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■伊坂幸太郎 新潮社 2007
圧倒
的人気を誇る首相が仙台でパレード中に暗殺され、青柳雅春は犯人に仕立て上げられ、あっという間に逃亡生活に陥ります。その陰謀は巨大でかつ計画的に青柳
を陥れています。「かつて確かにあった帰り道」を失い、青柳はどのように逃げ切り、断ち切られた絆にどのようにして手を伸ばし、そして自らの正しさはい
つ、どのように表明できるのか。
読み応えの一つは、極めて精緻な伏線です。さりげないストーリーが重要なポイントの伏線として巧みに仕込まれています。
もう一つは、なんといっても青柳雅春の父のすごさです。逃亡中、追い立てるマスコミに対して父は吼えます。日本中が青柳を犯人と思う中で息子を信じ、動じ
ることなく、カメラに向かって「雅春、ちゃっちゃと逃げろ」。絶望の中で勇気を与えられ、そして雅春は最後に、見事に父と母に生きていく勇気を与えます。
さらには、時間を操る構成力の読み応え。この物語は、第四部「事件」が逃亡の一連のストーリーとなっていますが、第一部「事件のはじまり」、第二部「事件
の
視聴者」、そして、第三部「事件から二十年後」、第四部の後に第五部「事件から三ヵ月後」。なぜ、事件から二十年後をわざわざ第三部に置いた
のか。最後まで読み終えてから、第三部をよく読み返してみると、二十年後に第三部を書いているノンフィクションライターは一体誰なのか?がおぼろげに見え
てきます。
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