塩狩峠

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■三浦綾子    新潮文庫  1973   (初版:1968  新潮社)    
      

「一粒の麦もし地に落ちて死なずば、ただ一つにてあらん、 死なば多くの実を結ぶべし」。ジッドの小説にも『一粒の麦もし死なずば』というのがありますが、聖書の学習をきちんとしたことがないので、本来の意味は、 よく理解していません。この言葉は、 『塩狩峠』の冒頭に記されており、物語を通じたテーマとなっています。この世に受けた生をいかに生き、生きた意味は多くの実となり 残さなければならない・・・。これはなかなか厳しい。
ほぼネタばれになりますが、小説『塩狩峠』は、実話の鉄道事故をモチーフにしています。明治42年、北海道旭川の塩狩峠を暴走した機関車を当時の国鉄職 員・長野政雄氏が 身を呈して止 めて殉職し、多くの乗客を救ったという事故です。この小説は、彼をモチーフにしてますが、その彼と彼の周りにいる人たちの物語が合わせて描かれています。結納の日、塩狩峠を通過する主人公・永野信夫。彼を待つ人のことを想うと、クライマックスは目を覆いたくなる哀しみがあります。事 故後の周りの人々の心理も丁寧に描かれていますが、実際にあった国鉄職員・長野政雄氏の場合はどうだったのか、と思いを馳せ、胸がしめつけられます。そし て、これと 同じような出来事は、哀しくも現代でもあります。
故・三浦綾子は、ほぼ全作品を読んでいる作家の一人です。脊椎カリエスなどの病を乗り越えてきたクリスチャンの女性作家で、贖罪をテーマにした『氷点』な ど、重厚な作品が少なくありません。
重い運命を背負った主人公たちがその生を強く全うしていく物語が数多く残されています。


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