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■桂 望実
2007 幻冬舎文庫(初版:2004 小学館)
『県庁の星』の作者・桂望実による老人と少年の珠玉の物語。
老人の栄造は70歳の靴職人。人と関わるのを嫌い、頑固ものですが、実は思うような靴が作れなくなったことを悩んでいます。少年は、母親を亡くしたばかり
の隼人。父は多忙な消防士で、母の死を受け止めきれない弟の直也を心配する心優しい兄です。この二人がひょんなことで知り合い、やがて隼人が学校のこと、
弟との関わり方を栄造に相談するようになっていきます。それとともに、栄造も隼人にかける言葉を自分にも向け始めます。傷つくこと、傷つけること、そこか
ら逃げてしまいがちな二人はお互いに成長を遂げていきます。
そして、ついに隼人は自分の気持ちを父にぶつけます。多くの人を助ける父を誇りに思い、その仕事を邪魔してはいけないと気持ちを押し殺してきた隼人。「父
さんだって母さんの代わりにはなれないけど―でも父さんなんだよ。直也の淋しい気持ちを小さくするのは―どんなことをしても淋しいんだけど―それは父さん
なんだよ」。「ぼ、僕だって―父さんが必要なんだ。母さんがいないぶん、父さんが―ここにいるぞって、言ってくれなきゃ、淋しいとき、どうしたらいいの
さ」。火事のとき大勢の人を守っている父に「僕たちも守ってほしい」と隼人は叫びます。父に本心をぶつけたことを気に病む隼人に栄造は、「お前は頑張りす
ぎなんだよ。傷つけることを恐れたら、もっと親父は遠くなるぞ。困らせてやれ。そうすりゃ慌ててお前のところに戻ってくっから」と語りかけます。
栄造は、もう一度、靴づくりに打ち込んでいきます。靴がうまく作れなければ傷つくけれども、それでも作るべきだということを栄造自身も感じるのでした。
2009.12.9
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