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■井上靖 新潮文庫 1964(初版:中央公論社1957)
小学生の頃、
ジュニア版日本文学名作選でわくわくしながら読んだ『天平の甍』を久しぶりに読み返しました。創建は鑑真和上没後のもう少し遅い時代であることが最
近、明らかにされましたが、天平美術の代表といわれる唐招提寺の金堂。屋根の左右にある鴟尾はと
ても美しく、この『天平の甍』にも象徴的に鴟
尾の由来が登場します。
天平時代、国家を挙げて仏教が布教がすすめられ、修行を経た僧侶は自発的な心の力である「戒」を授かって一人前の僧となりますが、当時の日本には戒を授け
ることのできる僧がいませんでした。『天平の甍』は、戒を授けることのできる僧を日本に招くことを使命に第九次遣唐使船で唐に渡った僧侶・普照たちの物語
です。渡唐から20年の歳月を経て、二度の難破と放浪を経て普照はついに鑑真和上を伴い、日本に帰ってきます。
この物語は、その壮絶な物語とともに、普照をはじめとした4名の留学僧のそれぞれの生き方を象徴的に表現しています。命をかけて唐に渡り、人生をかけて学
びながらも、無事に日本に帰ることのできない可能性も少なくありません。学ぶことは無駄なことかもしれないという過酷な運命の中、何を学び、何を使命とす
るかで
4名の僧はそれぞれの道を歩んでいきます。
迷いながら自らの使命を信じる生き方を書ききった作品です。
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