赤朽葉(あかくちば)家の伝説

RReturn to Jun-coo's LIBRARY

 


 01
24
■桜庭 一樹    東京創元社  2006    
      

「朽葉」とは、日本の古い色の名前です。平安時代には、紅葉などとも区別して落葉した葉を赤朽葉、黄朽 葉・・・ と豊かに呼びわけていたとのこと。個性を大まかに括ってしまわない伝統、そして、木々の生長の時代に合わせてその美しさを見分ける心が日本にあったことを 改めて思い出します。
「赤朽葉家の伝説」は、日本推理作家協会賞を受賞していますが、2007年の直木賞の候補作品となったほど、文学性に富んだ作品です。鳥取県の旧家・赤朽 葉家の屋敷を囲む自然の色が朽葉の色を想像させてくれます。そして、第一部が祖母・赤朽葉万葉の物語、第二部が母・赤朽葉毛毬の物語、そして、第三部が語 り手・赤朽葉瞳子の物語となっており、旧家の三大にわたる物語には、ちょうど日本の戦後史である高度成長期、バブル絶頂期、そして21世紀の現代の社会の 動きが随 所に現れ、それがそれぞれに個性をもつ登場人物たちの生き方に大きく影響していく様子が描かれています。伝統の製鉄技術をもつ赤朽葉家は製鉄所を経営して います。 山陰の小さな村・紅緑村に豊かな雇用を創出し、そのため旧家を導いていく女当主には重い責任が与えられます。時代の変化の中で失われていくもの、変わらな いものが 丁寧に書き分けられ、何よりも確固たる生き方でさえ時代の流れに打ち克てなかったり、逆に時代の流れの中でも貫かれるものがあることがみえてきます。数多 く登場する赤朽葉家の人々はそれぞれに個性的でそれぞれに与えられた運命を生きていく姿に魅力があります。
このように文学性に富みながら、ミステリーとしての瞳子の謎解きは、なんと235頁にようやく始まります。数多くの伏線をふまえてたどりつく真実は、旧家 の伝統を受 け継ぐことにプレッシャーを感じる瞳子の心に未来に向かって歩んでいく勇気を与えるものでした。「わたしたちは、その時代の人間としてしか生きられないの だろ う」。だからこそ、不器用にも運命を乗り越えていかなければならない、祖母や母の生き方から瞳子は未来に向かった生き方を学んでいきます。

Jun-coo's LIBRARY