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■ダニエル・デフォー 吉田健一訳 新潮文庫 1951
(原作:1719)
18世紀末の作品ですから、もうゆうに200年以上読み継がれてきている作品です。子どもの頃、読んだときにはも
ちろん冒険小説として楽しみました。改めて読んだのは、社会人になってからです。大人の視点でこの作品を読んだとき、当時のキリスト教や資本主義の世界観
が色濃い作品であることに気づかされます。とはいっても、英国での実話をもとにしたこの作品。ロビンソン・クルーソーが28年間を無人島で過ごす物語は、
絶望という環境を与えられたときに生き延びていくすべを心理的にあますところなく描いている作品という点では、現代社会の生き方にも通じるところがありま
す。
「凡て悪いことは、それに伴っていいこと、更に悪いことを勘定に入れて考えるべきなのだ」「兎に角私はこれによって、どんなに惨めな境遇でも、何かそこに
は積極的な、或いは消極的な面で、有難く思っていいこととがあるという事実を明らかにすることが出来た。そして私自身が経験したような、最悪の境遇でも、
そこには何か我々を慰めて呉れていいこと悪いことの貸借表の中で、貸方の方に記入すべきことが必ず見出せるのである」。究極的には貸借対照表まで登場し、
凡ての事象を自らの損得で前向きに捉えていこうというところが、とても利己主義的ですが、考えてみると、無人島という世界で内面に向き合い、自らの心の健
康を保とうとするときには当然の帰結かもしれません。コップの水が半分だけあるときに、「もう半分しかない」と思うか、「まだ半分ある」と思うかがで自ら
の内面を通じた世界が大きく異なるといわれます。そんなことをこの作品を読んだときに、印象深く感じたのを覚えています。
ちなみに、新潮文庫版の訳者の吉田健一氏は、吉田茂首相の息子です。
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