ヘヴン

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■川上未映子      2009 講談社  

2008年に『乳と卵』で芥川賞を受賞した川上未映子。
この作品は14歳の少年と少女がそれぞれに自らが置かれた環境の中で正しい生き方と世界を真摯に、そして苦しみながら問い続ける物語です。
主人公の僕は、生まれながらの斜視で、クラスメートからロンパリと呼ばれ続け、呼び出されて意味のないことを命令されたり、倒されたり、毎日を虐げられて 生活しています。そして、同じクラスには、もう一人、女子たちからクサイとか気持ち悪いとか、さまざまな言葉でののしられ苛められている少女・コジマがい ました。
ある日、僕はふで箱を開けてみると鉛筆と鉛筆のあいだに立つようにして、小さく折りたたまれてた紙が入っていました。<わたしたちは仲間です>。コジマか らの手紙でした。やがて、僕とコジマは、虐げられる日々から逃れられることのないまま、お互いに手紙をやりとりし、心を通わせていきます。
コジマがいつも汚れた貧相な格好をしている理由。それは、本当の父親が弱くかわいそうな父親だったから。母親が再婚した家庭は、いわゆる普通の家庭でした が、コジマは自らの意思で父との絆を貫き、貧しい姿を虐げられることに耐え忍ぶことを唯一の正しい世界観として貫こうとします。そのコジマが語るヘヴン は、苦しいことを乗り越 えてたどりつく、なんでもないようにみえる普通の部屋。コジマは、僕に語ります。「わたしはわたしの家があんなだったからこういうしるしを手にいれて、君 は君の目がそうだっから君で、それでこうして会えたんだもん。いつかぜんぶがわかるときが来るよ」。いつか全部がわかるときがくるために、コジマは虐げら れ続け、僕がともに歩んでくれることを望みます。
けれども、クラスメートの苛めはますますエスカレートしていきます。そして、あることをきっかけに僕とコジマの絆は揺らぎ始めます。苛める側の巧みな論理 に惑う僕。 手術すれば治るかもしれない斜視。そうした中、苛めは行き着くところまで行き着き、耐え忍ぶ論理と立ち向かう論理の狭間に、世界の正しさが大きく僕の中で 崩れていきます。
最後に僕が選んだ道は・・・・。僕がたどり着き目にした世界、それは美しいものでした。僕は泣きながらその美しさのなかに立ちつくします。そして、僕はヘ ヴンが 本当はどこにあったかを知り、涙を流し続けます。その涙の意味を深く考えさせられます。

2009.12.21


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