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■佐藤亜有子
2000
(角川書店)
jun-cooと同い年の作家です。東京大学文学部仏文科卒業。1996年に「ボディ・レンタル」で文藝賞優秀作に選ばれた際には、作品中にも出てきます
が、「最高学府の女」を自負しながらの大胆な性愛小説として注目を集めましたが、この「ボディ・レンタル」もよく読めば、魂の自由を理性と感情の狭間で追
い求める一人の女性、それをお互いに突き詰めあう友人たちの真摯な物語でもあります。注目のされ方がやや残念だった作品です。
その佐藤亜有子の長編ミステリーが、この「アンジュ」。主人公の女性・天才チェリスト安寿に迫る謎のストーカー。そして、ストーカーが引き起こす殺人事
件。婚約者の弁護士祐介は、安寿を守るべく安寿をめぐる複雑な人間関係の中からストーカー探しに乗り出します。やがて明らかになっていく安寿の複雑な家族
関係・・・、そして、ついに明らかになるストーカーの正体。
安寿という主人公の名前は、もちろん『山椒大夫』が意識されています。作品中の安寿の弟の名は隆志。その語音はもちろん厨子王が想定されています。「山椒
大夫」の時代背景の中では、厨子王のために身を捨てた安寿ですが、現代社会の安寿は救われない、許されない救いの中で安定を求めて不幸を積み重ねる哀しみ
に満ちた者として書かれています。
「ボディ・レンタル」「アンジュ」「東京大學殺人事件」と3つの作品を読んでみましたが、彼女の作品は読者に不快感を与えかねない形で登場人物を傷つけて
いきます。恵まれた時代
であるがゆえに、自らの精神的な自由こそを価値とした人物が多く登場します。
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