RReturn to Jun-coo's LIBRARY

 


 01
48
■三浦綾子      1996 角川文庫 (単行本:1992  角川書店)   

秋田の貧しい農家に生まれ、小樽で小さなパン屋を営みながら6人の子を育てた、小林多喜二の母セキの物語。三浦綾子が88歳のセキを訪ね、セキの語り を書き綴った小説です。
貧しくても明るく笑いの絶えない、家族の優しさに包まれた家庭。やがてその幸せは次男・多喜二の『蟹工船』が評判を呼ぶとともに、大きく変わっていきま す。優しい多喜二は警察に追われるようになり、そしてついに多喜二は29歳4ヶ月で警察の拷問により命を落としてしまいます。それから30年の月日を経 て、母・セキ は語ります。「本当は、誰とでも仲よくしたいのが人間だよね。それだのに、人間は、その仲よくしたいと思うとおりに生きられんのね。ちょっとのことで仲違 いしたり、ぶんなぐったり、あとから後悔するようなことばかりして、生きていくのは人間かね」。愛する多喜二がなぜ殺されてしまわなければならなかったの か 。つらい思いを抱えて生きてきた母の語りを三浦綾子が見事に綴りきっています。
現代社会に到るまで、その功績が大きく評価される小林多喜二。家族や身の回りの者たちを大切に生きるとともに、貧しい者たちを助けようとした彼の志をセキ は十分に理解しています。でも、母セキは、語らずにはいられません。「ほめられんでもいい。生きていてほしかった」と。

2009.4.25


Jun-coo's LIBRARY