しゃぼん玉

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■乃南 アサ    新潮文庫  2008(初版:朝日新聞社 2004)   
      

単行本を図書館で借りて読んだときから気に入っていましたが、最近、ようやく新潮文庫から発行されました。
親からも見捨てられ、自暴自棄な生活に陥り、凶暴にひったくりを繰り返す生活へと転落していった主人公伊豆見翔人は、自らをしゃぼん玉にたとえます。ただ 漂って行き、いつかは弾けるんだからと無為に生きてしまい、しゃぼん玉が何かとぶつかれば弾けてしまうように、誰かと関わることも避け、何もかもから逃げ て生きている翔人です。そんな翔人が、九州の山奥の村で老婆スマと出会い、ひょんなことからスマとの生活を始めていくことから始まる物語です。もともと凶 悪な人間というよりも、弾けることから卑屈に逃げてきた、本当は純真な翔人。幼い頃、弟を守っていた姿などもさらりと出てきます。人が、変わっていく、 成長していくというよりも、むしろ、本来、持っている自分を取り戻していく姿を描いた心理劇。その心理描写が非常に巧みなのがなかなか読み応えありです。
「ぼうはええ子」と何度も繰り返すスマ。不必要な存在として育てられてしまった翔人は、徐々に逃げずに自分と向き合えるようになっていきます。居心 地のよさが人と関わる力を取り戻す源となっていきます。そして、スマとはまた別のキャラクターとして登場し、翔人を叱咤するシゲ爺。シゲ爺は翔人の性格を 見透かし、誰かに見ててもらえることで 初めて逃げない癖が身につくことを翔人に教えていきます。自分の力で頑張れることは一見、自立しているようにも見えますが、失敗したときには逃げてしまえ ばで自分を守れてしまうこともあります。シゲ爺は翔人が逃げられない状況をさりげなく作っていき、やがて、翔人は未来を見据えた決断をしていきます。
そして、翔人が小さい頃からの自分のすべてをスマに打ち明けるとき、スマは終始、翔人の手を撫でて聞いてくれます。ここも、誰かに触れられれば弾けてしま う翔人の 心の変化を巧みに描いた部分だと思います。ラストを読むとき、読むのは二度目で電車の中なのに、やっぱり目頭が熱くなりました

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