である歩美自身のストーリーになっていきます。
使者を務める中で、歩美は死んだ者を呼び出すのは残されて生きる者のわがままなのではないかと迷い始めます。武者小路実篤の「愛と死」に「死んだものは生 きている者にも大いなる力を持ち得るものだが、生きているものは死んだ者にあまりに無力なのを残念に思う」という言葉があり、それを思い出しました。
生者は死んだ者にたった一人に一晩だけ会えるなら、何を知りたいのか、何を伝えたいのか。そして、死んだ者はその機会が与えられれば、何を伝えたいのか。
この物語では、いろいろな立場のいろいろな思いがでてきます。
喪った者を自分に生かして生きていくしかない、切ない生者の物語です。
歩美は、使者を経験していく中で、幼い頃に不審な死を遂げた両親のおぼろな真実に気がつきます。
それは、誰かから聞かされた話ではなく、歩美自身の記憶が知る両親に真摯に向き合えて初めて気がつく真実です。喪ったものに真摯に向き合い、ただ生きてい くことしかできない生者の切なさを表現した作品に感じました。
それでも、ただ生きていくしかできなことを肯定してくれる物語です。
それは生死に限らず、永遠に喪った何か全てに共通することかもしれません。





2012.5.10

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