北緯四十三度の神話

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■浅倉卓弥     2008 文春文庫  初版:2005 (文藝春秋)   

北緯43度線は、日本では北海道の札幌市を通っています。この物語は、札幌を舞台に、姉妹がそれぞれの想いを抱えて成長し、お互いに傷つき あいながら絆を自分たちの力で築き上げていく物語です。
浅倉卓弥氏自身が札幌市の出身。東京大学文学部を卒業後、2002年に第1回「このミステリーがすごい!」大賞の金賞を『四日間の 奇蹟』で受賞しています。この『四日間の奇蹟』の方が有名ですが、どちらかというと『北緯四十三度の神話』の方が好きな作品です。
両親を亡くした菜穂子と和貴子の二人の姉妹。菜穂子は、母から最後に聞いた「菜穂ちゃん、和貴ちゃんのこと頼むわね」という言葉を心に秘め、哀しみを表に 出すことなく学業に励みます。そして、生死の意味を知りたいという思いから大学に残り、遺伝子の研究に取り組みます。そんな菜穂子は、ときどき妹のことが わからなくな ります。祖父母の家で一緒に暮らす姉妹。端からみると仲の良い姉妹ですが、どこかで傷つけ合っている二人。菜穂子は、「感情に化学式があればいいのに」と 思います。
一方、和貴子は、快活な性格を活かし、ラジオ局で深夜の番組を担当。番組に寄せられるさまざまな若者の悩みに快活に答える和貴子。そんな和貴子 も、哀しみをみせない姉を、いつしか自分の嫉妬や軽い憎しみの練習台にしてしまいます。そして、和貴子の恋人の樫村が事故で亡くなり、そのことが二人が一 層、本音を語り合えなくしていきます。
二人は、お互いの心の内をお互いに伝えるタイミングを探り合いますが、すれちがいを重ねていきます。大切な姉妹だから、本音を言って傷つけるのを怖がった から。相手を理解しているつもりで、自分の目線で理解してしまっている。でも、そのすれちがいを重ねることは、むしろ二人がお互いを求め合うタイミングを 導いていきます。
やがて、シカゴへの研究留学が決まった菜穂子。す れちがったまま離れてしまいそうな菜穂子へのメッセージをテープに収録すべく、和貴子はマイクに向かって話します。勇気を出して、菜穂子に対してどういう 感情を抱いてきたかを告白します。引き受けきれない哀しさを姉にぶつけてきた心の内を語ります。そして、止まっていた時間をすすめて、その時間 の先を見てきてほしいというのが、二人の娘への亡くなった両親の本当の想いではなかったのだろうか・・・、そう考えることにしたことを和貴子は、大好きな たった 一人のお姉ちゃんに向けて語り始めていきます。そして、その瞬間・・・。
本文にも出てきますが、この物語は80年代にヒットしたドイツのロックバンドNENAの反戦歌「ロックバルーンは99」の赤い風船がモチーフの一つになっ ています。99の赤い風船をめぐり戦いが繰り広げられた末、ガレキの街の片隅に見つかる1個の風船。その風船を大切な人のことを思いながら空へ飛ばすとい う歌。 その風船に託す想いを二人の姉妹が共有できるようになるまでの物語です。



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