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■久保寺健彦     2007 (幻冬舎) 

第1回パピルス新人賞受賞作品です。
小学校卒業式の日、渡会悟少年の隣の山本が奇妙な音を立てながら倒れ、その背中には真っ赤なシミが広がります。包丁を持った右手をだらりと垂らし、山本を 刺したそ いつは妙にゆったりとした足どりで近づいてくる・・・。
中学校へ制服を受け取りに行く日、悟は団地を出た途端、さまざまな色が脈絡なく目の前をちらつき意識を混濁し引っくり返ってしまいます。そして、彼が団地 から出ることのできない長い長い時間が始まっていきます。
団地のコミュニティセンターで自ら学び、自ら身体を鍛え、そして団地内のケーキ屋さんに職を得た悟。団地から出ることは一切なく、暮らしていきます。彼の コミュニティは同じ小学校を卒業した107人の同級生。この物語は107人が年々団地を去っていき、最後に全員が去っていくまでの物語です。卒業式の恐怖 から逃れるための安全の砦としての悟にとっての団地だったのでしょうか?物語を通じて、その悟の心理はさまざまな経験を通じて徐々に見えてきます。守らな ければいけないものを守れない苦しみ。彼を守っているのは団地という空間ではありませんでした。守る力を得ようとすること、そして、最愛の者を失うまで気 づくことのできない、守られているということ。そんなテーマを見事に書ききっている作品です。

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