照姫

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■宇都宮葉山     1989 (新人物往来社) 

文明9年(1477年)4月、関東管領上杉氏に反抗する長尾景春の乱に乗じて、長尾氏と姻戚関係にある豊島泰経は挙兵します。迷いながらの末のこの挙兵 は、上杉氏の家宰で ある太田道灌を危機に 陥れました。巻き返しを図る太田道灌に対して優位であったはずの豊島泰経ですが、泰経は江古田・沼袋の原の戦いで大敗を喫し、逃れた石神井城を逆に太田道 灌に囲 まれてしまいました。同月28日に道灌は総攻撃を行い、石神井城はあえなく落城。泰経は白馬にまたがり、三宝寺池に入水し、娘の照姫も続いて入水したとい う悲話。 これが、石神井に伝わる照姫伝説です。現在、石神井公園では、毎年、4月の末に盛大に照姫祭を催し、照姫の霊を慰めています。
史実では、落城の折、泰経は石神井城を逃れており、また、照姫も実在の人物か否かは文献上、確認されていません。この『照姫』は、宇都宮葉山氏が数少ない 文献を丁寧に研究し、史実と伝説の調和を図りながら書いた歴史小説です。照姫の入水に到るまでが豊島家と太田家のさまざまな人物が交錯しながら描かれてい きます。
豊島家は平家の流れをもつ平安時代からの名門で、石神井城を拠点に練馬城(現在の豊島園)、現在の北区にあった平塚城にわたる領地を治めていました。この 物語は、豊島の名 と太田の刀の戦い。やがて訪れる戦国時代を前に、地に根ざしてきた名門の豊島家は滅びる運命にあったのでしょうか。複雑な勢力図の中で力のある者が生き残 る時代。安寧には名門の誇りを守りきれない情勢にあり、照姫の想いは豊島家の誇りを背負ったものとなっていきます。自らの恋情や望む生き方を非情に打ち砕 かれていきながら、絶望の中、家の誇りを賭けて照姫は落城の日を迎えます。
戦うことだけでしか生きる道を見出すことのできない時代の悲哀の物語です。


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