大統領のクリスマス・ツリー

RReturn to Jun-coo's LIBRARY

 


 01
22
■鷺沢 萠    講談社文庫  1996  (初版:講談社1994)    
      

大好きな作家の一人ですが、残念ながら2004年に35歳の若さで生命を絶ちました。とても残念です・・・。最 近、亡くなっ てか ら初めて読み直しました。
この『大統領のクリスマス・ツリー』は映画化もされていますが、やはり原作には及ばなかったようです。ワシントンDCで出会い、苦難を乗り越えて順調に夢 を叶えていった主人公・香子(きょうこ)と夫・治貴(はるき)。この物語は、もう途中から結末を予想でき、そこへ向かう読み手の心の痛さをあがなうことな く、残酷な結末へと向かっていきます。ネタバレしてしまいましたが、この作品の一番の読み応えは、そこへ向かうプロセスのもつ意味であり、香子にとって、 結末の迎え方そのものが重要だからです。夢やぶれざるをえないとき、夢に向かって生きた生き方そのものを否定してしまったら、これからを強く生きることが できない。この物語は、母・香子が誇りをもって自らの生き方を娘・有香に語り継いでいる物語です。
「心を強くしなければいけない。毎日毎日、自分で自分にそう言い聞かせてきた。心を強くしなければいけない。強い(こわい)心と強い(つよい)心は
違う。そんなことも考えた。心に傷を受けて生々しい傷口をふさごうとすれば心は強く(こわく)なってしまうかもしれないが、丹念に丹念に手あてをすれば強 い(つよい)心をつくれるはずだ」。感涙のラストシーンに向かって、治貴と出会うことで、そんな強い心を香子が勝ち取っていった成長への賛歌といえる作品 で す。



Jun-coo's LIBRARY