古道具 中野商店

RReturn to Jun-coo's LIBRARY

 


 01
21
■川上弘美    新潮文庫  2008  (初版:新潮社2005)    
      

谷崎潤一郎賞を受賞した『センセイの鞄』も持っています。川上さんの作品は、文学だなぁと感じさせられます。『センセイの鞄』に劣らず、この作品を優れていると感じ るのは、たぶん共感しやすいじれったさかもしれません。『古道具 中野商店』は、東京近郊の小さな古道具屋でアルバイトするヒトミさん、 ちょっと抜けてる店主の中野さん、しっかり者の中野さんの姉・マサヨさん、そして、口数の少ない同僚・タケオくんの4人を中心とした物語です。時折、携帯 やインターネットオークション、派遣という言葉が出てきてようやく、あぁ、現代の話なんだなと思い出されるほどに、まるで昭和の趣きがたっぷりななつかし い文学です。『センセイの鞄』と同様に、世代を超えた人間関係。世代を超えた友情は同じ目線のものとして描かれつつ、時折、マサヨさんがヒトミさんに向け て放つ言葉には人生の先輩の鋭さが垣間見れます。そして、何よりもこの作品では、相手を失ってみないと、「世界でいちばん愛している」ということを自ら納 得して表現できない不器用な生き方がテーマになっています。不器用だから、お互いにふみこめず、気がついたら傷つけあってしまっている。文学的な情緒たっ ぷりに、「人を愛すること」を見事に書き切っています。美しいなと思います。そんな不器用な人たちの物語ですが、ラストシーンにはじーんときつつ、思わず ほのぼのと笑わされてしまいました。


Jun-coo's LIBRARY