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■石田 衣良 文春文庫 2001(初版:文藝春秋 1999)
以前、単行本を図書館で借りて読んだことがありますが、最近、文庫版で読み直しました。石田衣良。あまり積極的に
読まない作家ですが、この作品はかなり好きな作品です。
ニキビの目立つ主人公・ジャガこと三村幹生くんは、中学2年生。練馬区の誇る牧野富太郎博士をこよなく愛する植物好きの男の子です。愛読書が
植物図鑑というだけあって、「ソメイショシはオオシマザクラとエドヒガンの自然交雑種なんだ。だから木によってどちらかの性質が強く残っているものがあ
る」といったように、植物の描写が豊かにでてきます。その植物に対する物の見方は、彼の世の中の事象の見方にも反映されていきます。ジャガの弟カズシ、妹
のミズハはモデル事務所に所属する容姿端麗な子ども。その他にも、全国で学力一番の頭脳
明晰な少年をはじめ、多彩な子どもたちがこの物語には登場します。『うつくしい子ども』というタイトルの「うつくしい」を平仮名を用いたのは、いろいろな
意
味でうつくしさを表したかったのかもしれません。
物語は朝風新聞の山崎記者とジャガを中心にそれぞれほぼ交互に節を分けてすすむ謎解きの物語です。ただし、犯人が弟カズシであることは最初の方に出てきま
す。加
害者の兄としてさまざまな苦難に直面するジャガ。その中で彼はあえて街に戻り、親友の長沢くん、はるきと一緒に、カズシがどうして殺人を犯すに到ったかを
訪ね歩いていきます。その動機は、「それでもカズシは僕の弟であることに変わりないから・・・」。そして、苦難は長沢くんたちも巻き込み、やがてジャガは
真実
に迫っていきます。
物語の中で山崎記者が「大人になること。正しさの基準を外の世界にではなく自分自身の中心に据えること」と語ります。しかし、それは苦難にぶつかったここ
一番で発揮されて初めて成長につながるものです。成長を遂げていくジャガたち。一方、物語には、ジャガたち以外にももう一人、正しさの基準を自分
自身の中心に据えた少年もでてきます。
物語の最後に弟カズシと面会するジャガ。ここも読みどころの一つです。
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