ぼくの大好きな青髭

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■庄司薫    中公文庫  1980       (初版:1977 中央公論社刊)      

「赤頭巾ちゃん気をつけて」で芥川賞を受賞した庄司薫。東京大学在学中に発表した作品を酷評した三島由紀夫も、そ の「赤頭巾・・・」では絶賛を贈ったそうです。この「赤頭巾・・・」をはじめ、「さよなら怪傑黒頭巾」「白鳥の歌なんか聞えない」「ぼくの大好きな青髭」 が、日比谷高校に通う薫クンを主人公にした薫クンシリーズです。「ぼくの大好きな青髭」は、その完結編に当たります。赤、黒、白、青。とくれば、南・朱雀 (赤)、北・玄武(黒)、西・白虎(白)・東・青龍(青)の四神を連想します。東といえば、日の出の方角。東を最後にもってきたか、なるほど・・・と感じ させられます。つまり、シリーズ完結編にふさわしく、「困惑」の若さをテーマにする中で、シリーズで最も前向きな作品です。
薫クンシリーズは、学生時代にうちの相棒から教えてもらってはまったシリーズです。特にこの「青髭・・・」は、新宿を舞台にしていて、大好きなラストシー ンと同じ景色を見たいと思い、当時、同じ時間、同じ場所を訪れました。新宿御苑なんですが、ちなみに、ラストシーンの同じ時間、同じ場所は、結構、行くの が困難です。
物語は、自殺未遂した高橋君をめぐる背景を薫クンが訪ね歩くというものです。「他者救済」を願う情熱は、玉砕を恐れぬエネルギーを秘めた短期決戦。そし て、大多数の情熱は一瞬に燃え尽きてしまいます。ラストシーンで薫クンは、「青髭」を見上げながら大切な相棒の由美に問いかけます。「この青髭を 好きになるなんておれに出来ると思うかい?」。その答えに、薫クンと一緒に思わず涙した覚えがあります。「短期決戦」以上に困難なのは、「持久戦」に賭け ること。サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』のホールディングが薫ク ン、妹・フィービィが由美にみえてきます。
ちなみに、庄司薫さんは、ピアニストの中村紘子の旦那さんです。


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